大腸がんの治療指針に役立つAI検査

がんは治療が複雑で難しい病気であるが、がんを阻止する最も強力な手段の一つは私たちの中にあるもの、免疫系である。

この事実は、大腸がん(結腸直腸がん)において特に重要である。研究者たちは、特定の領域に免疫細胞が多い大腸腫瘍は、手術後に再発するリスクが低いことを発見した。これらの腫瘍がまるで体の防御機構に取り囲まれているかのようで、個々のがん細胞が外科医のメスから逃れるのは難しくなる。

近い将来、医師はこうした防御機構を利用する新たな方法を利用できるようになり、手術後の治療決定がはるかに容易になるであろう。当機関の研究者の一人が率いる専門家チームが、AI検査によってステージ2の大腸腫瘍の重要なCD3免疫細胞を分析し、がんの再発を防ぐための二次防御として化学療法をとりわけ必要とする患者を特定できることを見出した。

昨年、Journal of Clinical Oncology誌に掲載された本研究は、Innovate UK(英国の公的助成機関)からの助成金を受けて、国立病理画像協同組合(NPIC)によって実施された。

「これは、早期大腸がん患者が求める最も重要な検査になる可能性がある」と、代表研究者のChristopher Williams医師(リーズ大学医学部、Cancer Research UK Clinical Trials Research Fellow)は言う。

Williams氏は、大腸がん患者の治療を専門としており、経験に基づいて話す。

「手術後に化学療法を受けるべきかどうかは、患者と話をする中でも最も難しい内容の一つです」と言う。「そして、その話はステージ2の大腸がんの場合に最も難しい。というのも、治療で利益が得られる可能性が低いことをわれわれが知っているからです」。

ステージ2の大腸がんに対する適切な治療法の選択

1990年代から2000年代にかけて実施された、当機関のQUASAR試験により、大腸がん患者に対して手術後に化学療法を行うことで、より多くの患者が無がん状態をより長く維持できることがわかっている。

手術後の化学療法は、「助ける」という意味のラテン語にちなんで「アジュバント療法(補助化学療法)」とも呼ばれる。この名称は、この化学療法はがんを除去する外科医の補助として設計されているという考えを反映している。

しかし、ステージ2の大腸がんは、Williams氏のような医師にとって難しいグレーゾーンにある。すでに明らかな転移の徴候がみられるステージ3(末期)の大腸がんほど進行していない、つまり、がん細胞の一部は手術で取り切れずに残る可能性が高いということである。一方、ステージ1の大腸がんほど局所的ではない。ステージ1の場合、大腸の深層部までには増殖しておらず、補助療法が必要になることはほとんどない。

Williams氏は、ステージ2の大腸腫瘍を手術で切除した患者と話をするとき、患者は3つのグループのどれかに入ると説明する。大半はグループ1で、手術後にがん細胞が残っておらず、さらに化学療法を行っても効果はない。それ以外の患者は、残っているがん細胞を死滅させる化学療法を受けることになるグループ2、または、化学療法では除去できないがんが一部残っているグループ3に分類される。

これらのグループは明確に区別されるように思えるが、根本的な問題がまだ残っている。「現在、患者と話しているとき、または化学療法を行っているときでも、患者がこれら3つのグループのどれに入るかまったくわかりません」とWilliams氏は言う。

データに基づく決定

つまり、ステージ2の大腸がんの手術後に化学療法を受ける人の中には、理由もなく人生を中断し、困難になりそうな副作用に向き合わなければならない人もいるということである。現在利用できる手段では限界があるため、どのような人が該当するのかはまったくわからない。

「患者個人にとっては受け入れ難いことです」とWilliams氏は言う。「ですから、リスクをより正確に定義する助けとなるものはすべて本当に役立ちます」。

Williams氏が研究しているCD3検査はRoche Diagnostics社との共同開発によるもので、まさにそれを実現する。

Williams氏のチームは、QUASAR試験のデータを使用して、AIを利用した新たな検査では、がん再発の実際のリスクに基づいて患者を3つのグループに分類できることを示した。これは、腫瘍のさまざまな部分におけるCD3(およびCD8)T細胞の密度を評価および比較し、「CD3スコア」を生成することによって分類する。この研究では、CD3スコアから最もリスクの高いグループに分類された人は、最もリスクの低いグループと比べて手術後5年以内にがんが再発するリスクが3倍高いことが判明した。

