大腸がんにエンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6療法は奏効率を大幅に改善

BREAKWATER試験結果

第3相BREAKWATER試験では、BRAF V600E変異型転移性大腸がん(mCRC)患者の一次治療として、エンコラフェニブ(販売名:ビラフトビ)+セツキシマブ(販売名:アービタックス)+mFOLFOX6療法(使用薬剤:フルオロウラシル+レボホリナート+オキサリプラチン)併用と標準治療を比較した盲検独立中央判定により、客観的奏効率(ORR)において統計学的有意かつ臨床的重要な有用性が示され、2つの主要評価項目の1つが達成された。
 
無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)の成熟されたデータについて、事前解析が計画されている。この研究結果は、2025年度ASCO消化器がんシンポジウムで発表され、同時に、米国テキサス州ヒューストンにあるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのScott Kopetz医師らによって2025年1月25日にNature Medicine誌に発表された。

Scott Kopetz医師らは、BRAF V600E変異は転移大腸がん(mCRC)の8~12%に発生すると背景に述べている。これらの変異は明確なサブタイプとして現れ、その特徴は野生型疾患と比較した場合の予後不良および標準的な化学療法レジメンに対する耐性である。エンコラフェニブ+セツキシマブ併用は、BEACON試験の結果に基づき、治療歴のあるBRAF V600E変異型転移大腸がんに対して承認されている。しかし、現在、BRAF V600E変異型転移大腸がん患者に適応される活性化経路を標的とした一次治療はない。
 
BREAKWATERは第3相試験であり、BRAF V600E変異型転移性大腸がん患者の一次治療として、エンコラフェニブ+セツキシマブ±標準的なmFOLFOX6療法併用と、ベバシズマブの有無を問わず治験担当医師が選択した化学療法である標準治療を比較評価した。安全性導入期のデータから、エンコラフェニブ+セツキシマブ+化学療法(mFOLFOX6療法またはFOLFIRI療法[使用薬剤:ロイコボリン+フルオロウラシル+イリノテカン])併用の有望な奏効率と無増悪生存期間(PFS)が示された。
 
本研究チームは、Nature Medicine誌に掲載された論文で、第3相試験のエンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6療法群およびSOC群について、2つの主要評価項目の1つである客観的奏効率(ORR)と、全生存期間(OS)、奏効期間(DoR)、奏効までの時間、安全性に関する初回中間解析を報告した。
 
2つの主要評価項目のうちの2つ目である無増悪生存期間(PFS)はイベント主導型であり、分析に必要なイベント数はまだ達成されておらず、後日報告される。未報告であるが追加予定の副次評価項目は、次治療後の疾患進行、患者報告型アウトカム、薬物動態、およびバイオマーカー評価項目である。
 
BREAKWATER試験は、2つの主要評価項目の1つである奏効率を達成し、エンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6療法による奏効率は60.9%で有意かつ臨床的に意義のある改善を示した(標準治療の奏効率は40.0%)(オッズ比2.443、95%信頼区間[CI]1.403-4.253、99.8% CI 1.019-5.855、片側p = 0.0008)。
 
奏効期間(DoR)の中央値は13.9カ月対11.1カ月であった。奏効期間(DoR)が6カ月または12カ月を超える患者の割合は、エンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6療法群では標準治療群の約2倍であった。
 
この初回全生存期間(OS)中間解析では、ハザード比は0.47(95% CI 0.318~0.691、反復CI 0.166~1.322)であった。ただし、この初回中間解析のデータカットオフ時点で、エンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6療法群の16.9%と標準治療(SOC)群の29.6%にイベントが発生し、事前に規定された統計的有意性を達成しなかった。
 
重篤な有害事象の発生率は、37.7%対34.6%であった。安全性プロファイルは、各薬剤で知られているものと一致していた。エンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6療法群の患者は、治療期間が長く、高い相対用量強度を維持した。化学療法にエンコラフェニブ+セツキシマブを追加しても、化学療法の用量減量や投与中止は大幅に増加することなく、全般的に忍容性は良好であった。
 
BREAKWATERは現在進行中であり、治験実施計画書で規定された必要数のイベントが発生すると、2つの主要評価項目のもう1つである無増悪生存期間(PFS)の主要分析が実施され、その後報告される予定である。BREAKWATER試験の今後のバイオマーカー分析で、化学療法+標的療法の併用と化学療法または標的療法の単独を比較することにより、耐性の機序が明らかになるかもしれない。
 
Scott Kopetz医師らは、BREAKWATER試験では、既存の病状のために免疫チェックポイント阻害剤投与が受けられない場合を除き、MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)またはdMMR(ミスマッチ修復機能欠損)腫瘍の患者は除外したと述べている。ペムブロリズマブ(キイトルーダ)は、MSI-HまたはdMMRの転移大腸がんに対する一次治療として臨床的有用性が示されている。SEAMARKは進行中の第2相試験であり、BRAF V600E変異、MSI-H/dMMR転移大腸がん患者を対象に、一次治療としてのエンコラフェニブ+セツキシマブ併用とペムブロリズマブ単独を比較している。
 
第3相BREAKWATER試験では、エンコラフェニブ+セツキシマブとmFOLFOX6療法の併用のみを調査した。安全性導入期では、少数の患者を対象に、エンコラフェニブ+セツキシマブとmFOLFOX6療法またはFOLFIRI療法の併用を評価し、有望な結果が示された。BREAKWATERでは、進行中の第3コホートにおいて、エンコラフェニブ+セツキシマブ+FOLFIRI療法とベバシズマブの有無を問わないFOLFIRI療法についてさらに評価している。
 
Scott Kopetz医師らは、BREAKWATERにてBRAF V600E変異型転移大腸がん患者に対する一次治療としてのエンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6療法併用により臨床的有用性が大幅に改善されたと結論付けた。これらの有望なデータは、このレジメンがBRAF V600E変異型転移大腸がん患者に対する新たな標準治療となる可能性を支持している。
 
参考文献
 
Abstract 16: Kopetz S, Yoshino T, Van Cutsem E, et al. BREAKWATER: Analysis of first-line encorafenib + cetuximab + chemotherapy in BRAF V600E-mutant metastatic colorectal cancer. 2025 ASCO GI Cancer Symposium; 23-25 January 2025, San Francisco, CA, USA.
Kopetz S, Yoshino T, Van Cutsem E, et al. Encorafenib, cetuximab and chemotherapy in BRAF-mutant colorectal cancer: a randomized phase 3 trial. Nature Medicine; Published online 25 January 2025. DOI: https://doi.org/10.1038/s41591-024-03443-3

  • 監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)
  • 記事担当者 仲里芳子
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  • 原文掲載日 2025/02/17

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