2011/10/04号◆癌研究ハイライト「HPV関連の中咽頭癌発症率が上昇」「前立腺生検後の入院は高齢者に多い」「大腸内視鏡検診所見における性差を調査」「肝臓への化学療法剤送達が転移性黒色腫患者に有益である可能性」「禁煙補助薬が単一施設試験で有効性を証明」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年10月04日号(Volume 8 / Number 19)

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癌研究ハイライト

・HPV関連の中咽頭癌発症率が上昇
・前立腺生検後の入院は高齢者に多い
・大腸内視鏡検診所見における性差を調査
・肝臓への化学療法剤送達が転移性黒色腫患者に有益である可能性
・禁煙補助薬が単一施設試験で有効性を証明
・関連記事: ゾレドロン酸は閉経後の乳癌女性に有益である可能性

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HPV関連の中咽頭癌発症率が上昇

ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が、頭頚部癌の一種である中咽頭扁平上皮癌の罹患率上昇の原因となっている可能性があるとのエビデンスが新たな研究で示されている。この傾向が続いた場合、2020年までにHPV陽性の中咽頭扁平上皮癌が米国のHPV関連癌として最も発症率の高い子宮頚癌を上回る可能性があることをこの研究は示唆している。この知見は、10月3日付Journal of Clinical Oncology誌電子版に発表された。

中咽頭扁平上皮癌は当初、1つの疾患として考えられていたが、現在では2つの異なる腫瘍型(HPV陽性とHPV陰性)として認識されている。HPV陰性腫瘍は喫煙およびアルコール摂取と関連づけられており、比較的高齢で診断され、予後不良であるとされる。一方、HPV陽性腫瘍は性行動に関連するリスク因子があり、比較的若年層で診断され、生存率が高い傾向がある。

同じ著者による以前の研究では、他の口腔癌の発症率が低下したにもかかわらず、中咽頭扁平上皮癌の診断率は1970年初頭から上昇が続いていることが示された。「口腔癌の発症率は低下すると予想していた」と、筆頭著者であるNCI癌疫学・遺伝学部門のDr. Anil Chaturvedi氏は説明した。「なぜなら、米国ではこれらの癌の強力なリスク因子である喫煙率が低下したからである。同時期の中咽頭癌発症率の上昇は、別のリスク因子がある可能性を示唆している。われわれは、HPV感染が中咽頭癌発症率の上昇につながっていると仮定した」。

腫瘍のHPV陽性率を経時的に評価するため、研究者らはSEER Residual Tissue Repository (RTR) program(残存組織保存プログラム)の3つの登録簿から組織標本を入手して使用した。また、いくつかの分子技術を用い、1984年から2004年までに採取された271の中咽頭扁平上皮癌腫瘍組織から、HPVのDNA、ウイルス量およびmRNAを検出した。

腫瘍標本のHPV陽性率(HPV-DNA検査により評価)は1980年代後半の16.3%から2000年代初頭の72.7%に急増したことを研究者らは発見した。「この上昇は、オーラルセックスの増加など、性行動の変化を反映している可能性がある」と、上級著者であるオハイオ州大学のDr. Maura Gillison氏はプレスリリースで述べている。

研究者らはまた、1980年代後半から2000年初頭の間に、人口当たりのHPV陰性の中咽頭扁平上皮癌発症率は50%に低下した一方で、HPV陽性癌は2倍以上になったことも発見した。

HPV陽性、中咽頭扁平上皮癌の患者は、同HPV陰性患者と比較して若年男性が多く、放射線治療を受けた場合は特に、長期生存率が良好であった(生存期間中央値はHPV陰性患者の20カ月に対して131カ月)。しかし、「HPV関連癌は必ず治癒するというわけではない」とジョンズホプキンス大学のDr. Arlene Forastiere氏は述べている。「そのため、われわれはHPV関連癌の患者群を分子遺伝学的に解明しようとしている最中である」。

これらの知見によって中咽頭扁平上皮癌の治療がただちに変わる可能性は低いが、HPV陽性、中咽頭扁平上皮癌を対象として調査する臨床試験に登録できるとForastiere氏は述べる。

