直腸癌患者の一部は手術不要の可能性 – 化学放射線療法に加え「経過観察」することは安全で、より優れた生活の質につながる可能性がある

ASCOの見解
「たとえば人工肛門造設術などの手術を回避することによって、患者の生活の質を著しく向上させる可能性があります。しかし、このアプローチが癌の再発率を高めることにならないことを確かめるため、より長期にわたる経過観察が必要です。この重要な問題を評価する、米国で実施される前向き研究に参加する患者を、現在登録中です」と、本日の報道会見の司会者であり、ASCOの専門家であるSmitha S. Krishnamurthi医師は述べた。

ステージIからステージIIIの直腸癌患者145人を対象にした、臨床データの後ろ向きレビューにおいて、化学放射線療法と全身化学療法での治療後に腫瘍が完全に消失した(完全寛解と呼ばれる)患者は、その後直ちに手術を受けた場合と、「経過観察」による監視を続けた場合のいずれにおいても、4年生存率は同等であることが示された。この研究結果は、一部の選ばれた直腸癌患者においては、初回の化学療法と放射線療法の後に、頻繁な経過観察を行うことにより、直腸手術のリスクや合併症を回避しつつ優れた予後が得られることを示す、増えつつあるエビデンスを補強するものである。本研究は、近日サンフランシスコで開催される2015消化器癌シンポジウムにおいて発表される。

「われわれの研究結果は、臨床的に完全寛解が得られた患者のうち少なくとも一部に対しては、即時に直腸手術を行う代わりに、経過観察のアプローチを検討するよう、より多くの医師に働きかけるものであると信じます」と、本研究の上級著者であり、ニューヨーク州ニューヨーク市にあるスローンケタリング記念がんセンターの腫瘍外科医である、Philip Paty医師は語った。「私自身の経験上、ほとんどの患者は、大手術を回避し直腸機能を温存できることを期待して、直腸手術を保留することに付随する多少のリスクを進んで受け入れようとします」。

ステージIの直腸癌患者の40~50%および、ステージIIからステージIIIの直腸癌患者の30~40%において、化学放射線療法と全身化学療法による初回治療の後、腫瘍は臨床的に消失すると、Paty医師は述べた。このような患者が、経過観察のアプローチの潜在的な候補者であると、同医師は提案する。直腸手術を回避することで、生活の質を大幅に低下させる可能性のある腸管機能障害や性機能障害を含む種々のリスクから、患者は解放される。

本報告で、研究者らは、スローンケタリング記念がんセンターにおいて2006年から2014年にかけて収集されたデータの後ろ向き解析を行った。放射線療法と化学療法(術前化学療法)を受けたステージI~IIIの直腸癌患者で、腫瘍の完全消失が認められた患者は、その後、注意深い経過観察(非手術的管理)を続けるか、直腸手術を受けた。注意深い経過観察のアプローチをとった患者は、初めは、3~4カ月おきの直腸指診と内視鏡検査に加え、6カ月おきの断層撮影で経過観察を続けた。本報告の追跡期間中央値は、3.3年である。

化学療法と放射線療法の後、臨床的完全寛解(理学検査、内視鏡検査、または画像検査で癌が検出されないこと)を達成した73人の患者において、直腸手術が保留された。これらの患者73人のうち、74%に持続的な腫瘍消失が認められ、直腸手術を回避できた。残りの26%は、腫瘍再増殖の治療のため、最終的に直腸手術を受けた。

非ランダム化比較で研究者らは、この群の患者の予後は、標準の直腸手術を受け病理学的完全寛解(手術で採取した組織の顕微鏡検査で、生きた癌細胞がみられない状態)を達成した患者72人の予後と同等であることを見出した。4年全生存率は、手術なし群の91%に対して、標準の手術あり群では95%であった。両群間で、遠隔再発の数に有意差は認められなかった。

著者らによると、これはこの種のなかでは最大級の実績の1つで、ブラジルおよびオランダで行われた研究で得られた以前のエビデンスを補強するものである。直腸手術の非手術的管理は、標準の選択肢として、次第に世界中で受け入れられている。前向き第2相試験への患者の登録が全米20箇所の医療機関において最近開始され、初回の化学療法と放射線療法の後、腫瘍が完全に消失した患者への非手術的管理が提示される予定である。

翻訳担当者 星野恭子

監修 榎本裕(泌尿器科/三井記念病院)

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