2008/10/07号◆癌研究ハイライト

同号原文

NCI Cancer Bulletin2008年10月7日号(Volume 5 / Number 20)

~日経「癌Experts」にもPDF掲載中~

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癌研究ハイライト

・複数の大腸癌スクリーニング検査法の有効性は同等であると米国予防医療専門委員会が発表
・一部の乳癌患者に対して短期の放射線治療が有効であることが示された
・腎臓癌治療薬は高齢者にも有用
・1B期非小細胞肺癌に対する術後補助化学療法による生存率改善は認められない

複数の大腸癌スクリーニング検査法の有効性は同等であると米国予防医療専門委員会が発表

米国予防医療専門委員会(U.S. Preventive Services Task Force:USPSTF)は新たに、50歳から75歳までの人に対して、同程度に有用と判断される3つの検査法のいずれかによる大腸癌スクリーニング検査を受けるべきであると勧告した。独立した専門家によって構成される同委員会は、現時点でいくつかのスクリーニング検査法が患者の生命を救うと示されているとの結論に達した。その検査法とは、高感度な便潜血検査を毎年1回、5年ごとのS状結腸鏡検査とその間の便潜血検査の併用、または10年ごとの大腸内視鏡検査である。新勧告は10月6日付けのAnnals of Internal Medicine誌オンライン版に掲載された。

上記に加え、76歳から85歳までの人は検査の潜在的な効用がリスクに比べて小さいことから、定期的なスクリーニング検査を受けるべきではない、と委員会は勧告した。同じ理由で、85歳以上の人はスクリーニング検査を控えるよう強く訴えている。USPSTFが大腸癌スクリーニングに対して年齢の上限を設定したのは初めてのことであるが、同委員会は最近、75歳以上の人に対して前立腺癌の定期的スクリーニングを行うべきではないという勧告をしている。

同委員会は、スクリーニング検査法としてのコンピュータ断層撮影(CT)コロノグラフィ(バーチャル大腸内視鏡検査とも呼ばれる)および便中DNA検査については、効用および有害性を評価するための証拠が不充分であるとの結論に達した。

米国における現在の大腸癌スクリーニング検査のレベルは、効果的な他の癌スクリーニング検査に比べて遅れている。前回(2002年)の同委員会による勧告では、大腸癌スクリーニング検査自体は支持するが、いずれの方法を推奨するかの根拠が不充分であるとされていた。

新しい報告書では検査法のリスクと効用について議論されている。大腸内視鏡検査がもっとも標準的なスクリーニング検査法とみなされているが、完璧ではなく、一部のポリープや大腸癌を見落とす可能性がある、と著者は述べている。また大腸内視鏡検査は侵襲性の高い手法であるため、より侵襲性の低いS状結腸内視鏡検査と便潜血検査の組み合わせに比べると、リスクがはるかに高い。実施したスクリーニング検査法に関わらず、検査結果が陽性となった患者は大腸内視鏡による追跡検査が必要である。

一部の乳癌患者に対して短期の放射線治療が有効であることが示された

9月22日にマサチューセッツ州ボストンで開催された米国放射線腫瘍学会の年次集会での成果発表によると、低リスク、リンパ節転移陰性の早期乳癌患者において、乳房温存手術後に照射期間を短縮して1回線量を増した放射線治療を受けた群と、それよりも照射期間の長い標準的な放射線治療を受けた群を比較すると、治療実施後10年での再発リスクには差がなく、術後の美容的影響(治療された乳房と治療されなかった側の乳房との比較)も同等であった。

同研究はカナダの癌センター10カ所で実施されたもので、腫瘍摘出手術を受けた患者1,234人が50Gy/25分割/35日以上(1回線量2Gy)もしくはそれより短期間の42.5Gy/16分割/22日以上(1回線量約2.66Gy)の2群に無作為に割り付けられた。

10年間経過観察したところ、局所再発リスクは標準的治療コースで6.7%、短期間治療コースで6.2%と、両群でほとんど同等であった。

美容的な結果が「最良」または「良好」であった患者は標準的治療コースで71%だったのに対し、短期治療コースでは70%であった。両群とも10年間の経過観察後に少数の患者で皮膚および皮下組織に晩発性放射線障害が見られたが、両群の発生率に統計学的な有意差はなかった。