HPV陽性腫瘍の大多数は16型HPVのDNAを保持していたことから、検診技術が現在ないため、この型に対する曝露前のワクチン接種が男女ともに有益である可能性がある。しかし、ワクチン接種の有効性および対費用効果を評価する試験が必要であるとChaturvedi氏は補足した。

前立腺生検後の入院は高齢者に多い

新たな研究によると、前立腺生検を受けた65歳以上の男性は、同生検を受けていない男性より、30日以内に重篤な合併症により入院する傾向が高かった。近年、特に感染合併症の発症率が大幅に上昇していることを、ジョンズホプキンス大学医学部の研究者らが9月22日付Journal of Urology誌電子版で報告した

研究の実施にあたり、Dr. Edward Schaeffer氏らは、前立腺生検を受けたメディケア受給者約17,500人および同生検を受けていないメディケア受給者約135,000人の1991年から2007年までの診療記録を分析した。データはNCIのSEERデータベースより取得した。

全体では、生検を受けた男性の6.9%が初回の生検から30日以内に入院していた。これに対し、対照群では無作為に選択した日付から30日以内に入院していた男性はわずか2.9%であった。前立腺生検を受けた男性が重篤な細菌感染により入院するリスクは2.5倍以上高く、細菌感染とは無関係な合併症のリスクは8倍以上高かった。

生検を受けた男性が研究対象期間中に感染とは無関係な理由で入院した割合は比較的一定なままであったが、2000年から2007年までに感染関連の合併症で入院した割合は急上昇しているとSchaeffer氏は述べた。この知見は、国内で泌尿器科医が事例として報告していること、すなわち、前立腺生検後に抗生物質耐性感染症を発症する男性の数が増加していることを裏づけていると思われる。

「20年前は耐性菌の問題はなかった」とSchaeffer氏は言う。現在のエビデンスではこの問題が深刻化する可能性を示唆しているため、Schaeffer氏はこのように続けた。「われわれはこの問題をうまく制御しなければならない」。

前立腺生検実施前の男性は通常、感染予防のために抗生物質の投与を受ける。ジョンズホプキンス大学の研究チームは、ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部の研究者らと共同で、抗生物質耐性菌種の生検前検査によって感染率が低下するかどうかを調査している。また、同チームは、ジョンズホプキンス大学の監視療法(※PSA監視療法)プログラムに登録され、定期的に前立腺生検を受けている低リスク前立腺癌男性における感染率の調査にも着手した。

年間で100万人以上のメディケア受給者が前立腺生検を受けており、そのほとんどが前立腺癌検診の結果によるものであると、この研究の著者らは述べ、同様の所見がランダム化臨床試験でも見られたならば、前立腺生検を受けた患者の24人に1人が30日以内に合併症により入院していたことになると補足している。

「前立腺生検は無害な手技であると考えられていることが多いが、これらの知見はリスクの可能性があるこの手技に関し、リスク対利益比を患者ごとに評価する重要性を強調するものである」とし、臨床医は前立腺生検を考えている患者と合併症の可能性について話し合う必要があると結論している。

大腸内視鏡検診所見における性差を調査

オーストリアの大規模研究により、大腸内視鏡検診で検出された異常な増殖性病変の保有率は年齢を問わず女性よりも男性の方が高いことが示された。9月28日付JAMA誌で報告されたこの研究結果は、男性と女性では初回の大腸内視鏡検診の至適年齢が異なる可能性があることを示唆している。

米国やオーストリアなどの多くの国のガイドラインでは、平均的なリスクのある男女には50歳から大腸癌検診を受けることを推奨している。ポリープまたは腺腫、特に進行性腺腫として知られる前癌性の増殖性病変の発見および除去には大腸内視鏡検査が用いられる。大腸内視鏡検査では、一般的に治癒可能性の高い初期の大腸癌も検出できる。

「この研究は重要である…しかし、米国における検診の推奨事項を変更する理由にはならない。1つの報告であり、米国民に対する影響は不明である」と癌検診の専門家であり、NCI癌制御・人口学部門の治療プロセス研究科主任であるDr. Stephen Taplin氏は述べている。

