全RAS野生型患者を対象とするCALGB/SWOG 80405試験とFIRE-3(AIO KRK-0306)試験の結果
未治療のRAS野生型の遠隔転移を有する大腸癌患者を対象とする抗EGFR抗体または抗VEGF抗体での最適な治療戦略
議題:消化器癌/ 抗癌剤と生物学的療法
第39回欧州臨床腫瘍学会総会(スペイン、マドリッド)の特別発表で、未治療のRAS野生型の遠隔転移を有する大腸癌患者を対象とする抗EGFR抗体または抗VEGF抗体での最適な治療戦略の定義に関して、CALGB/SWOG 80405試験の研究者らは、全RAS野生型患者における全生存期間に関する待望の結果を発表した。一方、FIRE-3試験の研究者らは、最終的にRAS評価が可能な患者における客観的奏効率、早期腫瘍縮小、および効果の深さの独立画像評価を発表した。
Dirk Arnold医師はこの特別発表の司会を務めた。また、Doctors Andres Cervantes医師、Alberto Sobrero医師、およびFortunato Ciardiello医師はそのデータに関して議論した。
CALGB/SWOG 80405試験:未治療のRAS野生型の遠隔転移を有する大腸癌患者に対するFOLFIRI/mFOLFOX6+ベバシズマブとFOLFIRI/mFOLFOX6+セツキシマブ併用の第3相試験-拡大RAS解析
Heinz-Josef Lenz医師((米国、ロサンゼルスにある南カリフォルニア大学ノリス総合がんセンター腫瘍内科学部門)は、CALGB/SWOG 80405試験における拡大RAS解析の結果を発表した。本年すでに、CALGB/SWOG 80405試験の研究者らは、FOLFIRI+セツキシマブとmFOLFOX6+ベバシズマブは治療歴がないKRAS野生型(コドン12、13)の遠隔転移を有する大腸癌患者の全生存期間(OS)に関して同等であり、かつ、いずれのレジメンも初回治療として適切であるという結論と共に結果を発表した。OSが29カ月を越え、かつ、長期生存者が8%存在することにより、CALGB/SWOG 80405試験の進展を確証した。一方で、拡大RAS解析と他の分子・診療解析が特定のレジメンによる治療効果を享受できる、またはできない患者を特定することができると腫瘍専門医らは期待する。
初期のCALGB/SWOG 80405試験には、無選択の遠隔転移を有する大腸癌患者が参加した。参加患者は担当医が選択した化学療法(FOLFIRIまたはmFOLFOX6)を受け、セツキシマブ患者群、ベバシズマブ患者群、またはセツキシマブ+ベバシズマブ患者群のいずれかにランダムに割り付けられた(セツキシマブ+ベバシズマブ患者群は後に中止された)。1,420人が参加した後、KRAS野生型(コドン12、13)患者のみが参加するよう、CALGB/SWOG 80405試験内容は変更された。症例数の目標は1,142人であった。
2005年11月~2012年3月の間に、無選択患者3,058人が参加し、KRAS野生型患者2,334人がランダムに割り付けられた。最終的には1,137人が参加した(変更前、参加後にKRAS遺伝子検査を行い適格となった患者333人、変更後のKRAS遺伝子検査の適格となった患者804人)。
BEAMing技術(検出感度0.01%)を使用して、KRASエクソン3、4野生型患者とNRASエクソン2、3、4野生型患者を含むRASエクソン2野生型患者全員の拡大RAS解析を実施した。主要評価項目はOSであった。
拡大RAS野生型患者で、OS中央値は30カ月を超えた。しかし、FOLFIRI/mFOLFOX6+セツキシマブ患者群とFOLFIRI/mFOLFOX6+ベバシズマブ患者群との間では、有意差は認められなかった(32カ月対31.2カ月)。無増悪生存期間(PFS)に差は認められなかった。しかし、拡大RAS野生型患者で、FOLFIRI/mFOLFOX6+セツキシマブ患者群の方が、奏効達成率が高かった(68.6%対53.6%(p<0.01))。
治療戦略(目的は、CALGB/SWOG 80405試験に参加した患者の特徴や長期転帰の確定である)の一環として外科手術を受けたKRAS野生型患者に関する試験由来の個別解析で、参加患者130人がFOLFIRI/mFOLFOX6療法や外科手術後に無病生存状態(no evidence of disease;NED)期に達したことをAlan Venook医師(米国、サンフランシスコにあるカリフォルニア大学腫瘍内科学部門)は発表した。参加患者のOS中央値は60カ月であったが、患者の多くで癌が再発した。
