2010/01/26号◆癌研究ハイライト

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年1月26日号(Volume 7 / Number 2)
日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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癌研究ハイライト

・術後化学療法が高齢の大腸癌患者に有益である可能性
・脳腫瘍には他の癌と同じく明確な分類型が存在する
・臍帯血移植をさらに強化する戦略
・鍼治療により乳癌患者で関節痛の緩和が可能
・癌細胞は、蓄積された脂肪を利用して急速な増殖と転移を促す

術後化学療法が高齢の大腸癌患者に有益である可能性

大規模臨床試験結果の新たな分析により、70歳以上の大腸癌患者の一部は比較的新しい薬剤を含む術後補助化学療法によって転帰が改善する可能性のあることが示唆された。米国臨床腫瘍学会(ASCO)消化器癌シンポジウムで発表されたこの知見は、そのような有益性はないと昨年発表された他の臨床試験のデータ分析結果と相反している。

1,900人近い患者を対象とした臨床試験で、カペシタビンオキサリプラチンを用いたXELOXと呼ばれる療法を受けたステージIIIの大腸癌患者は、5-フルオロウラシル(5-FU)とロイコボリンによる従来の療法を受けた被験者よりも術後に腫瘍が進行することなく長く生存した。この試験の全生存データはまだ出されていないと、試験のリーダーであるペンシルベニア大学アブラムソンがんセンターのDr. Daniel Haller氏は記者会見で説明した。

3年間の経過観察後の無病生存率は、XELOXを受けた患者で71%であったのに対し、5-FU+ロイコボリン療法を受けた患者では67%であった。無病生存率を年齢群(70歳未満および70歳以上)で分析したところ、XELOXでは両方の年齢群で患者の無病生存率が向上していたが、70歳未満の患者でのみ統計学的に有意であった。Haller氏は、70歳以上の患者で統計学的有意差がみられなかったことは、この年齢群に当てはまる被験者数が比較的少なく、400人程度であったためであるとみられると述べている。

70歳を超える患者がこの術後療法から利益を得られるという今回の結果は臨床的に重要であるとHaller氏は主張している。先ごろ発表されたMOSAIC試験の結果および大腸癌術後療法の6つの臨床試験の分析結果では、70歳以上の患者の術後療法にオキサリプラチンを追加することに有益性はないことが示されており、これらの結果に基づき、一部の腫瘍医は、患者の健康状態にかかわらず、この年齢群の患者への術後療法にこのような比較的新しい薬剤を含めないとHaller氏は言う。

この知見によって、臨床医は、術後療法に関するより多くの情報を得た上で、70歳以上の患者とともに選択できるようになるべきであるとNCIの癌治療・診断部門のDr.Jack Welch氏は言う。70歳以上の患者の中にもXEROX療法に忍容性を示す者もいることをデータは示している、とWelch氏は続けた。「また、カペシタビンは経口薬であるため、交通手段の選択肢が限られた高齢患者にとって、より利用しやすい治療となるかもしれない」と、Welch氏は述べており、療法の利便性によって患者の薬剤服用法の遵守が可能となるかもしれない。

脳腫瘍には他の癌と同じく明確な分類型が存在する

数百種類の脳腫瘍におけるゲノムの変異の調査で、脳腫瘍の2つの新たな分子型が存在することが明らかになり、既知の2つの型が同定された。癌ゲノムアトラス(TCGA: The Cancer Genome Atlas)研究ネットワークによるこの知見は、成人の悪性脳腫瘍で最も多くみられる神経膠芽腫には少なくとも4つの分類型があり、それが遺伝子署名によって認識できることを示唆している。Cancer Cell誌1月19日号に掲載された論文によると、付随研究では神経膠芽腫の積極的な治療に対する反応は型によって異なることが発見された。

分類型の検出が可能になることで将来の研究のための枠組みが確立され、その患者に最も適した治療を組み合わせることが期待できる。また、乳癌やその他の癌の分類において行なわれているように、それぞれの型に潜在する分子変化を標的とした治療も可能になるとみられる。同様に、それぞれの型の実験モデルも開発される可能性がある。研究結果は、これらの癌の起源となる細胞を同定する上で役立つとも考えられ、治療にとって重要な意味をもつであろう。