ウィーン医科大学のDr. Monika Ferlitsch氏率いる今回の研究では、2007年から2010年までに全国的な大腸内視鏡検診プログラムの参加者44,350人から得られた所見を分析した。研究対象集団の51%を女性が占め、年齢の中央値は女性が60.7歳、男性が60.6歳であった。

Ferlitsch氏らは、大腸内視鏡検査で検出された腺腫、AAおよび大腸癌の割合は年齢を問わず女性より男性の方が高く、大腸内視鏡検査で大腸癌が検出されるリスクは男性が女性の2倍であることを発見した。検出された進行性腺腫の罹患率は45~49歳の男性と55~59歳の女性で同程度であった。腺腫、進行性腺腫および大腸癌の発見のために検診を受けなければならなかった患者数の平均は、男性より女性の方が有意に高かった。

「より広範囲の疾患検診の従事者の間では年齢以外に基づく推奨の個別化について考えることに関心が集まっている。この研究はこの分野での研究の限界に挑み始めている」とTaplin氏は述べている。

しかし、研究結果は「オーストリアよりも多様で食習慣の異なる集団など、他の集団で再現されなければならない」とし、米国のSEERプログラムにおける癌に関する統計結果では、男性の大腸癌罹患率は女性をわずか3分の1しか上回っていないことにも言及した。

Taplin氏は、NCIがPROSPRと呼ばれる多施設共同研究プログラムに着手しており、このプログラムには、米国の地域診療の場における、リスク因子の異なる人々を対象とした癌検診の利益とリスクに関する研究も含まれると補足した。

肝臓への化学療法剤送達が転移性黒色腫患者に有益である可能性

肝臓に転移した眼の黒色腫(眼内あるいはブドウ膜黒色腫)を患う患者にとって、新技術が、現行の治療法より効果的に疾患の進行を遅らせる可能性があることを、新たな研究が示唆している。その技術は、経皮的肝灌流と呼ばれ、化学療法剤を直接肝臓へ送達させ、体内の他の部位に薬剤の影響を受けさせないようにするものである。

眼内黒色腫は、肝臓への転移が頻繁に起こり、有効な治療がないため患者のほとんどが数カ月以内に死亡している。

「これは、眼内黒色腫から肝転移した患者において、臨床的有益性を示す初めての治療である」とピッツバーグ大学がん研究所のDr. James Pingpank氏は新たな発表の中で話している。氏は、局所化学療法とも呼ばれるその手法を試した試験の結果を、先週スウェーデンのストックホルムで開催されたEuropean Multidisciplinary Cancer Congress(欧州合同癌学会)で発表した。

第3相臨床試験では、93人の患者が、局所化学療法または研究者によって選ばれた最適な療法を受けるようランダムに割りつけられた。肝臓に疾患が転移するまでの期間の中央値は、局所化学療法を受けた患者群では8.1カ月であったのに対し、対照群では1.6カ月であった。

NCIにて開始され、他の米国内の医療センター9カ所に拡大された試験でも、全無増悪生存期間の中央値において有益性を示した。内訳は局所化学療法群で6.1カ月に対し対象群では1.6カ月であった。ほとんどの患者が80%以上の日常の機能的状態を維持し、治療終了後には全ての機能が回復したとPingpank氏は話した。

はじめに最適な代替療法を受けた患者で疾患の転移が進行し続けた場合には、局所化学療法に移行することが許された。「これらの患者は、先に別の治療を受けた後であっても、局所化学療法からの有益性を得ることができた」と共同で試験を行った、NCI癌研究センター(CCR)のDr. Marybeth Hughes氏は伝えた。

薬剤メルファランを送達させるため、医師らは肝臓へ薬剤を運ぶ動脈カテーテルを経皮的に挿入して、肝臓からの血流を捉え、血液が体内の他部位に戻る前の血液から薬剤を取り除く。本技術は、大手術で起こる合併症を回避し、必要であれば繰り返すことが可能である。

