OncoLog 2015年3月号◆転移を有する大腸がん患者に対して原発巣切除術は必要以上に行われていると考えられる

MDアンダーソン OncoLog 2015年3月号(Volume 60 / Number 3)

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転移を有する大腸がん患者に対して原発巣切除術は必要以上に行われていると考えられる

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの新しい研究結果によると、ステージIVの大腸がんと診断された新規患者に対して原発巣切除術は必要以上に行われていると考えられる。

後ろ向き集団ベース研究から、ステージIVの大腸がんと診断された患者に対する原発巣切除術の年間施行率が1988年から2010年の間で著しく減少し、特に新規抗がん剤が市販化された2000年代初頭に最大の減少率を示したことが判明した。また、ほぼ同期間内で患者の生存率が上昇したことも研究から判明した。

原発巣切除術の役割

大腸がんと診断された新規患者の約5人に1人は遠隔転移を有している。受診時に転移を有している患者の場合、腸閉塞や著しい出血、穿孔など原発巣関連症状が存在すれば原発巣切除術が適用となる。また、原発巣切除術は、ごく少数であるが原発巣と遠隔転移巣の双方の根治切除が可能と考えられる患者に適用される。

しかし、患者の大半は受診時に無症候であり、そうした患者に対する原発巣切除術の役割はさほど明確でない。全米総合がんセンターネットワークは、原発巣による閉塞がなく転移巣切除ができない転移性大腸がん患者に対しては、原発巣切除術を行わない全身化学療法を推奨している。ごく少数の限られた患者集団は、化学療法中の原発巣関連症状を予防する手段として切除術が有効である。だが、非根治的な原発巣切除術は合併症率で30%、死亡率で10%も生じうる。また、進行性大腸がん患者の多くに対しては、非根治的な原発巣切除術によって実は生存期間の面で恩恵のある全身療法ができなくなったり、開始が先延ばしになることがある。

「ベバシズマブなどの生物製剤を用いた化学療法も、転移性がん患者に対して行うのは安全だとわかっています。ですが、原発巣関連合併症に対する懸念が根強いことや、切除術が生存率に関わると信じる医師もいるため、原発巣切除術に関する議論がいまだに存在しているのです」と、研究の責任著者であり当センター腫瘍外科学および医療サービス学の准教授であるGeorge J. Chang医学修士は語る。「われわれの研究の目的は、原発巣切除術を受けたステージIV患者の割合の全国的傾向を調べることで、日常の現場における転移性大腸がん患者に対する原発巣切除術の施行を評価することです」。

新薬が変化をもたらす

Chang医師と研究班は、米国国立癌研究所(NCI)のSEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results)データベースを利用し、1988年から2010年の間に転移性大腸がんと診断された患者64,000人超を特定した。患者の約3分の2(67.4%)は原発巣切除術を受けた。切除術の施行率上昇に関連した要因には、女性、50歳未満、既婚者、また結腸がん(直腸がんは含まれない)やがん細胞の悪性度が高いことなどのがん関連要因がある。

研究班の調査から、原発巣切除術の年間施行率が1988年から2010年の間に74.5%から57.4%と17%減少したことが分かった。最も急激な減少がみられたのは2001年以降で、この年は米国食品医薬品局(FDA)が各種の全身化学療法と生物学的療法を同時期に承認した年である。承認された医薬品にはイリノテカン、オキサリプラチン、カペシタビン、ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブがあるが、こうした医薬品はフルオロウラシルおよび葉酸製剤と併用あるいは併用無しでファースト、セカンド、もしくはサードラインとしてがん治療に用いられる。これらの医薬品により生存期間が延長し、原発巣関連合併症の発生率低下と関連することがわかった。また、これらの医薬品は潜在的根治切除術が行えるようborderline resectable癌(切除不可能から可能な癌へ)を縮小するためにも使用される。

「われわれの研究結果から、無処置のがん患者に対して化学療法が安全に投与できるということがますます認識されたのです」とChang医師は語る。

また研究により、調査対象期間内で原発巣切除術の年間施行率が減少したにもかかわらず、患者の5年相対生存率の中央値はこの期間内で1988年の8.6%から2009年の17.8%に向上したことが分かった(2010年の生存率データはなし)。

「原発巣切除術を受ける患者は減少していますが、転移性がんと診断された患者の多くは依然として切除術を受けているのです」とChang医師は語る。「直腸がんではなく結腸がんを患う比較的若い患者が原発巣切除術を受ける割合が高いという調査結果と合わせると、原発巣切除術の施行は必要以上に行われており、また切除術の適用に対しては熟考すべきだということが、このことから考えられます」。研究はJAMA Surgery誌1月号に掲載されている。

For more information, contact Dr. George J. Chang at 713-792-6940.

【グラフキャプション訳】
ジョインポイント回帰分析から、原発巣切除術の施行率と転移性大腸がん患者の相対的生存率の中央値に有意な変化がみられた(P < 0.001)。Hu CY, et al. JAMA Surg. 2015. doi: 10.1001/jamasurg. 2014.2253. から引用

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翻訳担当者 渋谷武道

監修 畑 啓昭(消化器外科/京都医療センター)

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