欧州ESMO2024で発表されたMDアンダーソン演題(乳がん、皮膚がん、MSI-Hがん、コロナワクチン)
有望な新免疫療法薬と標的治療薬、予測バイオマーカー、COVID mRNAワクチンと免疫療法反応に関する知見を特集
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトは、MDアンダーソンの専門家による、がんに関する最近の基礎研究、橋渡し研究および臨床研究を紹介する。今回の特集では、さまざまなながん種における臨床的進歩に焦点を当てた2024年欧州臨床腫瘍学会(ESMO)においてMDアンダーソンの研究者が行う口頭発表を取り上げる。
後掲の研究(要約)のほかに、プレスリリースにおいて次の口頭発表が取り上げられる
・進行または転移のある固形がん患者を対象としたB7-H4標的抗体薬物複合体AZD8205(puxitatug samrotecan)のヒト初回試験の初期結果(アブストラクト606O)。
・治療歴のある進行明細胞腎がん患者を対象とした新規経口HIF-2α阻害剤NKT2152:第1/第2相試験の予備的結果(アブストラクト1690O)
・進行がん患者における興奮性せん妄に対するハロペリドールとロラゼパム: 多施設共同二重盲検ランダム化臨床試験(アブストラクト1476O)
MDアンダーソンのESMO関連の情報はすべてMDAnderson.org/ESMOに掲載されている。
ペムブロリズマブ(キイトルーダ)は限局性MSI-H/dMMRがん患者に持続的ながん抑制効果をもたらす(アブストラクト510MO)
DNAミスマッチ修復に欠陥のあるがんはマイクロサテライト不安定性が高く(MSI-H/dMMR)、免疫チェックポイント阻害剤に対する反応性が高い。Kaysia Ludford医師とMichael Overman医師が主導した研究で、研究者らはMSI-H/dMMR患者35人を対象にペムブロリズマブの長期効果を評価した。中央値で3年近く追跡した結果、無病生存率は80%、全生存率は94%であった。さらに、患者のほぼ40%が完全奏効を達成し、がんの検出不能となった。非手術群では、ほとんどの患者が罹患臓器を温存していた。重要なのは、治療中の腫瘍循環DNA(ctDNA)クリアランス(腫瘍循環DNAがリキッドバイオプシーで検出されない状態)が患者の転帰改善と関連していることであり、これはctDNAが治療効果のモニタリングに有用なツールとなり得ることを示唆している。本研究結果により、ペムブロリズマブにはこの患者集団における長期的ながん抑制効果および臓器温存効果がある可能性が浮き彫りになった。Ludford氏はこの結果を9月14日に発表。
次世代併用療法がCDK4/6治療を受けたHR陽性HER2陰性乳がんにおいて安全性と早期有効性を示す(アブストラクト618MO)
CDK4/6阻害剤とホルモン療法との併用は、HR陽性HER2陰性転移乳がん患者の生存予後を改善したが、オンターゲット毒性と獲得耐性は一般的である。Timothy Yap氏(M.B.B.S.、Ph.D.)が主導した第1b/第2相試験では、次世代CDK4選択的阻害剤atirmociclib(旧PF-07220060)と選択的CDK2阻害剤である画期的新薬PF-07104091の新規併用療法を評価し、安全性およびこの併用療法が獲得耐性を克服できるかを検討した。atirmociclibは、承認済みのCDK4/6阻害剤で報告されている毒性の多くと関連するCDK6を標的としない。多くの治療を受けてきた転移乳がん患者26人において、客観的奏効率は27.8%、病勢コントロール率は55.6%、無増悪生存期間中央値は8.3カ月であった。この併用療法は忍容性が高く、全体として管理可能な安全性プロファイルを有しており、グレード3以上の有害事象として特に多く見られたのは好中球減少症であった。本試験の用量拡大群は現在進行中である。Yap氏はこの結果を9月14日に発表。
ベースライン時のサイトカイン値により呼吸困難の治療効果を予測できる可能性(アブストラクト1821MO)
呼吸困難(息苦しさ)は進行がん患者の多くでよく見られる症状である。David Hui医師が主導する試験のこれまでの結果によれば、高用量デキサメタゾンとプラセボはともに呼吸困難を改善したが、両群間に有意差はなかった。試験結果の二次解析として、研究者らは45人の患者の血液サンプルを評価し、予測バイオマーカーを探索した。デキサメタゾン投与群では、プラセボ投与群とは異なり、14日間にわたってサイトカインであるTNF、IL-6、IL-8の値が有意に低下した。ベースライン時のサイトカイン値が高いほど、デキサメタゾン投与群では呼吸困難強度の減少が大きく、プラセボ投与群では減少が小さかったことから、予測バイオマーカーとしての可能性が強く示された。これらの知見は、デキサメタゾン治療の個別化やプラセボ反応の理解に役立つ可能性がある。Hui博士は9月15日に最終データを発表。
新たな併用療法が進行メラノーマに有効性を示す(抄録番号 71MO)
チェックポイント阻害剤は転移メラノーマ(黒色腫)に大きな臨床的有用性をもたらす一方で、その多くは依然として治療抵抗性を示す。Salah-Eddine Bentebibel医学博士とAdi Diab医師が率いる研究者らは、第1/第2相試験において、未治療のメラノーマ患者32人を対象に、CD40作動薬sotigalimabの腫瘍内注射と免疫療法薬ペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)の併用療法を検討した。この併用療法は50%の客観的奏効率を達成し、91%の病勢コントロール率を示した。この研究では、sotigalimabがCD40経路に効果的に関与し、抗原提示細胞の浸潤と活性化を促進することが示された。この併用により、注射部位だけでなく全身で自然免疫と適応免疫両方の反応が強力に活性化された。追加の解析では、T細胞の高いクローン性が臨床転帰の改善に関連することが示された。この併用療法は忍容性が高く安全であったことから、転移メラノーマの治療選択肢となる可能性がある。Diab氏はこの結果を9月16日に発表。
COVID mRNAワクチンと複数のがんにおける免疫療法への反応改善との関連(アブストラクト995MO)
個別化されたmRNAワクチンは、前臨床モデルにおいて免疫チェックポイント阻害剤の有効性を改善した。COVID mRNAワクチンの効果を調べるため、Adam Grippin医学博士とSteven Lin医学博士が率いる研究者らは、多種類のがんの患者8,000人以上のデータを解析した。生検前100日以内にCOVID mRNAワクチンの投与を受けた患者では、いくつかのチェックポイント阻害剤の標的となる免疫チェックポイントタンパク質PD-L1が有意に増加していた。チェックポイント阻害剤による治療を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)患者のうち、COVID mRNAワクチンを接種した患者は、そうでない患者より2倍長生きした。転移メラノーマでも、COVID mRNAワクチンを投与された患者では、生存期間の改善や病勢進行リスクの低下など、転帰が改善した。この研究は、COVID mRNAワクチンがPD-L1発現を増加させることによりがんの免疫療法を強化し、生存期間の改善につながる可能性を示唆している。Grippin氏はこの研究結果を9月16日に発表。
- 監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)
- 記事担当者 奥山浩子
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- 原文掲載日 2024/09/10
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