「われわれは、本治療法が、本疾患を持つ患者のための最先端の癌治療法だと考えている」とPingpank氏は新たな発表の中で述べている。しかし、体内の他部位に転移するリスクが高い場合は特に局所化学療法の転移癌患者への適用は論争を呼ぶかもしれない、と注釈を加えた。

肝臓に転移した他の癌に対して同様のアプローチが用いられる可能性がある。学会でPingpank氏らは転移性神経内分泌腫瘍の患者に対する経皮的肝灌流の第2相臨床試験の良好な結果を報告した。

メルファランを送達させ濾過するための装置は、あらゆる悪性肝臓腫瘍に対しての使用が欧州においては承認されているのに対し、米国では、黒色腫に対してのみ承認が保留されている、と研究者は話した。

禁煙補助薬が単一施設試験で有効性を証明

単一施設におけるランダム化比較対照試験において、禁煙補助薬シチシンは、喫煙を控えている参加者においてプラセボと比較して効果が高かった。ポーランド・ウォルシャーのマリー・スクウォドフスカ・キュリー記念がんセンターで行われた試験の結果は、9月29日付New England Journal of Medicine誌に掲載された。

シチシンは、ニコチン依存症と関わりがあり、禁煙補助薬バレ二クリンの第一標的となっているα4β2ニコチン性アセチルコリン受容体と結合する。シチシンは欧州数カ国で40年以上にわたり禁煙の支援に役立っているが、動物実験の結果において、シチシンを使用した禁煙の支援は、ヒトにおいて有効性が限られることが示唆されている。

研究チームは、740人の参加者を25日間シチシン投与とプラセボ投与を受ける群にランダムに割り付けた。参加者は全て最小限のカウンセリングを受けた。試験終了後12カ月の時点で、シチシン投与群で31人、プラセボ群では9人の参加者が禁煙を継続しており、禁煙率は8.4%対2.4%であった。禁煙状態であることは呼気中の一酸化炭素濃度を計測することで確認した。

シチシン群では、プラセボ群より消化器系の有害事象が多かったが、他の有害事象および死亡率は両群とも同様であった。

「より集中的な行動上のサポートとシチシンの組合せは、禁煙成功率を高めるであろう、また、治療期間を延ばせば効果はより改善される可能性がある」と著者は述べている。さらに、他の禁煙補助薬のコストに比べシチシンの低コストにも触れている。「行動のサポートとシチシンの組合せ療法は、低所得および中所得国の喫煙者にとって魅力的な選択肢になるであろう」。

NCIタバコ規制研究支部の支部長代理であるDr. Michele Bloch氏は、「シチシンと行動面の対策の組合せは有望で、さらに調査する価値がある」と述べている。

関連記事: ゾレドロン酸は乳癌を患う閉経後女性に有益である可能性第3相臨床試験の計画されたサブセット解析は、標準の補助療法を受けているステージ2、3の閉経後乳癌女性患者に対し、ビスフォスフォネート製剤であるゾレドロン酸の追加が転帰を改善することを示した。試験にエントリーした3,360人の女性患者全体(の解析結果)ではゾレドロンの追加は転帰を改善しなかった。しかし、試験登録の5年以上前に閉経した女性の一部で、ゾレドロン酸投与を受けた女性の5年全生存率は85%であり、標準補助療法のみの女性においては79%であった。

AZURE試験でのこれらの発見は、9月25日付New England Journal of Medicine誌電子版で発行され、2011年同日開催の欧州合同癌学会で発表された。全試験集団において、ゾレドロン酸投与群で顎骨壊死が確認された例が17例、その疑いがある例が9例あり、対照群では認められなかった。

閉経後女性間での全生存率における有益性は、「わずかではあるが有意に増加している」と主任研究医師Dr. Robert Coleman氏は記者発表の中で語っている。発見そのものは決定的ではないが、「他の試験の内容および追加データが年内に発表されることを期待する」。氏はそれが診療を変えると確信している。

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川瀬 真紀、 滝川 俊和 訳

榎本 裕 (泌尿器科/東京大学医学部付属病院)、大渕 俊朗 (呼吸器・乳腺内分泌・小児外科/福岡大学医学部) 監修 
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