4個以上の脳転移にも定位手術的照射が推奨される

4~15個の脳転移のある患者には全脳照射よりも定位手術的照射が有効であるとする初めての証拠がMDアンダーソンがんセンターの研究により示された。

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、4~15個の脳転移のある患者に対する定位手術的照射(SRS)と全脳照射治療(WBRT)の効果を比較する初めてのランダム化比較試験を実施し、この患者集団における定位手術的照射の使用を支持する証拠を示した。

MDアンダーソン脳転移クリニックの共同ディレクターであり放射線腫瘍科の准教授でもあるJing Li医学博士が主導した第3相臨床試験の結果が、2020年10月26日に米国放射線腫瘍学会(ASTRO)の年次大会で発表された(Abstract 41)。

脳転移とは、体の別の部位からのがんが脳に転移して形成される腫瘍である。定位手術的照射は、それぞれの脳腫瘍を狙って高線量の放射線を1回だけ照射する高精度の放射線治療であり、外来で治療を受けることができる。全脳照射治療は、数週間かけて脳全体に放射線を照射するが、患者の生活の質(QOL)に悪影響を及ぼす認知機能の深刻な副作用を伴う。

過去5年のうちに、1~3個の脳転移のある患者に対しては定位手術的照射が標準治療となってきたが、これは、定位手術的照射が全生存期間に影響を与えることなく認知機能がより良好であったというランダム化比較試験の結果に基づいている。4個以上の脳転移がある患者は以前の臨床試験には組み込まれておらず、脳内での病勢制御に関する懸念のため、全脳照射治療がこのグループの標準治療とされている。

「脳内病変の数は、転移性病変の脳に対する負荷の指標である」とLi博士は述べた。「例えば、もし患者に脳転移がひとつしかなければ、その患者の脳内転移部位はそこだけである可能性が高い。しかし、転移が10個あれば、MRI検査でも見つけられない顕微鏡的腫瘍がある危険性が高い。われわれの臨床試験は、このような患者に対しても全脳照射を省略したり時期を遅らせたりすることが適切かどうかを決定するように計画された。われわれのデータによれば、定位手術的照射は全脳照射治療と比べて、全生存期間に差を生じることなく認知機能を維持するのに役立った」。

定位手術的照射は全生存期間を損なうことなく認知機能を維持する

この試験は2012年に開始され72人の患者が登録された。臨床試験の参加者は83%が白人、8%が黒人、6%がヒスパニック、3%がアジア人であった。約半数(35人)が60歳以上で、58%が女性であった。2013年に発表された別の第3相試験(RTOG 0614)の結果によると、全脳照射治療群の62%は、認知機能の維持に役立つ認知症治療薬メマンチンの投薬を受けていた。

試験参加者の脳転移の中央値は8個であり、全脳照射治療群または定位手術的照射群に無作為に割り付けられた。参加者は、学習、記憶、注意持続、実行機能、言語流暢性、処理速度、運動の器用さを含む神経認知機能について患者登録時に検査を受け、その後も引き続き検査を受けた。

放射線治療の4カ月後の時点で、定位手術的照射群は全脳照射治療群よりも記憶機能検査の結果が良かった(患者自身のベースラインからの平均Zスコア変化が、定位手術的照射群では+0.21、全脳照射群では-0.74;p=0.04)。臨床的に有意な認知機能低下があった患者は、定位手術的照射群(6%)よりも全脳照射治療群のほうがはるかに多かった(50%)。

全生存期間は両群間で差がなかった(定位手術的照射群では中央値7.8カ月、全脳照射治療群では中央値8.9カ月、p=0.59)。定位手術的照射群のほうが局所制御率は良好であったが(4カ月後に定位手術的照射群では95%、全脳照射治療群では86.7%、p=0.09)、遠隔脳障害までの期間中央値は短かった(全脳照射治療群では10.5カ月、定位手術的照射治療群では6.3カ月、p=0.37)。また、定位手術的照射では全身治療の中断期間が短かった(全身治療までの期間中央値は、定位手術的照射群では1.7週間、全脳照射治療群では4.1週間、p=0.001)。グレード3以上の毒性は、全脳照射治療群では4人、定位手術的照射群では2人に認められた。

「定位手術的照射を受けた患者は、新しい腫瘍があっても小さいうちに検出して治療できるように、3カ月ごとの脳画像再検査により注意深く観察する必要がある」とLi博士は述べた。「患者は最終的には、再発した疾患をサルベージ治療により管理することで、死亡するリスクを増すことなく、より良い認知機能を維持することができる」。

患者登録に課題はあるが、データはこの患者集団に対して定位手術的照射を行うことを支持している

標準の全脳照射治療を海馬回避全脳照射治療で置き換えることに対するレベル1の証拠が得られたとする別の第3相試験(NRG Oncology CC 001)の発表を受け、この臨床試験は72人の患者を登録した後に早期に終了した。

「この試験は早期に終了したものの、定位手術的照射により神経認知面の有益性が得られることをデータが強く示唆したことを大変喜ばしく思う」とLi博士は語った。「われわれは、このような進歩を可能とした臨床試験に参加してくれた患者とその家族に大変感謝している。われわれの次のステップは、定位手術的照射と海馬回避全脳照射治療のいずれの治療選択肢が最も有益であるかを比較するとともに、脳転移患者の治療効果をさらに改善するには定位手術的照射をどのように全身治療と組み合わせることができるかを研究することである」。

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翻訳担当者 伊藤彰

監修 松本恒(放射線診断/仙台星陵クリニック)

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