アスピリンは、肥満の遺伝性大腸がんにおけるがん発症リスクを下げる
英国医療サービス(NHS)
2015年8月18日火曜日
「アスピリンを毎日服用すると、肥満している人での大腸がんリスクが大幅に減少する可能性がある」とDaily Mail紙が報道した。しかし、そのトップニュースは最新の本研究が一般の肥満者に関連するものではなかったことを明確に伝えていない。
実際には、リンチ症候群として知られる希少な遺伝性疾患により大腸がんのリスクが高い人々に関連している。その疾患を有する人々の大半が、成人期のある時点で大腸がんを発症する。
本研究の主要な知見は、過体重または肥満が大腸がんのリスクのさらなる増加と関連しているということである。しかしながら、本研究では、体格指数(BMI)がアスピリン服用者の大腸がんリスクに影響することがなかったことも明らかにした。これは、アスピリンがリンチ症候群を有する肥満者のリスクを通常に戻す可能性があることを示していた。
しかしながら、本試験はリンチ症候群ではない大多数の人々の典型ではない可能性がある。さらに、定期的なアスピリン長期使用と関連する胃腸出血などのリスクの可能性がある。これは、大腸がんを予防するためにアスピリンを服用している一般人のリスクが、ベネフィットよりも重要となる可能性があることを意味する。
健康体重になるか、または健康体重を維持することを目指しつつ、なおかつ健康的な食事を取り、定期的に運動して、喫煙はしないことが、大腸がんのリスクを減少させる一助となる。定期的なアスピリンの服用を開始する前に、まずかかりつけ医に相談する必要がある。
研究の出典
本研究は、ニューキャッスル大学およびその他の国際研究機関により実施された。
研究助成については英国医学研究審議会、キャンサーリサーチUK、欧州委員会(EU)、オーストラリアのビクトリア州がん研究審議会、南アフリカ共和国の産業技術および人材計画、およびフィンランドのシグリッド・ユスリウス財団ならびにフィンランド癌研究財団から受けている。
バイエルおよびナショナルスターチアンドケミカルからは本研究を実施するための試験薬とプラセボを無償で提供され、さらに寄付を受けた。
本研究についてはピアレビュー専門誌Journal of Clinical Oncology誌で発表され、Daily Mail、デイリーミラーおよびタイムズ各紙に掲載された。
各新聞のトップニュースでは、本研究で大腸がんリスクの増加がみられたのは希少な遺伝性疾患を有する人々のみであることが明確に伝えられなかった。これは、遺伝性疾患を有しない人々にとっては得られた知見が直接関連しているとは言えない可能性がある。
本研究の主な焦点はリンチ症候群を有する過体重または肥満の人々に及ぼす影響への評価であるが、各新聞の焦点はアスピリン投与の結果に焦点を当てていた。しかしながら、各新聞の報道には、医師への事前の相談なしに自己処方することのリスクについての有益なアドバイスが含まれていた。
研究の種類
一般の人々では、過体重または肥満は大腸がんのリスク増加に関連している。本研究では、リンチ症候群を有する人々が過体重または肥満になることで大腸がんのリスクに影響するかどうかを評価した。その有病率の推定は、660人中1人から2000人に1人までと幅があった。
遺伝性非ポリポーシス大腸がん(HNPCC)としても知られるこの疾患では、大腸がんのリスクが非常に増加する。その大半の人々は遺伝子変異の保有により、成人期のある時点で大腸がんを発症する。このため、この疾患の人々の中には、リスク軽減のため大腸を全部または一部切除する予防治療を受ける人々もある。
本研究は、リンチ症候群の人々を対象としたランダム化比較試験のデータを解析したもので、試験(試験名:CAPP2)では、定期的にアスピリンの服用、または消化に対する抵抗性を有するでんぷん(難消化性でんぷん)の服用が、リンチ症候群の人々の大腸がんリスクを低下させるかどうかを評価した。
本試験の全体的な結果はすでに発表されているが、定期的なアスピリンの服用が大腸がんのリスクを低下させることが明らかになった。これらの結果は Behind the Headlines で2011年に解析されている。
研究者らは、本試験で過体重または肥満であることが大腸がんのリスクに影響するかどうかを、標準体重の人と比較検討することを目的とした。
研究内容
本ランダム化比較試験では、リンチ症候群の人々をそれぞれアスピリン600mg、難消化性でんぷん30g、その両方、またはプラセボを毎日、最長4年間(平均約2年)服用する各群に、無作為に割り付けた。試験参加者は最長10年間(平均で4.6年)大腸がんが発現したかどうか追跡調査された。