この研究はTCGAの著者による最近の論文を基礎としており、この論文では神経膠芽腫で制御されなくなることの多い分子経路の核となる組合せについて述べられている。最新の研究では、ノースカロライナ大学ラインバーガー総合がんセンターのDr. Neil Hayes氏らTCGA研究班によって、遺伝子コピー数の変化やDNA変異などの200種類の腫瘍に関するさまざまな種類のゲノム情報が統合された。

4つの変異型は、PDGFRA遺伝子、IDH1遺伝子、EGFR遺伝子およびNF1遺伝子に関連する変異として特徴づけられた。それぞれの腫瘍型では連続した分子反応が生じ、その結果しばしば何千もの遺伝子の活動性に変化が起こる。この知見は、第2の集合として用意された260の腫瘍で検証された。

「この研究は、神経膠芽腫のような複雑な疾患をさらに解明し、治療するために研究チームがTCGAのデータをどのように用いることができるかを示す力強い一例である」とNCI副所長のDr. Anna Barker氏は言う。

Hayes氏はこう加えた。「これらの研究は、われわれがこの疾患の研究を進めるための明確な方向性を示してくれる。神経膠芽腫の型に基づいて論理的な方法で患者を分類することができ、最終的には、より個人に合った治療法へと調整することができる」TCGAの研究者らは来年には多数の腫瘍型を分析する予定であることに言及しながら、Hayes氏は続けた。「この論文はわれわれの希望する方向性のモデルである。われわれには沢山のデータがもたらされるためモデルが示されたことは好事と言えるであろう」。

臍帯血移植をさらに強化する戦略

化学療法などの治療を受けて、腫瘍細胞とともに正常な細胞も減少してしまった患者の血液細胞や免疫系を回復させうる方法が新たな研究で示された。この方法では、実験室(ex vivo)において臍帯血前駆細胞のNotchシグナル伝達経路を刺激することにより、臍帯血から得られる造血幹細胞の数を増加させる。その後、これらの細胞は患者に移植され、免疫系の白血球細胞などの新たな血液細胞が造られる。

フレッドハッチンソン癌研究センター(FHCRC)の研究チームは、急性白血病患者を対象とした第1相試験にてこの方法を検討した。Nature Medicine誌オンライン版に1月17日付けで掲載された記事によると、改変された移植細胞は正常臍帯血よりも早く一部の免疫細胞を増加させる。1週間以上早く回復した症例も認められた。本結果は予備的ではあるが、この方法によって移植後に患者の免疫系が回復するまでの期間が短縮すると示唆される。免疫系が抑制されると患者は生命を脅かす感染症に罹患しやすくなることから、このような回復促進は重要である。

Notchシグナル伝達経路は重要な発達調整因子である。FHCRCのDr. Irwin D. Bernstein氏らは10数年前、Notch 1遺伝子の活性化亢進は臍帯血前駆細胞数の増加と関連することを発見した。それ以降同氏らは、遺伝子そのものを変異させることなく臨床にこの発見を転換させる方法を開発し続けてきた。この方法では、経路内のタンパク質と相互作用する分子を介してNotchシグナル伝達を刺激する。

Bernstein氏は、「本試験では基本的に、治療を目的として多数の細胞を自己再生するうえで、細胞の遺伝子構造を変異させずに既知の発達調整因子を使用できることが判明した」と述べた。同氏は、FHCRCで臍帯血移植プログラムを調整しているDr. Colleen Delaney氏と共同で本試験を実施した。今回の方法によって患者の転帰が改善するかどうかはまだ不明であるが、現在行われている試験により、この問題が検討される予定である。

鍼治療により乳癌患者の関節痛の緩和が可能

小規模なランダム化臨床試験において、アロマターゼ阻害剤(AI)投与が原因で関節痛や凝りを呈する乳癌患者にて鍼治療による疼痛改善が報告された。鍼治療を受けた女性の80%で10点制疼痛尺度にて2点以上の改善がみられ、一方、偽治療を受けた女性では22%であった。これらの結果は、Journal of Clinical Oncology誌に1月25日付けで掲載された。

