炎症性腸疾患(IBD)患者の大腸がんリスクをDNA検査が予測
ロンドンの英国がん研究所(ICR)の科学者らの研究によると、新しいDNA検査法によって、炎症性腸疾患(IBD)患者のうち大腸がんのリスクが最も高い人を特定できることが判明した。
研究チームは現在、クローン病や潰瘍性大腸炎、その他の炎症性腸疾患に関連する大腸がんの発見と予防の方法を改善するために、医師が使用できる検査にこの技術を発展させようとしている。
また、このアプローチにより、炎症性腸疾患の患者ががんのリスクを低減または監視するために手術や定期的な大腸内視鏡検査を必要とすることが少なくなるはずである。
炎症性腸疾患(IBD)と大腸がんの関連性を理解する
英国では約50万人が炎症性腸疾患(IBD)に罹患している。最も一般的なのはクローン病と潰瘍性大腸炎です。
これらの病気は腸の内壁を刺激するため、異常な前がん細胞が形成されることがある。
これらの異常細胞を持つ約10人に3人が、10年以内に大腸がんを発症する。この研究が行われるまでは、その10人に3人が誰なのかを知る良い方法はなかった。
そこで研究チームは、英国の大腸専門病院であるセントマークス病院の医師と協力して、より正確な予測を立てるための手がかりを探した。異なるサンプルのDNAの変化を比較することによって、遺伝子(特定の仕事をするDNAの短い部分)のコピーをたくさん獲得したり失ったりする前がん細胞は、大腸がんに発展する可能性がはるかに高いことを発見した。
研究チームはこの情報を用いて、前がん病変の腸細胞のDNA変化の正確なパターンに基づき、大腸がんのリスクを計算するアルゴリズムを作成した。
新しい研究(Gut誌に掲載)は、このアルゴリズムがどの前がん細胞が5年以内に大腸がんに発展するかを90%以上の精度で予測できることを示している。
次のステップは、この技術を病院で使用できる検査に発展させることである。
炎症性腸疾患(IBD)関連大腸がんを予防するためのより的を絞った方法
現在、炎症性腸疾患(IBD)による前がん病変(軽度異形成[LGD]として知られている)を持つすべての人は、大腸がんのリスクが高いと分類されている。
そのリスクを下げるには、人生を変えるような副作用を伴う腸切除手術か、侵襲的で時間がかかり、心配や不安を引き起こす大腸内視鏡検査による定期的なモニタリングの2つの選択肢がある。
「潰瘍性大腸炎やクローン病を患っていても、ほとんどの人は大腸がんになりません」と、新たな論文の統括著者であるTrevor Graham教授{英国がん研究所)は説明した。「しかし、これらの疾患を持ち、大腸に前がん病変の徴候がみられる人にとっては、厳しい決断を迫られることになります」。
「がんにならないことを祈って定期的に検査を受けるか、将来がんにならないように腸を切除するかのどちらかです。どちらも楽しい選択肢ではありません」。
この新しい検査が利用できるようになれば、炎症性腸疾患患者が難しい選択を迫られることは少なくなるはずです。また、手術とサーベイランスを比較検討する必要がある場合にも、より多くのガイダンスが得られることになる。
「私たちの検査とアルゴリズムは、炎症性腸疾患患者や治療をする医師が、がんリスクの管理方法について正しい判断を下せるよう、可能な限り最善の情報を提供します」とGraham氏は述べている。「私たちは、リスクの高い人を正確に特定し、他の多くの人々の不安を解消することができます」。
CraigとFarinaの話
ウォータールービルに住むCraig Fosterは、2024年2月に妻のFaribaを大腸がんで亡くした。歯科受付として働いていたFaribaは、18歳のときから潰瘍性大腸炎を患っており、その治療のために腸の4分の3を切除した。
「がんは容赦なく襲ってきます。誰であろうと、どんな人生を歩んできた人であろうと関係なく、誰もが何らかの形で影響を受けます」とCraigは言う。
「Faribaは約17年間、病院に行くこともほとんどなく、うまく病状をコントロールしてきましたが、ここ1年半、いくつかの問題を抱えていました。最終的に、医師は彼女の生活の質を改善するために腸を完全に切除することを決定し、彼女は昨年の夏に手術を受けました」。
「彼女は手術後の定期的な経過観察だと思って受診したのですが、ステージ3の大腸がんであるという衝撃的な知らせを聞かされたのです。腸の残りの部分を切除したときに病気が見つかり、検査で最悪の事態が確認されたと説明されました」。
「Faribaは診断を受けてからわずか半年で亡くなりました。短い間だったとはいえ、最悪の時でした」。
「このような研究は人命を救うでしょう。Faribaが経験したような状況を誰も経験しなくてすむように、今まさに研究に取り組んでいる科学者がいることを知ることは、私に安らぎを与えてくれます」。
ゲノムシーケンスの威力
この研究を実施するために、Graham氏のチームは122人の潰瘍性大腸炎患者から軽度異形成(LGD)の細胞のサンプルを採取し、DNAの変化を検査した。
参加者の約3分の1がその後5年間に大腸がんを発症した。ゲノムシーケンスの結果、彼らのサンプルの細胞はDNA中の遺伝子コピー数バリエーションがはるかに多いことが示された。
現在、研究チームが病院向けに開発している検査バージョンは、大腸内視鏡検査(LGDの同定とモニタリングに現在用いられている方法)で採取した組織サンプルのコピー数変化を調べるために、同じゲノムシーケンス法が使用される予定である。
シーケンスによる配列情報はチームのアルゴリズムに入力され、腫瘍の大きさ、生検時の除去のしやすさ、腸全体の炎症の程度といった他の情報とともに、特定のDNAの変化に基づいてリスクを計算する。
研究者らは、今後の研究で、より侵襲性の低い血液や便のサンプルを用いた検査法を開発したいと考えている。
キャンサーリサーチUKの見解
「大腸がんの治療は、早期に発見することでより高い効果が期待できます」と、Iain Foulkes博士(研究・イノベーション担当エグゼクティブディレクター)は述べている。「クローン病や大腸炎は大腸がんのリスクとして知られていますが、そのリスクは人によって大きく異なります。これまでは予防のために画一的なアプローチをとらざるを得ませんでした」。
「ゲノムシーケンスは今や、かつてないほど安価で普及しており、がんに対する私たちの見方を変えています。腫瘍DNAを完全に読み取るということは、ある人のがんがどのように始まり、時間の経過とともにどのように変化していく可能性があるかについて、より大きな全体像を見ることができるということです」。
「この研究により、本当にリスクの高い炎症性腸疾患患者の治療にリソースを集中させることができ、医療サービスの貴重な時間と費用を節約することができます。また、リスクの低い人たちに安心感を与え、将来大腸がんになるのではないかという不安を取り除くことができます」。
- 監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)
- 記事担当者 青山真佐枝
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- 原文掲載日 2025/01/30
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