トラスツズマブは局所進行性あるいは炎症性乳癌女性に有効

更新日:2014/4/7 原文掲載日 :2010/3/15

Trastuzumab Benefits Women with Locally Advanced or Inflammatory Breast Cancer

Lancet誌2010年01月30日号によると、トラスツズマブ(ハーセプチン)療法と化学療法を術前に受け(術前化学療法)、かつ術後に再度トラスツズマブ療法(術後化学療法)を受けた女性患者は、術前化学療法のみを受け、トラスツズマブ療法を受けなかった女性患者と比較して、乳癌再発または進行のリスクが低下しました。

NCIキャンサーブレティン2010年02月09日掲載記事より(最新号日本語版はこちら

一部の急速進行型の乳癌女性に対して、新たな治療選択肢が国際臨床試験の知見で示されました。同試験では、トラスツズマブ(ハーセプチン)療法と化学療法を術前に受け(術前化学療法)、かつ術後に再度トラスツズマブ療法(術後化学療法)を受けた女性患者は、術前化学療法のみを受け、トラスツズマブ療法を受けなかった女性患者と比較して、3年後の乳癌再発または進行のリスクが低下しました。同知見はLancet誌の1月30日号で発表されました。

本試験に登録された女性患者230人は、HER2陽性の局所進行性あるいは炎症性乳癌のどちらかでした。トラスツズマブはHER2陽性早期乳癌および転移性乳癌女性において全生存率を改善することが明らかにされましたが、同薬の効果はこれらの中間ステージの乳癌女性においてはまだ詳しく研究されていないと研究チームは記しています。

トラスツズマブ療法に無作為に割付けられた患者に計1年間同薬を投与しました。疾患の再発、進行または何らかの原因による死亡として定義された事象がおこらずに、3年間無病生存する確率は、トラスツズマブ療法の患者では71%、トラスツズマブ療法を受けない患者では56%でした。病理学的完全寛解を得た、または癌の存在が検出できなくなった率はトラスツズマブ投与を受けた女性でほぼ2倍でした。

現在まで、トラスツズマブ療法を受けた女性の全生存率における統計的に有意な改善はみられていません。このことは、化学療法単独群の女性のうち17%はトラスツズマブ治療も術後に受けていたという事実、および再発後にトラスツズマブを投与した患者もいたことが原因かもしれないと、Lancet podcastでイタリア国立癌研究所の同試験の主任研究者であるDr. Luca Gianni氏は説明しました。

今回、心機能障害の副作用についての重要な問題はなかったが、トラスツズマブおよび同試験でも用いられた化学療法の1剤であるドキソルビシンを投与した乳癌試験では心機能障害の副作用が、繰り返し問題になっています。

フォックスチェイスがんセンター腫瘍内科部長のDr.Massimo Cristofanilli氏によると、病理学的完全寛解はこれらの種類の乳癌女性において「最も重要な予測因子です」。心機能障害の副作用の割合が低いのは、臨床試験参加者が試験開始前に乳癌の治療を受けていなかったこと、心機能が至適であったこと、ドキソルビシンの累積投与量が典型的に心毒性を伴う投与量以下であったことなどが要因とみられると同氏は述べました。

《追記:Editor’s Note》:この最新知見が2014年3月19日のLancet Oncology誌に掲載されました。長期にわたる追跡調査後も、トラスツズマブ(ハーセプチン)によるイベントフリー生存(EFS) において統計的に有意な改善は持続することが示されました。また、全生存期間(OS)もトラスツズマブ療法を受けた女性患者の方が良好でしたが、未だ統計的に有意な差ではありませんでした。5年イベントフリー生存と全生存期間は、トラスツズマブ療法群がそれぞれ58%、74%であったのに対して、化学療法単独群はそれぞれ43%、63%でした。重篤な有害事象で追加すべき報告はありませんでした。

サブグループ解析では、病理学的完全寛解を得た女性患者(トラスツズマブ療法群117人中45人および化学療法単独群118人中23人)の計68人の内、トラスツズマブ療法群は化学療法単独群より5年で疾患が進行もしくは再発せず生存する可能性が統計的に有意に高いことを示しました。また著者らは、トラスツズマブ療法群においてのみイベントフリー生存と病理学的完全寛解は関連することを明らかにしました。治療効果に基づくこのサブグループ解析が示唆しているのは、「トラスツズマブを加えることにより、多くの患者が病理学的完全寛解を達成するだけでなく、質が異なる反応も生じたということです」と著者らは述べました。

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福田 素子 訳
寺島 慶太(小児科医/テキサス小児病院)監修 
《追記:Editor’s Note》高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)監修 
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