リ・フラウメニ症候群
MDアンダーソン OncoLog 2016年1月号(Volume 61 / Number1)
Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL
リ・フラウメニ症候群-予防的管理は患者に利益をもたらす-
リ・フラウメニ症候群は遺伝性疾患であり、罹患者は極めて高い確率でがんを発症する。
まれではあるが潜在的に深刻な、この遺伝性症候群の検査をいったい誰が受けるべきか、そして検査で陽性の場合、どのような治療を施すのが最適であるかを判断するのは至難の業である。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターで現在進行中の研究は、リ・フラウメニ症候群の患者を特定し、がんサーベイランスを実施し、がんの早期発見を改善するためのガイドラインを明確化する一助となっている。
遺伝学部門教授のLouise Strong医師は「リ・フラウメニ症候群の患者はとてもがんになりやすく、多くの場合、患者の近親者もそうです。再発や、別のがんをあらたに発症する傾向もあり」、さらに「リ・フラウメニ症候群の患者のなかには、結局5つ以上のがんを発症した人もいます」という。同症候群の患者にもっとも多いがん種は、乳がん、軟部肉腫や骨肉腫、脳腫瘍、そして副腎がんである。リ・フラウメニ症候群患者では、これらのがんが一般よりも若年、つまり子どもや若年成人に発症する傾向がある。白血病、肺がん、大腸がん、メラノーマも、リ・フラウメニ症候群の家系には多く見られる。
1976年に長期研究を開始して以来、Strong医師はリ・フラウメニ症候群家系の最大級のデータセットを構築してきた。これは、同症候群患者のがんリスクの特徴を明らかにする助けとなった。その後、Strong医師はMDアンダーソンのリ・フラウメニ教育と早期発見プログラムである、LEADプログラムを立ち上げ、リ・フラウメニ症候群患者に対する新たなサーベイランスの戦略を検証しようとしている。上記およびそれに類した諸研究の結果からはっきりとわかるのは、リ・フラウメニ症候群を見つけ、患者を注意深く見守ること(モニタリング)がいかに重要であるかということである。
遺伝検査
Strong医師による長期研究のデータにより、リ・フラウメニ症候群はTP53遺伝子における生殖細胞系列の(つまり遺伝性の)変異が原因であると確定できた。TP53遺伝子のミスセンス変異やその他の変異は、身体が遺伝子の損傷を見つけ出して修復するのを妨げ、がん細胞の増殖を許してしまう。これらのTP53遺伝子変異は、血液検査で見つけることができる。
全米総合がんセンターネットワーク(NCCN)が定めた基準に該当する人は、リ・フラウメニ症候群の検査を受けるべきである。一般に、比較的若年で同症候群に関連するいずれかのがんを発症した患者、たとえば35歳未満で乳がんを発症したけれどもBRCA遺伝子変異のない女性は、リ・フラウメニ症候群の検査を受けるべきである。肉腫、脳腫瘍、副腎皮質がんなど特定の稀少小児がんの患者も、TP53遺伝子変異を有するリスクが高いため、検査を受けるべきである。加えて、リ・フラウメニ症候群患者の第1度近親者も全員、検査を受けるべきである。年齢にかかわらず、リ・フラウメニ症候群に関連するがんを複数発症した場合や、がん種にかかわらず、若年でがんと診断された第1度近親者がいる場合も、遺伝検査が推奨される。
サーベイランス
リ・フラウメニ症候群と診断された患者は、多数の部位について頻繁に、新たながん発症がないかサーベイランスを実施すべきである。NCCNガイドラインに従い、LEADプログラムに参加している成人患者は、通常6-12カ月ごとに身体検査を受ける。検査内容は、全身および脳の磁気共鳴断層撮影(MRI)、皮膚科領域評価、神経学的評価、甲状腺・副腎機能の血液検査、さまざまながんバイオマーカーなどである。大腸内視鏡検査と乳がん検診は、一般の人々よりも早期に開始する。患者によっては、それ以外にも、特定部位のがんの検診を実施する場合がある。リ・フラウメニ症候群の患児を対象とするLEADプログラムのサーベイランスの方法は、年齢に応じて異なるが、全身および脳MRIが含まれる。