しかし、CALGB/SWOG 80405試験の研究者らは抄録提出時に、全RAS遺伝子型の評価を予測した。そして、予想される予測特性を特定するだけでなく、FOLFIRI/mFOLFOX6+セツキシマブ患者群の方がFOLFIRI/mFOLFOX6+ベバシズマブ患者群よりも外科手術を受ける人が多かったという事実に対する説明があるかもまた確定するために、外科手術を受けた患者の解析を計画した。Venook 氏は特別発表の間に、FOLFIRI/mFOLFOX6+セツキシマブ患者群の方がNED期に達しやすい可能性があるが、最終転帰に差は認められなかったようであることを発表した。
FIRE-3試験における客観的奏効率、早期腫瘍縮小、および奏効の深さの独立画像評価:最終的RAS評価可能患者の解析
独立画像評価によると、FOLFIRI+ベバシズマブと比較して、FOLFIRI+セツキシマブの方が有意に、全奏効率(ORR)と早期腫瘍縮小(ETS)率が高く、そして効果の深さ(DpR)は深かった。これらの反応と関連する転帰はある程度、拡大RAS野生型患者で認められたFOLFIRI+セツキシマブのOSにおける有意な利点を明らかにする可能性がある。第39回欧州臨床腫瘍学会総会の特別発表で、未治療のRAS野生型の遠隔転移を有する大腸癌患者を対象とする抗EGFR抗体または抗VEGF抗体を伴う最適な治療戦略の定義に関して、Sebastian Stintzing医師(ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン血液学・腫瘍学部門)はこれらの結果を発表した。
FIRE-3試験はドイツとオーストリア内の医療施設150施設で実施されたが、初回治療としてFOLFIRI+セツキシマブとFOLFIRI+ベバシズマブ(1:1)を比較したものであった。また、2008年10月にKRAS野生型患者のみが参加するように変更された。FIRE-3試験は、KRASエクソン2野生型の遠隔転移を有する大腸癌患者592人を対象に実施された。パイロシークエンシング法を使用して、KRAS・NRAS エクソン2、3、4(コドン12、13、59、61、117、146)の拡大RAS解析を実施した。
RECIST 1.1により腫瘍反応を評価し、かつ、ETSとDpRを定義するために、独立画像の再検討を実施した。研究者らは参加患者のデータについて知らされていなかった。
ETSを試験開始後の最初の腫瘍評価時(第6週)における腫瘍径の20%以上の縮小と定義した。DpRを試験開始時と比較した最低値で認められた最大腫瘍縮小率と定義した。
ITT解析患者と拡大RAS野生型患者の両者に関する解析を実施した。第39回欧州臨床腫瘍学会総会で、Stintzing氏は最終的RAS評価可能患者の解析に由来するデータを発表した。
KRASエクソン2野生型患者の独立評価によると、FOLFIRI+セツキシマブ患者群のORRは66.5%で、FOLFIRI+ベバシズマブ患者群のORRは55.6%であった(p=0.016)。最終的RAS野生型患者で、FOLFIRI+セツキシマブ患者群のORRは72%で、FOLFIRI+ベバシズマブ患者群のORRは56.1%であった(p=0.003)。
FOLFIRI+セツキシマブ患者群の方がOSは長かった(33.1カ月対25.0カ月、ハザード比:0.697、p=0.0059)。
最終的RAS野生型患者の内、FOLFIRI+セツキシマブ患者群で、ETSが認められる患者のPFSは9.7カ月で、ETSが認められない患者のPFSは5.8カ月であった。
FOLFIRI+ベバシズマブ患者群で、ETSが認められる患者のPFSは11.7カ月で、ETSが認められない患者のPFSは8.3カ月であった。
DpRはOSやPFSと有意に相関した(KRASエクソン2野生型患者でp=0.0003、最終的RAS 野生型患者でp<0.0001)。
腫瘍最低値到達期間中央値は、FOLFIRI+セツキシマブ患者群で15.0週、FOLFIRI+ベバシズマブ患者群で15.7週であった。
拡大RAS検査はFIRE-3試験でのITT患者の80%以上で評価可能であるとStintzing氏は述べた。OS中央値は初回治療としてFOLFIRI+セツキシマブを受けたRAS野生型患者全員で有意に良好であったとStintzing氏は結論づけた。独立画像評価によると、FOLFIRI+ベバシズマブ患者群と比較して、FOLFIRI+セツキシマブ患者群の方がORRは有意に高かった。ETSはFOLFIRI+セツキシマブ患者群で、有意に高頻度で認められた。また、患者群とは関係なく生存期間の延長と有意に関連した。DpR中央値はFOLFIRI+セツキシマブ患者群で有意に深く、生存期間と相関した。
データ解釈
Andres Cervantes医師は以下の2つの重大な疑問に対処した。
なぜ、これらの臨床試験2件でOSの結果が相容れないのか?
