2009/10/20号◆クローズアップ「マンモグラフィーによる乳癌過剰診断の可能性」
同号原文|
NCI Cancer Bulletin2009年10月20日号(Volume 6 / Number 20)
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◇◆◇クローズアップ◇◆◇
マンモグラフィーによる乳癌過剰診断の可能性 -読者リクエスト記事-
マンモグラフィーによる乳癌検診を支持する意見の根拠は明快に思われる。つまり、マンモグラフィーは症状の現れる前に癌を検出できるということである。マンモグラフィーによる検診を受けた女性の方が受けていない女性よりも乳癌による死亡が少ないことが複数の臨床試験で示された。
しかし、マンモグラフィーで検出されたごく初期の乳癌のなかには、必ずしも増殖せず、生命にかかわる可能性が低いものがあるとしたらどうであろうか。害のない癌という概念は常識では考えられないことのように思えるが、このような癌は存在するのである。
癌の中には、まったく増殖しない、あるいは増殖が非常に遅いために臨床的に発見されないものがある。乳癌とは無関係な病因により死亡した40歳から70歳の女性に剖検研究を行うと乳腺腫瘍が見つかる。また、2008年に行われた研究では、ごく初期の浸潤性乳腺腫瘍には自然消退するものがあることが示唆され、物議を醸した。
過剰診断
患者の生存期間中に臨床上問題になることのない腫瘍の同定は、過剰診断として知られている。
「過剰診断により、そもそも治療する必要のない癌を“治療する”ことになる場合がよくあります」と国立衛生研究所(NIH)の疾患予防局長で癌検診専門家のDr. Barry Kramer氏は述べている。
進行する乳癌と進行しない乳癌とを医師が見分けることができないために、多くの場合、このような「過剰診断された」腫瘍に対して外科切除を行ったり、場合によっては放射線療法、化学療法、ホルモン療法を行ったりすることになる。したがって、なんの効果も得られない不必要な治療を受ける女性もいるが、毒性作用を及ぼすこともあり、著しい副作用が生じることも多い。
試験では、乳癌に加え、前立腺癌や肺癌などのいくつかの癌の検診で過剰診断が行われていることを強く示唆しているとKramer氏は述べている。
乳癌の過剰診断がどの程度行われているかについては、正確には明らかになっていない。7月にBritish Medical Journal誌に発表された論文では、マンモグラフィー検診で検出される腫瘍の3例中1例が過剰診断であったとデンマークの研究者らは推定している。この推定は、オーストラリア、カナダ、ノルウェー、スウェーデン、英国における公的なマンモグラフィー検診プログラムの導入前と導入後の乳癌発症率の解析結果に基づいている。
2006年の研究は、スウェーデンでのマンモグラフィー検診を受けた女性の25年にわたる追跡調査に基づいており、乳癌の6例中1例が過剰診断であると結論づけている。その他の研究では、過剰診断は5%から32%と推定されている。
「症例を未来から現在へ」
いくつかの要因により、乳癌の過剰診断の推定値が異なってくる可能性がある。1つは、マンモグラフィーで検出された初期の浸潤性腫瘍と非浸潤性乳管癌(DCIS)の両方を研究者が数に入れているか、それとも浸潤性腫瘍だけを数えているか、ということである。「浸潤性癌だけを数えているのであれば、推定値は低くなります。DCISも数に入れているのであれば、推定値は総じて高くなります」とKramer氏は述べている。
もう1つの要因は、癌の発症率の時間的傾向について研究者がどのように仮説を立てているかということである。「過剰診断が行われていなければ、(マンモグラフィーによって)将来診断されるはずの症例が現在診断されることになるはずです」とKramer氏は言う。言い換えれば、マンモグラフィーによって乳癌の症例が1例早期に検出されれば、後に検出される癌が1例少なくなるということである。
これがデンマークの研究者らの仮説であるとNCIの統計研究・応用支部のDr. Kathleen Cronin氏は説明している。「彼らは、マンモグラフィー検診開始後に毎年診断される新しい乳癌症例の数はマンモグラフィー検診導入前と同じ傾向をたどっただろうと仮定したのです」とCronin氏は言う。
