大腸癌の新たな早期検出法

大腸癌を引き起こす遺伝子変異を高感度に検出する新たな手法は、大腸癌の非侵襲的スクリーニングとして簡易に使用できることが研究で示され、米国癌学会(AACR)の学術誌Cancer Prevention Research誌に発表された。

「大腸癌の前癌病変や早期病変の表面から腫瘍細胞が剥がれ、便中に排出されます。しかし、正常なDNAを大量に含む患者の便の中から、癌化遺伝子変異を検出することは、干し草の中から1本の針を探すようなものです」と、ドイツNuthetalのPotsdam大学、栄養毒性学、助教のBettina Scholtka医学博士は述べる。「固定化核酸(locked nucleic acid:LNA)ベース野生型ブロッキング(wild-type blocking:WTB)ポリメラーゼ連鎖反応法と、高解像度融解曲線解析(high-resolution melting:HRM)を初めて組み合わせることで、期待する感度を達成することができました。本手法は感度がきわめて高く、患者の便検体を用いて、ごくわずかな量しか存在しない各種癌化遺伝子変異を検出することができます」。

「大腸癌の前癌細胞はこのような遺伝子変異を保有しており、便検体中に絶えず排出されています。しかし、このような細胞が血中に検出されるのは癌が進行してからです。そのため、大腸癌をごく早期に発見するためには、血液検体よりも便検体が有用です」と付け加える。

大腸癌患者はAPC遺伝子変異およびKRAS遺伝子変異をそれぞれ約60%および約40%保有している。また、前癌細胞もこれらの遺伝子変異を保有している。したがって、これらの遺伝子変異を検出する手法は大腸癌を早期発見する一助になり得る。本研究で紹介した新規検出法は単一の癌特異的遺伝子変異を正常DNA中に1/10,000の量あれば検出でき、本法の検出感度は他の非侵襲的スクリーニング法より5,000倍近く高い。

Scholtka医学博士によると、この新規検出法の感度および特異度をバリデーションするために、標準的スクリーニング法(大腸内視鏡検査など)と比較する多施設共同試験を実施する必要がある。

Scholtka医学博士らは、癌を発現したまたは前癌状態にあるヒト大腸組織80検体を用い、次の2種類の手法を組み合わせて遺伝子変異を検出した。最初の手法は、固定化核酸(locked nucleic acid:LNA)ベース野生型ブロッキング(wild-type blocking:WTB)ポリメラーゼ連鎖反応法であり、検体中に大量に存在する正常DNAを減少させる。次の手法は、高解像度融解曲線解析(high-resolution melting:HRM)であり、遺伝子変異の検出能を向上させる。

APC遺伝子変異は80検体中41検体に検出された。また未知のAPC遺伝子変異も検出された。一方、通常使用されている直接配列決定法では、APC遺伝子変異は28検体にしか検出されなかった。

次に、大腸組織にAPC遺伝子変異を保有する患者から採取した便22検体と、大腸組織にAPC遺伝子変異を保有していない患者から採取した便9検体(対照)を分析した。その結果、APC遺伝子変異は22検体中21検体に検出された。

ヒト大腸組織20検体を用いてKRAS遺伝子変異も検出し、WTB-HRM法はAPC遺伝子以外の遺伝子における変異も検出することが示された。

「本検出法を便検体に適用し、大腸癌の形成過程に変異する遺伝子を検出することで、大腸癌の超早期病変や、さらには前癌病変でさえ発見することが可能です」とScholtka医学博士は述べる。「前癌病変を早期に発見して取り除くことで、多くの症例で癌を予防できる可能性があります」。

翻訳担当者 永瀬祐子

監修 野長瀬祥兼 (腫瘍内科/近畿大学付属病院)

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