コロンビア大学のDr. Katherine D. Crew氏らは、本試験に女性51人を登録し、そのうちランダムに割付けたのは43人、治療を完了したのは38人であった。登録されても治療を開始しなかったり完了しなかった女性の大半は、日程調整の困難さが原因であった。

すべての女性に対し、治療の割付けは知らされなかった。治療は、6週間の期間中に鍼治療12回または偽治療12回(鍼を疼痛に影響しないと考えられる部位に軽く刺すだけ)のいずれかを行うこととした。関節痛、凝り、および膝・手首の機能における変化を判定するため、異なる3種類の尺度が用いられた。

本試験の開始時、鍼治療群の女性では最高疼痛スコアの平均点が6.7点(最高10点)であったのに対し、偽治療群の女性では同平均点が5.6点であった。治療後、鍼治療群の女性では最高疼痛スコアの平均点が3.0点であったのに対し、偽治療群の女性では同平均点が5.5点であった。これらの点数は、鍼治療群における疼痛スコアの50%改善に相当する。

Crew氏らは、「われわれの知る限りこの報告は、AI関連の関節症状のコントロールを目的として治療介入の適用を初めて確立した初めてのランダム化プラセボ対照試験であり、大規模なランダム化試験で確認するべきである」と結論づけた。

ゲノムスキャンから膵臓癌のリスク解明の手がかりがもたらされる

膵臓癌の危険因子が存在するかもしれない3つの染色体上の領域が、膵臓癌のゲノムワイド関連研究により、初めて同定された。よって研究者はこの致死的な疾患に関与する遺伝因子を検索するための新たな手がかりをつかんだことになる。領域の1つは第5染色体上にあり、複数の疾患と関連し、種々の癌に関与している可能性があると、1月24日付のNature Genetics誌オンライン版でこの研究の著者は報告している。

「これはまさに膵臓癌のリスク増加に関連する新たなゲノム領域を同定した初の大規模で包括的な研究である」と、筆頭著者であるメイヨークリニックのDr. Gloria M. Petersen氏は言う。膵臓癌は比較的まれな疾患であり、多くの患者は診断後の生存期間が1年未満であるため、遺伝学的な研究は困難であるとPetersen氏は述べている。

昨年報告された研究チーム初の分析結果では、血液型を決定するABO遺伝子における変異が膵臓癌のリスクと関連していることが明らかになった。最新の分析のために研究チームは活動を広げ、世界中の13の異なる研究に参加した4,000人近い患者からDNAを収集した。次に、患者群と対照群の両方で、550,000個のDNAマーカー(一塩基多型)を検査した。その結果最も多かったのは第1、第13および第5染色体上の領域であった。

「3つの領域が膵臓癌のリスクに関連していることに疑いの余地はない。この3領域はゲノムの中では生物学的に新しく、興味深い位置を示している」と上級著者であるNCIの癌疫学・遺伝学部門のDr. Stephen Chanock氏は言う。第5染色体上の領域は複数の癌で役割を果たしているとみられ、この点で、少なくとも5種類の異なる癌に関連する8q24として知られる第8染色体上の領域に匹敵する可能性があるとChanock氏は加えた。

過去の研究によれば、第5染色体上の領域は、脳腫瘍、肺癌、膀胱癌に加えて黒色腫、白血病、肺線維症に関連づけられている。この領域には、癌に関連するTERTなど2つの遺伝子が含まれる。TERTはテロメアと呼ばれる染色体の末端部分を維持するために不可欠な遺伝子で、この遺伝子の活動が変化すると、細胞がより長く生存して癌化する可能性があると研究者らは述べている。
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川瀬 真紀、斉藤 芳子 訳
鵜川 邦夫(消化器病学・内視鏡学/鵜川医院)、
辻村 信一(獣医学/農学博士、メディカルライター) 監修 

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