アスピリンにより遺伝性大腸癌のリスクは低くなる

キャンサーコンサルタンツ
2012年7月9日

リンチ症候群患者ではアスピリンを毎日服用することにより大腸癌のリスクは半減するかもしれない。この結果は、当初はアスピリンによる有用性が見いだせなかった試験の長期追跡調査に基づくものであり、Lancet誌に発表された。

リンチ症候群は、遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)としても知られており、DNAミスマッチ修復に関与する遺伝子の遺伝性突然変異が原因で発症する。これらの突然変異により大腸癌を発症するリスクは著しく増大する。一般集団では大腸癌と診断される年齢はおよそ64歳であるが、リンチ症候群患者では平均しておよそ44歳で大腸癌と診断される。全体的にみると、全大腸癌のおよそ3%から5%はリンチ症候群が原因であると考えられている。リンチ症候群家系でよくみられる癌には、このほかにも子宮内膜(子宮の内層)癌、卵巣癌、小腸癌、尿管癌および腎盂癌などがある。

アスピリンは大腸ポリープのリスク低下と関連することが以前のランダム化試験により報告されているが、今回の試験はアウトカムとして大腸癌に焦点をあてた初めての試験である。この試験はCAPP2と呼ばれており、リンチ症候群患者861人が登録され、参加者にはアスピリン600mg/日またはプラセボが投与された。また、本試験では難消化性でんぷんの効果についても検討された。

2008年に発表されたこの試験の先の報告では、アスピリンまたは難消化性でんぷんによる有用性が見出されることはなかった。[1]しかし、長期間の追跡調査により、アスピリンにはかなりの有用性のあることがわかった。今日、患者の追跡期間は平均56カ月に達している。[2]

  • ひとによっては複数の大腸癌が発生することがあるという事実を考慮すると、アスピリンを毎日服用することにより大腸癌のリスクは44%低下する。
  • 試験参加者のうち、アスピリンを2年以上服用したサブグループでは、大腸癌のリスクは半分以下に低下した。

これらの結果から、リンチ症候群患者ではアスピリンを毎日服用することにより大腸癌のリスクが低下することが示唆された。この集団においてアスピリンが発癌リスクをコントロールする他の手段にとって代わることはないが、有用な選択肢になると思われる。アスピリンの定期的な服用はリスクを伴うため、アスピリンの服用を開始する前に主治医と相談することが必要である。継続中の研究ではリンチ症候群患者におけるアスピリンの至適用量と至適投与期間が調査されている。現行の試験で使用されている1日600mgよりも少ない用量で効果のあることが証明される可能性がある。

参考文献:
[1]Burn J, Bishop T, Mecklin JP, et al. Effect of aspirin or resistant starch on colorectal neoplasia in the lynch syndrome. New England Journal of Medicine. 2008; 359: 2567-2578.

[2]Burn J, Gerdes A-M, Macrae F et al. Long-term effect of aspirin on cancer risk in carriers of hereditary colorectal cancer: an analysis from the CAPP2 randomised controlled trial. Lancet. Early online publication October 28, 2011.

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小縣正幸 訳
須藤智久(薬学/国立がん研究センター東病院 臨床開発センター)監修 
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原文


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