アスピリンは一部の大腸がん患者の再発リスクを低下させる可能性

ASCOの見解(引用)

「『朝、アスピリンを2錠飲んでから電話して』という古い言い回しは、今や新たな意味を持つかもしれません。PI3Kシグナル伝達経路の遺伝子変異は大腸がん患者の3分の1にみられますが、その変異がある患者では低用量アスピリンという単純な介入により、大腸がん再発リスクが軽減されます」と、Pamela L. Kunz医師(イェール大学医学部)は述べる。

試験要旨

テーマPI3K経路の遺伝子変異陽性大腸がんの再発リスクを下げるための低用量アスピリン使用
対象者スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェーの患者626人
主な結果
PI3K経路ドライバー変異を有するステージI、II、IIIの直腸がん、またはステージII、IIIの結腸がんの患者において、3年間毎日160 mgのアスピリンを服用すると再発率が低下した。
意義毎年、世界中で約 200 万人が大腸がんと診断される。ステージ II および III と診断された患者の 20%~40%は遠隔転移を有する大腸がんとなるが、これは早期大腸がんよりも治療がはるかに難しく、致命的である。

非選択的コホート(バイオマーカーを調べていないコホート)に基づくこれまでの研究では、アスピリンが大腸がん患者の治療終了後の無病生存率を改善できることが示されている。

本試験は、大腸がんの約30%にみとめられる特定の遺伝子変異、PI3K経路変異を有する大腸がんの再発に対するアスピリンの影響を調べるために設計された。PI3Kシグナル伝達経路内で発生する変異は複数種ある。

遠隔転移のない大腸がん患者を対象とした初のバイオマーカーランダム化研究の1つによると、治療終了後にアスピリンを毎日160 mg服用すると、特定のPI3K経路遺伝子変異のあるがん患者のがん再発リスクを軽減できる可能性がある。これらの変異は多くの種類のがんに共通しており、大腸がんの約30%にみとめられる。本研究は、1月23日から25日までカリフォルニア州サンフランシスコで開催される2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO)消化器がんシンポジウムで発表される。

試験について

スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェーの33の病院において3,508人の患者が本試験の対象者となった。結腸がんのステージ II または III、あるいは直腸がんのステージ I、II、または IIIの患者を対象者とした。年齢の中央値は66歳で、患者の52%が女性であった。患者の大半が白人であった。

これらの患者のうち、1,103人にPI3K経路の遺伝子変異がみられた。これらの患者を臨床試験での治療のために2グループに分けた。

  • グループAは、エクソン9、エクソン20にPIK3CA変異がある患者
  • グループBは、エクソン9、エクソン20以外のPIK3CA変異、またはPIK3R1またはPTEN遺伝子の変異を含む他のPI3K変異がある患者

最終的に、626人の患者が試験を継続し、治療を受けた。そのうち419人が結腸がん、207人が直腸がんであった。グループAとグループBの患者を、3年間毎日160 mgのアスピリンを投与する群またはプラセボを投与する群のいずれかにランダムに割り付けた。

主な知見

両グループの患者において、アスピリンを服用した群では、プラセボ群と比較して3年間でがんが増殖したり変化したりする可能性が低かった。

  • グループAの患者では、プラセボと比較してがん再発リスクが 51%低下した。このグループの再発率は、アスピリン群で7.7%、プラセボ群で14.1%であった。
  • グループBの患者では、プラセボと比較してがん再発リスクが58%低下した。このグループの再発率は、アスピリン群で7.7%、プラセボ群で16.8%であった。

アスピリンの使用による利点は、PI3K経路のドライバー変異や変化の種類に関係なく、すべてのグループで確認された。グループA とグループBを合わせて、アスピリンを服用した患者は、プラセボを服用した患者よりもがん再発率が55%低下した。

著者らによると、この研究の結果は、大腸がんと診断された患者のうち、かなりの割合の人々の治療方法を直ちに変える可能性があるという。

「私たちは、大腸がん患者を対象として、広く使用され確立された、低リスクでコスト効率の高い薬剤の価値を研究し、実証しました。アスピリンは、これらの患者の3分の1以上で再発率を効果的に低下させ、無病生存率を向上させることが示されています」と、主任研究著者のAnna Martling医学博士(スウェーデン、ストックホルムのカロリンスカ研究所、分子医学・外科学教授)は述べる。「さらに、この研究は、精密医療の重要性と高度診断の使用に焦点を当てています。これらのツールによって、オーダーメイドの治療や、既存薬剤の新たな用途への利用が可能になります」。

低用量アスピリンを毎日服用した場合の重い副作用はまれであった。重度の胃腸出血が1件、脳出血が1件、アレルギー反応が1件あった。

次のステップ

研究者らは、性別や社会経済的地位の役割を含め、追加サブグループ分析を計画しながら、この試験中に収集されたデータを引き続き研究する予定である。

本研究は、スウェーデン研究評議会、スウェーデンがん協会、ALF(ストックホルム県議会とカロリンスカ研究所間の医療研修および臨床研究に関する地域協定)、およびストックホルムがん協会から資金提供を受けた。

アブストラクト全文はこちら(著者開示情報はアブストラクト内)

  • 監修 花岡秀樹(遺伝子解析/イルミナ株式会社)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2025/01/25

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