2次以降の治療に関する詳細な情報が必要である。特に、セツキシマブが投与されなかったFOLFIRI/mFOLFOX6+ベバシズマブ患者群でもこれらの結果を解釈するにためには重要になることがある。参加患者の80%以上が2次治療を受ける状況では、治療順序はOSと関連しないことが示唆される可能性がある。ただし、セツキシマブを使用する2次治療を受けない患者が増える場合、治療順序は非常に関連する可能性がある。
セツキシマブを使用するレジメンで、どのようなことが奏効率の高さと関連するのか?
FOLFIRI/mFOLFOX6+ベバシズマブとFOLFIRI/mFOLFOX6+セツキシマブは、RAS野生型進行大腸癌患者全員に対する治療を開始するための2つの治療選択肢候補である。しかし、どのようにして、高い奏効はセツキシマブを使用するレジメンで示されると言う事実は、初回治療アプローチの選択の決定に影響を与えることができるのか?DpRやETSに関して、CALGB/SWOG 80405試験における奏効率に関するデータをさらに解析する必要がある。このことは、治療法を決定する際に患者と話し合うための重要点になる可能性がある。
FIRE-3試験は内部整合性と妥当性の向上を示す一方で、CALGB/SWOG 80405試験の研究者らは10年にわたって実施された臨床試験由来の早期データ解析を発表したことをAlberto Sobrero医師は述べた。それゆえ、Sobrero氏は結論づける前に、完全なデータを待望している。
RAS野生型患者は抗EGFR 抗体が(わずかとはいえ)より奏効することをDirk Arnold医師は述べた。しかし、なぜこのようになるのか、また、治療の特徴に関するさらなる情報(例.奏効期間、2次治療)が実際にこのデータに関する臨床的見解を変えることになるのかといった、未解決の疑問が多く残っている。
RAS は重要だが、単独では優れた陽性の予測的バイオマーカーとして採用されない。どの併用療法もOSが31カ月を超えるため、優れた選択肢になり、また、初回治療の一部になるべきである。初回治療の選択はおそらく、ほとんどの患者にとって(早期の腫瘍縮小および効果の深さの要求以外は)重要なことではない。
遠隔転移を有する大腸癌は不均一な癌であると、Fortunato Ciardiello医師(この特別発表での討論参加者の1人)は述べた。一部の遠隔転移を有する大腸癌は高度にEGFRシグナル伝達に依存している。KRAS・NRAS検査は、抗EGFR抗体による治療効果を享受できる患者を特定する第一段階になる。
遠隔転移を有する大腸癌患者全員は、利用可能な治療法全てになる初回治療を選択する前に拡大RAS検査を受けるべきである。
RAS野生型癌患者には、初回治療や2次治療で連続して使用される優良な治療選択肢が2種存在する(FOLFOX/FOLFIRI+抗EGFR抗体またはFOLFOX/FOLFIRI+ベバシズマブ)。
Ciardiello氏の見解では、腫瘍縮小が関連する治療目標(高腫瘍量、症候性癌、肝転移癌やおそらく原発癌の外科的切除への変更の可能性)の場合、FOLFOX/FOLFIRI+抗EGFR抗体は推奨される初回治療選択肢になる。
認容性、副作用、および患者との十分な情報を得た上での話し合いは、初回治療選択肢にとって重要な特徴になる可能性がある。
Ciardiello氏にとって、RAS野生型の遠隔転移を有する大腸癌患者の治療管理を最適化する方法に関する臨床研究や橋渡し研究における明白な論点は、以下の通りである。
•維持療法の役割、化学療法の脱増強、化学療法の再導入。
•ベバシズマブや抗EGFR抗体の適切な順次投与の役割。
•抗EGFR抗体やベバシズマブに対する耐性獲得の予防または克服を目的とする治療戦略。
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