大腸癌に対するアスピリンの予防効果は遺伝子型に関連

キャンサーコンサルタンツ

American Medical Association誌で発表された研究結果によれば、アスピリンの大腸癌に対する予防効果はBRAFとして知られる遺伝子の変異がない腫瘍に限られているとみられる。[1]

大腸癌は、癌に関連した死亡の原因としては米国で二番目に多い。大腸癌の約10%に、BRAFの変異遺伝子がみられる。研究によるとBRAFの変異があると、大腸癌の中で予後が悪かったとし、また、上皮成長因子受容体阻害剤として知られる標的薬剤に対する奏効が悪くなる可能性を示している。

アスピリンを毎日服用することと、癌発生率・死亡率の低下の間には関連があるとする研究もある[2][3]。さらに、アスピリンは遺伝性の大腸癌のリスクを低減させると考えられる[4]。研究者らは、大腸癌に対する予防戦略としての潜在力を明らかにするためにアスピリンを毎日服用することの効果の研究を続けている。

研究者らは、アスピリンの服用とBRAFの腫瘍の状態を調べるために二つの大規模な観察研究(Nurses’ Health StudyとHealth Professionals Follow-up Study)から得たデータを評価した。この二つの研究では128,000人の参加者から得たデータを統合し、両研究には2006年7月の癌発症と2011年の癌による死亡の追跡データを有していた。また、研究には参加者の腫瘍の遺伝子型に関する情報も含まれていた。

追跡調査の間、1,226人の大腸癌の症例があり、そのうち182人にはBRAFの変異がみられた。全体として、アスピリンを毎日服用している患者には大腸癌の割合が低かった。さらに、効果には用量依存性がみられた。つまり、1週間に2錠から5錠のアスピリンを服用した患者は癌のリスクの減少傾向がみられたにすぎなかったが、週に14錠より多く服用した患者は癌のリスクが50%減少した。

しかしながら、このリスク減少はBRAFの変異がない患者に限られていたと考えられる。研究者らが野生型(突然変異がない)BRAFと変異があるBRAFの患者を比較したところ、変異がある患者はアスピリンから同様の予防効果を受けていないようだった。

研究者らは、定期的に毎日アスピリンを服用することでBRAFの変異がない大腸癌のリスクを下げることはできるが、BRAFの変異した大腸癌のリスクを下げることはできないと結論づけた。彼らは、BRAF変異型の大腸の腫瘍細胞はアスピリンの効果に対して感受性が低いという仮説をたてている。

参考文献:
[1] Nishihara R, Lochhead P, Kuchiba A, et al. Aspirin Use and Risk of Colorectal Cancer According to BRAF Mutation Status. JAMA. 2013; 309(24): 2563-2571.

[2] Thun MJ, Jacobs EJ, Patrono C. The role of aspirin in cancer prevention. Nature Reviews Clinical Oncology. Published early online April 3, 2012. doi:10.1038/nrclinonc.2011.199

[3] Rothwell PM, Price JF, Fowkes FGR et al. Short-term effects of daily aspirin on cancer incidence, mortality, and non-vascular death: analysis of the time course of risks and benefits n 51 randomised controlled trials. Lancet. Early online publication March 21, 2012.

[4] Burn J, Gerdes A-M, Macrae F et al. Long-term effect of aspirin on cancer risk in carriers of hereditary colorectal cancer: an analysis from the CAPP2 randomised controlled trial. Lancet. Early online publication October 28, 2011.


  c1998- CancerConsultants.comAll Rights Reserved.
These materials may discuss uses and dosages for therapeutic products that have not been approved by the United States Food and Drug Administration. All readers should verify all information and data before administering any drug, therapy or treatment discussed herein. Neither the editors nor the publisher accepts any responsibility for the accuracy of the information or consequences from the use or misuse of the information contained herein.
Cancer Consultants, Inc. and its affiliates have no association with Cancer Info Translation References and the content translated by Cancer Info Translation References has not been reviewed by Cancer Consultants, Inc.
本資料は米国食品医薬品局の承認を受けていない治療製品の使用と投薬について記載されていることがあります。全読者はここで論じられている薬物の投与、治療、処置を実施する前に、すべての情報とデータの確認をしてください。編集者、出版者のいずれも、情報の正確性および、ここにある情報の使用や誤使用による結果に関して一切の責任を負いません。
Cancer Consultants, Inc.およびその関連サイトは、『海外癌医療情報リファレンス』とは無関係であり、『海外癌医療情報リファレンス』によって翻訳された内容はCancer Consultants, Inc.による検閲はなされていません。

翻訳担当者 池上紀子

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

大腸がんに関連する記事

BRAF V600E変異大腸がんにエンコラフェニブ療法、FDA承認の根拠の画像

BRAF V600E変異大腸がんにエンコラフェニブ療法、FDA承認の根拠

MDアンダーソンニュースリリース 2025年1月25日アブストラクト16

BRAF V600E遺伝子変異を有する転移大腸がん(mCRC)患者は、分子標的薬エンコラフェニブ(販売名...
大腸がんの治療指針に役立つAI検査の画像

大腸がんの治療指針に役立つAI検査

がんは治療が複雑で難しい病気であるが、がんを阻止する最も強力な手段の一つは私たちの中にあるもの、免疫系である。

この事実は、大腸がん(結腸直腸がん)において特に重要である。研究者たちは、...
アスピリンは一部の大腸がん患者の再発リスクを低下させる可能性の画像

アスピリンは一部の大腸がん患者の再発リスクを低下させる可能性

ASCOの見解(引用)「『朝、アスピリンを2錠飲んでから電話して』という古い言い回しは、今や新たな意味を持つかもしれません。PI3Kシグナル伝達経路の遺伝子変異は大腸がん患者の...
大腸がん関連情報に対するChatGPTの正確性と関連性を検証の画像

大腸がん関連情報に対するChatGPTの正確性と関連性を検証

ASCO の見解(引用)「この研究は、人工知能が患者の関心を高め、情報に基づいた意思決定をサポートすることができ、医療へのアクセスの格差に対処できる可能性があることを実証してい...