がん骨転移治療薬ゾレドロン酸の使用で顎骨壊死の可能性

がんが骨に転移すると、疼痛や骨折などの問題を引き起こす可能性がある。臨床ガイドラインでは、がんが骨に転移した患者に対して、これらの合併症を管理する上で有用なゾレドロン酸(販売名:ゾメタ)などの骨修飾薬を定期的に投与することを推奨している。

しかしこれらの薬剤では、顎骨壊死などの有害な副作用が発生する可能性がある。顎骨壊死は、まれではあるが顎骨が弱体化していく可能性があり、顎の骨組織が歯肉で覆われなくなり壊死していく。

これまで医師らは、ゾレドロン酸を服用しているがん患者がどの程度の頻度でこの疾患を発症するかについて明確な見解を持っておらず、過去の推定値は1%から15%の範囲であった。

今回、約3,500人を対象とした研究により、より明確なリスクの推定値が示された。

本研究では、ゾレドロン酸が骨に病変のある患者の顎骨に骨壊死を引き起こすリスクは、投与の 1 年後に約 1 %、2 年後に 2 %、3 年後に 3 % であることがわかった。

NCIの資金提供による本研究は、SWOGがん研究ネットワークによって実施され、口腔衛生不良と喫煙がこれらの患者で顎骨壊死を発症させる危険因子であることがわかった。

また、12 月 17 日に JAMA Oncology誌で発表された試験結果では、同一用量のゾレドロン酸をより頻繁に投与された患者の方が顎骨壊死を発症するリスクが高いことが示された。

「これは、歯の健康とゾレドロン酸による顎骨壊死の発症リスクを体系的に評価する最初の研究の 1 つです」と、NCI がん予防部門の副部門長であるLori Minasian医師は述べた。同氏は本研究の促進に協力したが、研究責任医師ではなかった。「この研究はゾレドロン酸やその関連薬剤の害を理解する上で有用で、(がん患者を治療する際に)これらの薬剤をさらに効果的に使用できます」と、Minasian医師は述べた。

例えば、医師はゾレドロン酸の投与頻度を少なくすることを検討してもよいのではないか、とメイヨークリニックのCharles Loprinzi医師は述べた。同氏は以前の研究で、ゾレドロン酸の12週間ごとの投与が4週間ごとの投与と同様に骨転移の合併症を予防する上で効果的であることがわかっていると指摘している。

また、患者が顎骨壊死のリスクを減らすことができる、とMinasian医師は述べた。

「がん患者さんにメッセージとして伝えたいのは、歯を大切にすること(歯磨きをする)、かかりつけの歯科医院に行くこと、そして必ず口腔内の健康状態を良好に保つことです」と、同氏は述べた。

歯の健康状態の悪化と顎骨壊死のリスクとの関連性

ビスフォスフォネート製剤として知られるゾレドロン酸やその類似薬は、がん細胞が骨で増殖する際に生じる骨組織の破壊を妨害する。しかしこれらの薬剤は、骨組織の破壊と再構築の正常なプロセスも妨害することで骨を健康に保つと、Loprinzi博士は述べた。

2003年、ビスフォスフォネート製剤を投与されている患者の中で顎骨壊死が発生していることに、口腔外科医らが最初に気付いた。この症状はこれ以前にはまれにしかみられなかった。ビスフォスフォネート製剤がこの症状を引き起こすメカニズムはまだわかっておらず、治療は困難である。

がん患者における顎骨壊死のリスクを評価するため、歯科専門医とがん研究者を含むSWOG研究チームは、骨転移を有する症例に対してゾレドロン酸の投与を予定していた3,491人の患者を登録した。研究参加者に最も多いがん種は、乳がん、前立腺がん、肺がん、および多発性骨髄腫であった。

参加者を6カ月ごとに観察し、最長3年間追跡した。2,263人の参加者を対象にベースラインの歯科検診を行い、6カ月ごとに歯科検診を受けるように推奨した。

3年後には、約2.8%の患者(90人)で顎骨壊死が確認された。顎骨壊死は、顎骨が露出した状態が少なくとも8週間以上持続していることと定義していた。

「3年後の時点で、歯の健康状態が悪化している、すなわち、歯の欠損、義歯、口腔外科手術歴がある場合、または喫煙者である場合、この合併症を発症する可能性が高いことがわかりました」と、研究責任医師でワシントン大学医学部のJulie Gralow医師は述べた。

現在も喫煙者である場合、元喫煙者または喫煙未経験者と比較して顎骨壊死を発症する可能性が約 2 倍であった。さらに、治療開始から1年以内(またはそれ以上)でゾレドロン酸の総投与量が多い患者は、総投与量が少ない患者と比較して顎骨壊死を発症する可能性が高かった。

顎骨壊死の全発生率は3年後で約3%であったが、がん種によって多少の差があった。例えば多発性骨髄腫患者(4.3%)で最も高く、骨転移した乳がん患者(2.4%)で最も低かった。多発性骨髄腫患者では、乳がん患者よりもゾレドロン酸の投与頻度が増やされている可能性が高いとGralow医師は指摘した。

驚くことではないが、顎骨壊死の発症は患者にとって大きな問題を引き起こした。患者は「疼痛の増加、食事や言葉の障害、口腔内の健康に関連した生活の質の低下」を報告している、と研究責任医師らは書いている。

また、研究期間中、骨の破壊を阻害する別のタイプの薬剤デノスマブ (販売名:エクスジーバ) を投与された患者もいた。これは研究開始後に使用可能になった薬剤である。

「デノスマブが顎骨壊死のリスクと関連していないことを期待していました」と、Gralow医師は述べた。しかし、その後の研究では、デノスマブによる治療中に、ゾレドロン酸による治療と同程度の割合で顎骨壊死が発生することが明らかになった、とGralow医師は述べた。

医師や患者さんにとって有用な情報

本研究は「医師が患者さんと話をするときに使える情報を提供してくれる」と、Gralow医師は述べた。「ゾレドロン酸を投与することの有益性と有害性について説明する際に、現在ではより正確な数値を示すことができるようになりました。また、喫煙者や歯に問題のある患者さんなどリスクが高いと思われる患者さんについてもうまく説明することができるようになり、副作用のリスクを減らすための対策を講じることが可能になりました」と同氏は続けて述べた。

最終的には、研究者らは顎骨壊死の治療と予防のための改善策を開発したいと考えていると、Gralow医師は述べた。

まだいくつかの重要な疑問が残っている。骨転移患者にどれくらいの頻度で、どれくらいの期間ゾレドロン酸を投与するべきかとうことである。

専門家の中には、2年間投与してから中止することを提案している人もいるが、「誰も決定的な研究を行っていないため、これについての普遍的な合意はありません」とLoprinzi医師は述べた。

さらに、本研究では、ゾレドロン酸を3年以上投与しても顎骨壊死のリスクが上昇し続けるかどうかについてのデータは得られていない、と研究リーダーであるミシガン大学のCatherine Van Poznak医師はJAMA Oncology誌のインタビューで述べた。しかし、Poznak医師は、実際には顎骨壊死のリスクは時間の経過とともに増加し続けるだろうと懸念を表明した。

翻訳担当者 会津麻美

監修 山崎知子(頭頸部・甲状腺・歯科/宮城県立がんセンター 頭頸部内科)

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