このようなきめ細かいモニタリングが確かに必要であることが、リ・フラウメニ症候群患者を対象とするカナダでの小規模研究ではっきりと示された。この研究では、一群の患者が6カ月ごとの迅速全身MRIを含めた全身の検診を受け、もう一群は全身検査を受けなかった。X線撮影法やコンピューター断層撮影法〔CT〕ではなく、電離放射線を用いないMRIを選択したのは、リ・フラウメニ症候群患者が、他の人とは違ってとりわけ放射線照射野に発がんしやすいからである。検診開始から初めの8年間に、両群でがんの発症があった。しかしながら、全身検診を受けた患者は、8年後に全員生存していた。これに対し、検診を受けなかった患者は、5年後、わずか20%だけしか生存しておらず、80%はがんで死亡した。このような研究結果をもとに、リ・フラウメニ症候群患者検診に関するNCCNガイドライン、およびLEADプログラムで用いられる類似の検診ガイドラインの最近の改訂が行われている。
LEADプログラムはまだ2年しか経過していないが、すでに注目に値する結果を生んでいると語るStrong医師は、こう言う。「この1年間に、18歳から61歳までの無症状の患者23人を検査しました。そのうち、21人に興味深い検査結果が見られました」。見つかったのはほとんどが嚢胞か血管腫で、そのうち二次検査を要するのは4人だけであった。別途、3件の浸潤性がんが見つかった。42歳患者における胃がんと高異型度非浸潤性乳管がん¹の重複がんと、18歳患者の転移性甲状腺がんであった。Strong医師は、二人とも治療を受けて経過良好であるとし、こう言い添えた。「LEADプログラムは、進行期まで放っておいたら命にかかわる腫瘍を、手遅れにならないうちに発見しました」。
カウンセリングと患者教育
LEADプログラムは、リ・フラウメニ症候群かどうか検査し、患者らにはがんの検診を実施するだけではない。患者とその近親者を対象に、診断検査やサーベイランスをはじめ、同症候群に対処する諸方法について教育することを、LEADプログラムは主要な目的としてきた。LEADプログラム研究グループは意思決定支援ツール動画を作成し、リ・フラウメニ症候群家系の人々がこの疾患の荒波を乗り越える一助とした。また、遺伝検査はどんな結果を生む可能性があるか、乳房切除など予防的手術はどんなリスクと利益をもたらすかなどに関して、広範なカウンセリング・サービスも提供している。
リ・フラウメニ症候群に対する理解が深まったおかげで、また、リ・フラウメニ症候群患者を近親者に持つ人どうし、そしてそのケアにあたる医療者どうしの絆ができたおかげで、近年、同症候群に対する構えが大幅に変わったと、Strong医師は言う。「リ・フラウメニ症候群家系の人たちは団体を作り、支持を拡げ、ブログやソーシャル・メディア〔SNS〕を使って経験を共有しました」彼女はこう続ける。「そのような努力のおかげで、リ・フラウメニ症候群家系の孤独や恐怖、絶望感、そして劣等感がかなり解消されました。今では、一定のコントロールができていると感じ、有効な予防的治療法があると感じる患者が増えました」。
【画像内語句およびキャプション訳】
がん
TP53遺伝子変異
リ・フラウメニ症候群家系におけるがんの発症を示す家系図の一例。
各項の下の数字は、最初にがんと診断された年の年齢、またはがんと診断されたことがない場合には最終の検診時の年齢を示す。
丸印は女性。
図はMDアンダーソン リ・フラウメニ症候群研究グループ提供。
*注釈 1 :「3件の浸潤性がん」に「高異型度非浸潤性乳管がん」が含まれていますが、原文に忠実に翻訳いたしました。
ADDITIONAL RESOURCES
Patient education documents for the LEAD program are available at http://bit.ly/1kIrLfr (adult screening) and http://bit.ly/1Xc3tX8 (pediatric screening).
Physicians and patients can contact the LEAD group at 713-794-5323 or LEADProgram@mdanderson.org.
The NCCN Guidelines for screening and surveillance in patients with Li-Fraumeni syndrome and other hereditary cancer syndromes are available at http://bit.ly/1Nubll0.
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