転移性大腸癌の一次治療に化学療法+ベバシズマブと化学療法+セツキシマブは同等の生存利益をもたらす

 ASCO年次大会で注目された乳癌、前立腺癌、大腸癌の治療に関する重要な進展(ASCO2014プレナリーセッション)
(折畳記事)

4タイプの代表的な一次治療レジメン(ベバシズマブ+FOLFOX、ベバシズマブ+FOLFIRI、セツキシマブ+FOLFOX、セツキシマブ+FOLFIRI)は、KRAS変異のない転移を有する大腸癌に同等に有効であることが、連邦政府が資金拠出して実施されていた大規模第3相試験の結果により明らかになった。いずれのレジメンでも全生存期間(OS)中央値は約29カ月であった。データからは、FOLFOX(オキサリプラチン・5-FU・ロイコボリン)、FOLFIRI(イリノテカン・5-FU・ロイコボリン)のいずれの化学療法レジメンにも、分子標的薬であるベバシズマブまたはセツキシマブを組み込むことができることもわかった。

「セツキシマブを組み合わせた化学療法も一部の患者には有効な選択肢ですが、米国では転移を有する大腸癌のおよそ75%が、最初にベバシズマブを組み込んだ化学療法を受けます」と、筆頭著者のAlan P. Venook医師は語る。Alan P. Venook氏はカリフォルニア州サンフランシスコにあるカリフォルニア大学マッデン・ファミリーの腫瘍内科学および橋渡し研究の特別教授である。「私たちの研究で、2つの抗体は共にFOLFOXあるいはFOLFIRIのいずれにも組み合わせることができ、同様の効果を発揮することが明らかになりました。これで、医師と患者は安心して選択する治療法を決めることができるでしょう」。

米国では、年間約5万人が転移性大腸癌と診断されている。分子標的薬を使った治療は延命に大きな役割を果たしており、20年前には10カ月だった生存期間がこの研究では約2.5年に延長した。ベバシズマブは血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を標的とし、癌が増殖する際に必要な血管新生を阻害する。一方、セツキシマブは癌増殖や転移に関与するタンパク質である上皮成長因子受容体(EGFR)を標的にする。米国では、ベバシズマブ+FOLFOXレジメンが広く使われ、セツキシマブを組み込んだレジメンはヨーロッパで多くみられる傾向がある。

研究は、未治療の転移を有する大腸癌患者1,137人を、化学療法+ベバシズマブ群と化学療法+セツキシマブ群に無作為に割り付けて行われた。化学療法レジメン選択は医師の選好に基づいた。(FOLFIRIが26.6%、FOLFOXが73.4%)追跡期間中央値は24カ月であった。

治療群間での全生存期間あるいは無増悪生存期間に、有意差は認められなかった。化学療法+ベバシズマブ群では、全生存期間が29カ月、無増悪生存期間は10.8カ月、化学療法+セツキシマブ群では、全生存期間が29.9カ月、無増悪生存期間は10.4カ月であった。

治療に伴う新たな副作用はみられなかった。ベバシズマブの代表的な副作用は、高血圧、頭痛、口内炎、鼻出血、下痢、直腸出血、食欲不振、けん怠感、脱力感であり、セツキシマブではざ瘡様皮疹、掻痒(そうよう)、手足の爪の障害、感染症、けん怠感、電解質異常が最も多くみられる。治療費の比較では、ベバシズマブとセツキシマブは同等であるが、副作用は若干異なる。FOLFIRIとFOLFOXも副作用に違いがある。FOLFIRIは脱毛や下痢の頻度が高いが、FOLFOXでは神経障害が発生し、しばしば治療中止が必要なケースもある。最新の解析では、どちらの抗体を使っても患者の全般的なQOLに違いはなかった。

Venook氏は、米国国立癌研究所(NCI)が実施する臨床試験に政府からの資金拠出がなければ、今回のような異なる製薬会社が扱う適応症が同じ2つの薬剤を直接比較する臨床試験はおそらく実現しなかっただろうと述べている。「この研究によって、共同グループへの予算が削減されている昨今でも私どもは質の高い重要な研究を続けていることが示されました」。

今後は、この治療法が異なる患者集団でも有効であるかどうか解析を実施する予定だ。有望な予後マーカーを同定するためゲノム・プロファイリングが予定されており、将来的には患者それぞれに合った最適な治療法の選択を可能にするのに役立つかもしれない。

本研究は、一部米国国立癌研究所(NCI)、米国国立衛生研究所(NIH)、Imclone社、Roche社、Genentech社、BMS社およびEli Lilly社の支援を受けた。

ASCOの見解
ASCO会長で米国内科学会上級会員(FACP)であるClifford A. Hudis医師は「この研究結果により、腫瘍医と患者にとり癌の個別化治療の道がさらに広がりました。広く採用されている2つのレジメンはいずれも良好な生存率をもたらし、効果は同等であることが確認されました」と述べている。



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翻訳担当者 菊池明美

監修 畑 啓昭(消化器外科/京都医療センター)

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