Williams氏は、この情報を使って「治療を必要とする数値」を出し、補助化学療法が特定の患者をがんから守る可能性を示すことができると説明する。「これは理解しやすく、クリニックで患者に話すのも簡単です」と同氏は言う。「リスクに対する認識は人によって大きく異なるため、このような数字が本当に役立ちます」。

実際、治療を必要とする数値は、CD3スコアが非常に重要であるとWilliams氏が考える理由の大部分を占める。CD3スコアは、医師と患者が彼らの選択肢について話し合い、手術後に化学療法を使用するかどうかを各症例に応じて決定するために必要な具体的な情報を提示する。

言い換えれば、この検査によって得られる情報のおかげで、手術後に化学療法が必要となる可能性が非常に低い人の多くが、余分な治療に伴う副作用を避けつつ、がんのない状態を維持できるようになるはずである。

CD3スコアの背後にある科学 

CD3検査では、腫瘍から採取した2つのサンプルをデジタル画像に変換し、特別に訓練されたAIによって免疫細胞について分析する。  

Williams氏は、NHS全体で医師や患者に検査を普及させるために必要な証拠の大半はすでに揃っていると考えている。QUASAR 試験データセット (Williams氏と同様にリーズを拠点とする) は規模と詳細に関して十分であったため、チームはそれを別々のセグメントに分割して検査を定義付け、それが機能するかどうかを検証し、効果的に2つのプロジェクトを1つにまとめることができた。 

「この検査は厳格に評価され、2番目の患者群で繰り返し検査を行ったところ、信頼性があることが判明しました」とWilliams氏は説明する。「私たちが試験で得た証拠は、NHSがこの検査を採用する明確な根拠となっており、できるだけ早く患者に提供されることを期待しています」。 

人々の注目を集め始めている他のA​​Iとは異なり、CD3スコアは監視や理解も簡単である。これは、人が追跡できない方法で決定を下す「ブラック ボックス」ではない。

Williams氏は、これによって「監査可能」になると指摘する。つまり、他のハイテクまたはローテクのツールとまったく同様に、規制当局や医師が検査のAIを継続的にチェックして、正しく機能しているか確認できるのである。「AIは陽性とみなした細胞に陽性のラベルを付けます」と同氏は言う。「AIは厳重に監視されているため、その動作を監査し、確認することができます」。

大腸がん後の人生をより長く、より良く

したがって、CD3スコアは、AIを用いてがん治療の繊細な部分のストレスを軽減する方法になる可能性があるが、まだやるべきことが少々ある。QUASAR試験は、大腸がんの治療と生存率における最新の改善事項を反映していないため、今後の研究では、チームが得た知見をより最近のデータに適用し、治療が必要な数値を更新する必要がある。

これは本研究の限界ではあるが、かなりの朗報に注目を集めるのには役立つ。全体的に、われわれの統計によると、手術後の化学療法の使用などの進歩により、英国では10年以上生存する大腸がん患者の割合が、1970年代の10人中2人から2010年代には10人中ほぼ6人にまで上昇した。

現在、CD3検査のような革新的なツールやテクノロジーを利用すれば、生存だけでなく生活の質にも焦点を当てることができる。また、医療制度の運用において、治療を最も必要としている人々に貴重な時間、資金、リソースを集中させるのにも役立つ。
 
Williams氏によれば、大腸がん検査でのこの検査の利用は、まだ始まりに過ぎないという。 
 
「一部のがんは免疫系との関係が他のがんよりも強く、CD3検査はその関係の強さを定量化する方法です。したがって、他の腫瘍の種類でも関連する可能性があります」。

研究の背景

Christopher Williams博士は、英国で最も重要な大腸がん研究センターの一つとしての歴史があるリーズ大学で、大腸がんのバイオマーカーにおいて博士号を取得した。

QUASAR試験は、CD3スコアに使用されているようなAIを訓練および検証するために使用できる世界で唯一の研究である。その研究拠点であるリーズは、大腸がん化学療法試験FOxTROTの拠点でもある。

Williams氏は、がん臨床試験に関心を持つ医師を支援する当機関のClinical Trial Fellowshipを獲得した後、CD3スコア研究に取り組んだ。

「Clinical Trial Fellowshipは、特に私が関心を抱く大腸がんの後期臨床試験のスキルを伸ばす素晴らしい機会でした」とWilliams氏は言う。

「この経験により、独立した主任研究者として自分の臨床試験を実施するというキャリア展望に向けて心構えができました。それが私の目指すところです」。
  • 監修 高光恵美(生化学、遺伝子解析)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2025/01/27

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