しかし実際には、マンモグラフィー検診プログラムが確立された時期とおおよそ一致する1980年代から2001年にかけて、新たに乳癌と診断された症例は年を追うごとに増加していたのである。出産年齢の上昇や閉経後のホルモン治療の使用など、乳癌発症リスク因子の変化も症例増加の一因となった可能性があることにKramer氏は言及している。過剰診断も一因となっている可能性がある。
分子的特徴
注目すべき点は何であろうか。デンマークの研究者らが乳癌の過剰診断の程度を過大推定したと考えている研究者も多い。しかし、治療の必要のない一部の癌もマンモグラフィーによって診断されるということをほとんどの研究者が認めている。
過剰診断の程度はいまだ十分に推定されていないということを認識し、不必要で毒性作用を及ぼすことの多い治療を一部の女性が受けなくてすむようになることを願って、研究者らはマンモグラフィーによる乳癌の過剰診断率をより正確に推定する方法の開発に奮闘している。Cronin氏は、他の要因の中でマンモグラフィーがどのように乳癌発症率に影響を与えているかをさらに解明するために研究を行うNCI支援の研究者共同事業体(コンソーシアム)の科学コーディネーターである。
過剰診断は、集団における経時的な乳癌発症率を比較することにより、集団レベルで特定できる。関連データは乳癌サーベイランス・コンソーシアム(BCSC)およびNCIのメディケア・SEERデータベースで入手することができる。時系列データはこれらの研究の重要な側面である。BCSCは発足から15年以上にわたり、癌患者86,700人を含む女性2,017,869人の情報を収集してきた。
乳癌の過剰診断の問題を解決する1つの方法は、究極的には分子医学の発達から生まれるのかもしれないということに研究者らの意見は一致している。分子医学が発達すれば、マンモグラフィーによって検出された腫瘍を進行するものと進行しないと考えられるものとに医師が識別できるようになる。
「将来的に問題とならない腫瘍を識別できれば、患者を不必要に治療することを避けられます」とNCIの癌バイオマーカー研究グループの主任であるDr. Sudhir Srivastava氏は言う。「また、分子的特徴に基づいて進行性腫瘍と非進行性腫瘍とを識別することは、NCIの支援による早期発見研究ネットワークで現在行われている研究分野です」とSrivastava氏は説明した。
当面のところ、定期的なマンモグラフィー受診を継続すべきかどうか迷っている40歳以上の女性に対し、NCIの応用研究プログラムの乳癌検診専門家であるDr. Stephen Taplin氏は次のようなアドバイスをしている。
「現在では、治療方法が向上し、検診が広く行われるようになったため、20年前に比べて乳癌で死亡することがあらゆる年齢層で少なくなりました。1人の女性個人に対するマンモグラフィーの利点をはかる簡単な方法はありません。しかし、リスクの推定方法を向上させるために研究を行っています。明らかになっていることは、平均して、50歳から75歳までの女性では、マンモグラフィー検診を受けることで、乳癌で死亡する可能性が20%低下するということです。40歳から49歳までの女性では、死亡率の低下はみられるもののわずかであり、利点と害のどちらか大きいかについてはさらに不明です。」
「利点と害のどちらか大きいかは、それぞれの女性が担当の医師から意見を聞いて判断するのがいちばんいいでしょう」Taplin氏はこう続ける。「何が自分にとって大切かを考えてください。マンモグラフィーで異常が発見されたときにどう感じるか考えてみることです。それから自分自身にとってよいと思う判断をしてください。」
マンモグラフィーを用いた乳癌検診の利点と限界についての詳細は、以下のサイトを参照のこと。乳癌検診(PDQ®):(※財団法人 先端医療振興財団『癌情報サイト』日本語訳へリンク)患者向けページ(日本語版) 専門家向けページ(日本語版) 米国予防サービス作業部会(U.S. Preventive Services Task Force) 乳癌検診に関する推奨事項(原文) |
– Eleanor Mayfield
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川瀬 真紀 訳
九鬼 貴美(腎臓内科)監修
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