遺伝子プロファイリングにより乳房温存術後の放射線治療を安全に省略できる患者を特定

【サンアントニオ乳がん学会2022】

サンアントニオ乳がんシンポジウム(2022年12月6~10日)で発表されたメタ解析の結果により、研究中の遺伝子シグネチャーのスコアが低い浸潤性乳がん患者の局所再発率は、乳房温存術後の放射線療法の有無に関わらず同等であることが示された。

乳房温存手術を受けた乳がん患者は、局所再発リスクを減らすため、術後放射線療法を受けることが推奨されている。「しかし、多くの患者は放射線療法を受けなくても局所再発を起こしません」と、スウェーデンのサールグレンスカ総合がんセンターの医師でイエテボリ大学の腫瘍学教授であるPer Karlsson医師は語った。

「今のところ、放射線療法を省略できる可能性のある患者を特定するための、信頼性の高い予測分類法は存在しません。放射線療法は一部の患者で問題となる副作用を伴うことがあるため、放射線療法を安全に省略できる患者を特定することは臨床的に重要です」と、Per Karlsson医師は述べた。

本研究でKarlsson医師らは、乳房温存術後に局所再発した患者としなかった患者との遺伝子発現の差異に基づいて開発された、16遺伝子シグネチャーであるPOLAR(Profile for the Omission of Local Adjuvant Radiotherapy)の予測可能性について評価した。このシグネチャーに含まれる遺伝子は、細胞増殖や免疫反応に関与することが知られている。

Karlsson医師らは、リンパ節転移陰性、エストロゲン受容体陽性、HER2陰性の乳がん患者623人を対象にメタ解析を行った。これらの患者は、乳房温存術後に乳房への局所放射線療法を併用する場合としない場合の有効性を検討する3件のランダム化臨床試験のうち1件に登録されていた。本メタ解析の対象としたこれら3件の臨床試験は、スウェーデンのSweBCG91RT試験、Scottish Conservation Trial(SCT)試験、カナダのプリンス・マーガレット病院(PMH)で行われた試験であった。メタ解析に組み込まれた623人は、SweBCG91RTから354人、SCTから137人、PMHから132人であった。

POLARの予測能を評価するため、Karlsson医師らは患者の乳房腫瘍サンプルの遺伝子発現を解析して各患者にPOLARスコアを割り当て、POLARスコアが高い患者と低い患者で放射線治療の影響を調べた。POLARスコアの高い429人のうち、乳房温存術後に放射線療法を受けた患者は、受けなかった患者と比較して局所再発率が63%減少しており、放射線療法はPOLARスコアの高い患者には有益であることが示唆された。

一方、POLARスコアの低い194人の患者については、術後放射線療法を受けた患者と受けなかった患者の局所再発率に有意差はなかった。10年後の局所再発率は、放射線治療を受けた患者では5%だったが、受けなかった患者では7%であった。

Karlsson医師は次のように総括した。「3件の独立したランダム化臨床試験を対象とした患者レベルのメタ解析で、POLAR遺伝子プロファイルによる、局所放射線療法が有効な患者とそうでない患者の予測に成功し、それによって乳房温存術後に放射線療法を安全に省略できる乳がん患者群を特定しました。」

「乳房照射によって重篤な副作用を起こす患者の割合はほんのわずかですが、乳がんの罹患率を考慮すると、これはかなりの人数になります。だからこそ、POLAR遺伝子プロファイルは、多くの患者の毒性軽減や生活の質の向上に役立つ可能性があります」。Karlsson医師は、POLAR遺伝子プロファイルが臨床で用いられるようになるには、さらなる検証と一層の効率化が必要であると指摘した。

Karlsson医師らは今後の研究で、POLAR遺伝子プロファイルが、局所放射線療法よりもさらに重篤な毒性を伴う領域放射線療法を問題なく回避できる患者を特定できるか否かも検討する予定だ。

本研究の限界は、後ろ向きデザインにある。さらに、POLAR遺伝子プロファイルは、現在利用できる内分泌療法を受けていない患者のサンプルを用いて開発されたが、検証試験には内分泌療法を受けた患者が含まれていた。

本研究は、スウェーデンがん協会、スウェーデン研究評議会、グスタフ5世記念クリニック財団(King Gustaf V Jubilee Clinic Foundation)、スウェーデン政府のALF協定、PFS Genomics社、Exact Sciences社からの資金援助を受けた。

Karlsson医師はExact Sciences社およびPreludeDX社と特許を出願中であり、この2社から特許使用料を得ている。



監訳 北丸綾子(理学博士:分子生物学)

翻訳担当者 平 千鶴

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原文掲載日 2022/12/09


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