チロシンキナーゼ阻害薬が まれな神経内分泌腫瘍(MMP)の無増悪生存期間を延長

欧州臨床腫瘍学会(ESMO) 2021プレスリリース

悪性褐色細胞腫および傍神経節腫(MPP)を対象とした初のランダム化試験において、スニチニブ(販売名:スーテント)が無増悪生存期間(PFS)を5カ月以上延長することが明らかになった。このFIRSTMAPPP試験の最新の結果は、ESMO Congress 2021で発表された(1)。

「この非常にまれながんにおいて、これほどハイレベルなエビデンスを得られたのは今回の試験がはじめてです」試験報告の筆者であるGustave Roussy-Cancer Campus(ヴィルジュイフ、フランス)神経内分泌腫瘍部門長のEric Baudin医師は述べている。「この結果は診療を変えるものです。進行悪性褐色細胞腫および傍神経節腫の患者にとって、スニチニブは新たな選択肢であり、最も確実な抗腫瘍効果が期待される治療薬となるでしょう。これらの知見に基づいて、スニチニブはこれらのがん治療の第一選択薬として新たに推奨されるようになるかもしれません」。

MPPはきわめてまれな神経内分泌腫瘍で、年間発症率は100万人に1人未満である。FIRSTMAPPP試験には8年間で、欧州4カ国の15施設から78人の進行性MPP患者が登録された。平均年齢は53歳、59%が男性だった。患者はスニチニブとプラセボに無作為に割り付けられた。その結果、スニチニブ投与群の35.9%が、主要評価項目である12カ月後の無増悪生存(PFS)を達成した。つまり、39人の患者のうち14人のがんは、少なくとも1年間は進行しなかったということだ。同期間のプラセボ群のPFS率は18.9%であり、また無増悪生存期間の中央値はスニチニブ群が8.9カ月、プラセボ群が3.6カ月だった。

「これは説得力のある結果です。スニチニブ群の12カ月無増悪生存率がプラセボ群の約2倍であることが示されたのです」と、マンチェスター大学およびThe Christie NHS Foundation Trust(マンチェスター、英国)の腫瘍内科コンサルタントであるJuan Valle教授は述べている。「進行MPPに対する治療法として現在いくつかの選択肢がありますが、どの治療法にもランダム化臨床試験のエビデンスによる裏付けはありません。一般的に行なわれるのはシクロホスファミドとビンクリスチン、そしてダカルバジンを併用する化学療法ですが、いずれも非常に古い薬剤であり、毒性も強いです。スニチニブの忍容性はこうした薬剤に比べてかなり高いでしょう」。

本試験では、重度の有害事象がスニチニブ投与群の54%、プラセボ投与群の49%に発生した。最も多かったのは無力症または疲労感(18%対3%)と高血圧(10%対6%)だった。死亡は各群で1人ずつだった。Baudin医師は言う。「本試験では、スニチニブ37.5mg/日の忍容性が示されました。とりわけ,MPP患者の3分の2にはホルモン濃度の上昇による高血圧症がみられることがわかっていますが、スニチニブによる高血圧症もコントロールは可能でした」。

Valle教授はこう結論する。「希少がんの治療についても、臨床試験により有効性の評価が可能であることが、この研究によって確かめられました。また学術研究を行ううえで、広範な共同研究が重要な役割を果たすことも明らかになりました。もちろん、このような治療を受けるためには専門の施設を受診することが必要です。希少がん患者がこうした治療を受ける機会、そして新しい治療法のための次世代の臨床試験に登録される機会が確保されるように、私たちは環境を整えていかなければなりません」。

欧州では年間に新たに診断されるがんの24%、つまり4件に1件近くが希少なタイプのがんであり、EUでは約510万人の患者が希少がんを抱えて生活している。このような状況の中、欧州委員会(European Commission)が行なった2021 Thematic Networkの企画募集の呼びかけを受けて、Rare Cancers Europe(RCE)が「Rare Cancers in All Policies」を申請したのは、こうした患者が直面している問題に取り組み、希少がんアジェンダ2030(Rare Cancer Agenda 2030)の達成を支援するためである (2)。

参考文献

1. Abstract 567O_PR ‘First International Randomized STudy in MAlignant Progressive Pheochromocytoma and Paragangliomas (FIRSTMAPPP): an academic double-blind trial investigating sunitinib‘ will be presented by Eric Baudin during Presidential symposium 3 on Monday, 20 September, 15:05 to 16:35 (CEST) on Channel 1. Annals of Oncology, Volume 32, 2021 Supplement 5

2.Rare Cancers Europe is a semi-finalist for a Thematic Network

翻訳担当者 岩佐薫子

監修 泉谷昌志(消化器がん、がん生物学/東京大学医学部附属病院 消化器内科)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

その他のがんに関連する記事

欧州臨床腫瘍学会(ESMOアジア2024)ハイライトの画像

欧州臨床腫瘍学会(ESMOアジア2024)ハイライト

ESMOアジア会議2024は、アジア地域における集学的腫瘍学に特化した年次イベントである。新しい治療法、特定のがん種の管理に関する詳細な議論、アジア全域を対象とした臨床試験、アジア地域...
まれな唾液腺がん(ACC)にアキシチニブ+アベルマブ併用が有望の画像

まれな唾液腺がん(ACC)にアキシチニブ+アベルマブ併用が有望

【MDアンダーソンがんセンター研究ハイライト 2023/03/29】よりVEGFR阻害薬とPD-L1阻害薬の併用は腺様嚢胞がんの新規治療法となるか希少な唾液腺がんである腺様嚢胞...
PREMMplusオンラインツールで遺伝的がんリスク検査が有効な人を特定の画像

PREMMplusオンラインツールで遺伝的がんリスク検査が有効な人を特定

ダナファーバーがん研究所の研究者と医師が開発したオンラインツールにより、特定のがんの発症リスクを高める遺伝的変異について検査を受けるべき人々を正確かつ迅速に特定できることが、新しい研究で示された。 PREMMplusと呼ばれるこのツールは、
アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用は一部の神経内分泌腫瘍(NET)に有効な可能性の画像

アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用は一部の神経内分泌腫瘍(NET)に有効な可能性

一部の神経内分泌腫瘍(NET)において、ベバシズマブ(販売名:アバスチン)とアテゾリズマブ(販売名:テセントリク)の併用療法が転帰を改善する可能性が非ランダム化試験で示唆された。 「1件の小規模単群試験の結果だけに基づいて診療を変えることは