低リスク病期2A結腸がん治療選択における術後血中ctDNAの役割は不明瞭 

米国臨床腫瘍学会(ASCO)

ASCO専門家の見解
「ステージ2結腸がんにおいては、常に医療者と患者が意思決定プロセスを決定することで、術後補助化学療法の検討が行われてきました。血中循環腫瘍DNA(ctDNA)陽性は、6カ月後にctDNAクリアランス(検出可能なctDNAが存在しない状態)を達成することにより、術後補助化学療法を実施するかどうかの指針となる代替マーカーとして期待されていました。研究者らが事前に計画していた中間解析では、術後補助化学療法によるctDNAクリアランスの改善は確認できませんでしたが、ctDNAの役割は引き続き検討されなければなりません」とASCO消化器がん専門医のCathy Eng医師(FACP:米国内科学会フェロー、FASCO:ASCOフェロー)は述べた。

試験要旨

目的ステージ2の結腸がん患者におけるctDNAアッセイをに基づく術後補助療法によるctDNAクリアランス (検出可能な変異およびメチル化バイオマーカーが存在しない状態) の割合
対象者低リスクステージ2A期結腸がんで腫瘍を切除された患者635人
主な結果事前に計画された中間解析の結果、本試験で採用されたアッセイ法に従って術後に検出可能なctDNAを有する患者において化学療法を行っても、化学療法を受けなかった患者と比較してctDNAクリアランス率は増加しなかった。
意義・ctDNAが、結腸がん術後に微小残存病変を有し、化学療法が有効な患者を同定するのに有用かどうかは、これまで観察研究においてのみ評価されてきた。

・本試験は、ステージ2の結腸がん患者における術後補助療法の主要評価項目として、ctDNAクリアランスを評価した初めての前向きランダム化試験である。

ステージ2の結腸がん患者を対象に、術後補助療法によるctDNAクリアランスを主要評価項目として評価した初の前向きランダム化第2相試験が評価項目を達成しなかったことから、がん治療を選択しその効果を予測するツールとしてのctDNAまたはリキッドバイオプシーの役割は不明確なままである。

NRGーG1005(COBRA)第2/3相試験は、事前に計画された第2相解析の結果、手術後に検出可能なctDNAを有する患者において、術後補助の使用は、使用しなかった場合と比較して、ctDNAクリアランス率を増加させないことが判明したため、中断された。本試験は、1月18日から20日までカリフォルニア州サンフランシスコとオンライン上で開催される2024年米国臨床腫瘍学会(ASCO)消化器がんシンポジウムにて発表される。

試験について

COBRA試験では、従来の高リスクの特徴(初診時の神経周囲浸潤、腫瘍穿孔、閉塞の有無などだが、これらに限定されない)を伴わない、切除を行ったステージ2の結腸がん患者635人が、1:1の割合で2つの群に無作為に割り付けられた。A群の318人は現行の標準治療(化学療法を実施せず詳細観察)を受けた。一方、B群の317人はctDNAアッセイで管理された療法を受けた。B群でctDNAが検出されなかった患者は、そのまま経過観察を継続した。また、B群でctDNAが検出された患者は6カ月の術後補助化学療法(CAPOXまたはFOLFOX)を受けた。主要評価項目は6カ月後のctDNAのクリアランスであった。

主な知見

  • 研究者らは、術後に採取された血液の解析でctDNAが検出された最初の16人の患者について、A群とB群の間でctDNAクリアランスを比較した。
  • p値が0.35より大きい場合(p>.35)、試験は無益性を理由に中止され、第3相部分まで継続されないこととした。
  • ctDNAが検出された最初の16人の患者のうち、6カ月後のctDNAクリアランスは、A群では3/7人(43%)、B群では1/9人(11%)と観察された(p=.98)。
  • 本試験は第2相試験の評価項目が満たされなかったためプロトコルにしたがって中止された。

「消化器がん患者に対するリキッドバイオプシーの実世界での応用は急速に発展し続けています。本試験の結果は残念なものでしたが、ctDNAアッセイの特性や性能の継続的な向上と患者の臨床ニーズへの切望が相まって、ctDNAの試験は、今後しばらくの間、非常に意義のあるものとなるでしょう」と、本試験の筆頭著者であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのVan K.Morris医師は述べた。

著者らは、生存と再発の転帰について試験参加者の追跡調査を続ける予定である。

本試験は米国国立がん研究所がスポンサーとなり、Guardant Health社から資金提供を受けている。

  • 監訳 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院)
  • 翻訳担当者 山口みどり
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  • 原文掲載日 2024/01/16

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