本試験参加者の平均年齢は44.9歳で、本試験に登録する前に全大腸を切除することなく大腸のがん組織を取り除いた人々が参加した。本試験の開始時に、試験参加者のBMIを測定した。34%が過体重(BMIは25~29.99)で、15%が肥満(BMIは30以上)であった。BMIデータを本試験の参加者全員から入手することは必ずしも可能ではなかった。
今回の解析で、研究者らは大腸の非悪性腫瘍が発現するリスクまたは大腸がんになるリスクを、BMIが異なる試験参加者で比較した。
これらの解析は、年齢、性別、治療内容(アスピリンまたは難消化性でんぷん)、居住地域、および、いずれの遺伝子変異が疾患を引き起こしているのかによって補正された。
また研究者はアスピリンの服用による大腸がん発現のリスクに対する効果がBMIにより影響されるかについても検討した。
結果
約6%の試験参加者は追跡調査中に大腸がんを発症した。肥満者は標準体重者または低体重者と比較して、大腸がんを発症する傾向が2倍以上であった(ハザード比[HR] 2.34、95%信頼区間1.17~4.67)。過体重者にはリスクの微増があったが、統計学的有意差は示されなかった(HR 1.09、95%信頼区間0.57~2.11)。
それぞれ異なる治療を受けている各群を解析したところ、プラセボの投与を受けていた試験参加者にはBMIの増加と大腸がんリスク増加の関連性がみられたが、アスピリンの投与を受けていた試験参加者には関連がみられなかったことが明らかになった。
・全体的に、BMIの増加ごとに大腸がんリスクとの関連が7%増加した(HR 1.07、95%信頼区間1.02~1.13)。
・プラセボ投与群では、BMIの増加ごとに大腸がんリスクとの関連が10%増加した(HR 1.10、95%信頼区間1.03~1.17)。
・アスピリン投与群では、BMIが増加しても大腸がんのリスク増加の関連性について統計学的有意差はなかった(HR 1.00、 95%信頼区間0.90~1.12)。
結果の解釈
研究者らは、リンチ症候群を有する人の大腸がんのリスクは肥満により増加するが、アスピリンはこのリスクを低減させると結論した。研究者らは、リンチ症候群の人々は、定期的にアスピリンを服用することと同様、肥満を防ぐことによりベネフィットを受ける可能性があると述べた。
結論
本研究は、アスピリンの定期的な投与が大腸がん発現のリスク増加にさらされている遺伝性疾患であるリンチ症候群(HNPCC)を有する人々での、大腸がん発現リスクを減少させることを明らかにした先行試験に続く試験研究である。本研究では、この疾患を有する人々が肥満になることに伴う、大腸がんリスクのさらなる増加を解明した。
さらにまた、アスピリンの投与を受けた人々については、BMIが大腸がんのリスクに影響しなかったことも明確になった。これはBMIの影響がアスピリンによって取り除かれることを示す可能性がある一方、理想的には、異なるBMIでのアスピリン群対プラセボ群の比較が、さらに評価される必要がある。本試験の各BMIカテゴリーに分類された参加者数は、効果を統計学的に解析するのに十分ではなかった。
しかしながら、本試験は定期的にアスピリンを服用していた一般の肥満者に生じうることの典型を示しているとは言えない可能性がある。本試験の参加者では、リンチ症候群の疾患により大腸がんの発現リスクが高く、肥満によりさらにリスクの増加が明確となった。
アスピリンの服用が一般人のリスクを減少させたとしても、リンチ症候群を有する人々と同様のベネフィットは得られない可能性がある。また、アスピリンと関連する消化管出血のリスク増加などのリスクの可能性は、ベネフィットよりも重要となる可能性がある。
過体重または肥満が大腸がんのリスク増加と関連しており、また他の健康上のリスクをもたらすことは広く知られている。健康体重になる、あるいは健康体重を維持すること、食物繊維を十分に摂取するなどの健康的な食事を摂り、定期的に運動し、喫煙しないことが大腸がんのリスクを低下させる一助となる。かかりつけ医または主治医との相談なしに、定期的なアスピリンの服用を開始してはならない。
Analysis by Bazian. Edited by NHS Choices. Follow NHS Choices on Twitter. Join the Healthy Evidence forum.
【図の説明】
アスピリンの長期使用は副作用が発現する可能性がある。
【囲み記事】
大腸がん検診について 現在、英国ではNHS大腸がん検診は、かかりつけ医によって登録された60~74歳の人全員に提供されている。
原文掲載日
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