『短期放射線治療』は統計学的に長期的な局所制御が良好で、晩期副作用が少ないという点について通常分割による全乳房照射と比較して遜色なかった」と研究者らは結論づけ、「患者の利便性およびコストを考慮すれば、早期乳癌患者に対してはこのようなより短い期間の治療アプローチを考慮に入れるべきである」と述べた。

腎臓癌治療薬は高齢者にも有用

腎臓癌で最大級のランダム化臨床試験、TARGETの新しい分析結果によると、70歳以上の進行腎臓癌患者においてもソラフェニブ(ネクサバール)治療により70歳未満の患者と同等の治療効果が得られるという。TARGET試験では、高齢者および若齢者の進行腎臓癌患者はともにソラフェニブにより無増悪生存期間が改善し、QOLを犠牲にすることなく臨床的有益性が得られた。この知見はJournal of the National Cancer Institute誌オンライン版に本日掲載される。

英国ケンブリッジ大学のDr. Tim Eisen氏主導の同研究は、高齢者の癌治療における見識のギャップに言及している。高年齢は癌のリスク要因であるにもかかわらず、高齢患者は毒性リスクが高く治療による有益性が得られにくいという認識があるために、臨床試験においてあまり評価対象とされない。TARGET試験において、副作用や自己申告による健康状態悪化までの期間などの指標は70歳以上の患者と69歳以下の患者で同等であった。

69歳以下の患者では無増悪生存期間中央値が23.9週だったのに対し、70歳以上では26.3週だった。70歳以上の患者で完全奏効、部分奏効または安定を達成した患者は84.3%で、69歳以下の患者では83.5%だった。発疹、下痢、倦怠感などの有害事象は年齢に関係なく予測され、制御可能であると著者らは記述している。

今回の知見は、全年齢層の進行腎臓癌患者に対しソラフェニブ投与を支持するものであると、研究者らは結論づけている。

1B期非小細胞肺癌に対する術後補助化学療法による生存率改善は認められない

1B期非小細胞肺癌(NSCLC)患者に対する術後補助化学療法の効果を評価する目的でデザインされた唯一のランダム化試験であるCALGB 9633の長期成績によると、中央値6年の追跡調査後、パクリタキセル(paclitaxel)とカルボプラチン(carboplatin)の併用療法による生存率の改善は認められないということである。

Journal of Clinical Oncologyの 9月22日号オンライン版に掲載されたこの試験結果は、2004年に報告された同試験の初期成績と矛盾する。その試験は、化学療法群に無作為に割り付けられた患者における肺癌死亡率および何らかの原因による死亡率の減少がデータから明らかにされた後、3年近い追跡調査を実施した上で、2003年11月に予定より早く終了した。

去年の11月に発表されたNSCLCの治療を受けている患者に対する術後補助化学療法ガイドラインでは、かなり進行した病期(IIA、IIB、IIIA)の患者に対する使用は支持されたが、1B期患者への使用に関するデータはまだ不確定であるとの結論が下された。

「残念ながら、より長期間の追跡調査では、初期の有望な試験結果は持続しませんでした」とDr. Gary M. Strauss氏(ボストンのTufts Medical Center所属)と研究者らは記した。「明らかに、今回の結果は、1B期NSCLCの標準治療として術後補助化学療法の標準的使用を支持しないものとなっています」

シスプラチンベースの術後補助化学療法に関して以前実施された3件の多施設ランダム化試験においても、化学療法によるIIもしくはIIIA期患者の生存率の向上は認められたが、1B期NSCLC患者における生存率の改善は示されなかった。さらに、4,500人以上の患者が参加した5件の試験のメタ分析で、1B期患者に対する化学療法の効果を明らかにすることはできなかった。

CALGB 9633の二次分析では、化学療法によって直径4 cm以上の腫瘍を有する患者の生存率が向上し病気の再発が抑制されたことが示唆されている。この分析結果をさらに検討するためにメタ分析が実施されている。

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橋本 仁、 豊 訳

平 栄 (放射線腫瘍医) 監修 

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