2010/06/29号◆クローズアップ「臨床的な意味がある4つの乳癌臨床試験」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年6月29日号(Volume 7 / Number 13)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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◇◆◇ クローズアップ ◇◆◇
臨床的な意味がある4つの乳癌臨床試験

−読者リクエスト記事−


先日シカゴで開催された全米臨床腫瘍学会(ASCO年次総会で、エモリー大学のDr. William Wood 氏は、臨床的に重要な結果が出されたNCI 支援の4つの乳癌臨床試験について論じた。Wood 氏は、これほど「明らかに臨床に影響を及ぼす結論が」4 つ連続してASCO に報告された記憶はない、とも述べた。

最初の試験は、乳癌患者のセンチネルリンパ節中や骨髄中にまれに存在する細胞を確認するために広く行われている検査は、患者と医師に有意義な情報を提供しないとみられることを明らかにした。免疫組織化学(IHC)と呼ばれる細胞染色法の検査は、病理医による組織標本のスライドの検査では通常は見つからないであろう少数の細胞や微小転移を発見することができる。

研究者らは、IHC 法は、再発の恐れがある患者を特定し、どの患者が全身化学療法を必要とするか判断する手助けとなると仮定したが、結果はそうではなかった。「免疫組織化学によって微小転移が見つかることは予後が悪い前兆であると考えられていましたが、私たちはそれを見つけられませんでした」と、共同研究者であるテキサス大学サウスウエスタン医療センター(ダラス)のDr.A.Marilyn Leitch 氏は述べた。

この前向き多施設試験には、腫瘤摘出術を受けた早期で、臨床的にリンパ節陰性(脇の下のリンパ節に触知可能な転移がない)の乳癌患者の女性5,000 人以上が含まれた。この女性達は、微小転移の存在を確定するためにセンチネルリンパ節生検と骨髄穿刺も受けていた。

「この試験の結果、一般的には、これらの特別な染色はおそらく、今後新たに乳癌と診断された女性に行われることはないでしょう」と、記者会見の司会を担ったハーバード大学医学部のDr.Eric Winer 氏は述べた。IHC は多くの医療施設で日常的に行われているため、この結果は医療に影響を与えるはずであると同氏は指摘した。

骨髄試験に関しては、IHC によって骨髄に腫瘍細胞が見つかった女性の予後はより悪いことが示唆された。しかしこの方法はさらに調査が必要であるとWiner 氏は述べた。「新たに乳癌と診断された女性に対して日常検査の一環として骨髄検査を行うことは、われわれの誰も勧めないと思います」とWiner氏は付け加えた。

生活の質の向上

このセッションのもう一つの試験は、臨床的にリンパ節陰性の乳癌女性のセンチネルリンパ節生検と腋窩リンパ節郭清を比較した大規模ランダム化第3 相試験のNSABP B-32 であった。この試験は、これらの女性は、腋窩リンパ節郭清はセンチネルリンパ節生検単独以上に何のメリットも追加しないとの結論となった

「臨床的にリンパ節転移陰性の乳癌患者に対してセンチネルリンパ節生検が陰性であれば、さらなる腋窩郭清をすることなくセンチネルリンパ節生検のみが適切で、安全、効果的な治療です」と、この研究に参加したバーモントがんセンターのDr. David N. Krag 氏は述べた。「これは、女性のQOL に恩恵を与え、そして医療費節減となる試験に関する明らかな証拠です」。

Wood 氏は外科的な質の管理についてのこの試験のデザインと焦点を称賛し、その証拠が「決定的」であるとしてこの結論に同意した。

関連した試験で、研究者らは、センチネルリンパ節に広がっていた限局性疾患の患者の乳癌細胞をさらに探すために追加して腋窩リンパ節を切除することは生存の改善に関与しなかったことを明らかにした。センチネルリンパ節に転移している患者に対して多くの医師は日常的に腋窩リンパ節郭清を選択しているので、これらの結果は重要であると研究者らは述べた。

腋窩リンパ節郭清は、センチネルリンパ節に微小転移(0.2mmより大きく2mm以下)やマクロ転移(2mmを超える)がある患者に対する標準的アプローチであると、筆頭著者であるジョン・ウェイン癌研究所乳癌センター(カリフォルニア州サンタモニカ)所長Dr. Armando Giuliano 氏は説明した。この試験は症例集積の点で正確に目標を達成できなかったため、結果は最終的なものではないとWiner 氏は指摘した。

しかしこの結果は、このような場合にはセンチネルリンパ節以上にリンパ節を郭清しても利益はないかもしれないことを示唆しており、そして、多くの女性がより広範囲なリンパ節郭清に関連するさらなる副作用リスクを回避することができるとGiuliano氏は述べた。腋窩リンパ節郭清はいくつかのケースで未だ必要ではあるが、これらの結果は、腋窩リンパ節郭清が必要とみられる女性はずっと少ないことを示唆していると彼は付け加えた。

高齢患者を助ける

第4 の試験は、高齢女性の中には乳癌の外科手術の後の放射線治療を実施しなくてもよい場合があることを明らかにした。第3相ランダム化試験の結果によると、70歳以上の早期乳癌女性は、乳房温存術+タモキシフェン治療に放射線治療を追加しても利益が得られない(NCIキャンサーブレティン参照)。

「政府資金のみで実施できたこれらの臨床試験は、生存を低下させることなく、多くの女性に対する不必要な治療の副作用を割愛することになるでしょう」と、NCI 癌治療・診断部門の乳癌治療科のリーダーであるDr.JoAnne Zujewski 氏は述べた。「これらの試験は、医療財政をも助けることになるでしょう」。

Wood 氏は、4 つの研究結果に対する彼の論考を次のように述べて話を結んだ。「これらは日常臨床を変える結果です。そして、単に帰無仮説証明であったとしても、科学的に仮説が実証されたことを知るのは興味深いことです」。

—Edward R. Winstead

翻訳担当者 Nogawa 、

監修 原 文堅 (乳腺腫瘍科/四国がんセンター)

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