進行乳がんへのリボシクリブ+ホルモン療法による一次治療は併用化学療法より有効
【サンアントニオ乳がん学会2022】
対象は、ホルモン受容体陽性/HER2陰性の閉経前または閉経期の患者
visceral crisisを含むホルモン受容体陽性HER2陰性の進行乳がん患者におけるリボシクリブ+ホルモン療法は、併用化学療法と比較して有害事象が少なく、無増悪生存期間が著しく延長した。Visceral crisis(ヴィッセラル クライシス)とは、重要な臓器の機能を損なう転移が存在することと定義される。この第2相RIGHT Choice試験の結果は、2022年12月6日から10日に開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウムで発表された。
「これらの知見は、一次治療のリボシクリブとホルモン療法の併用により、化学療法を回避または遅らせることができ、たとえ生命を脅かすほど悪性度の高い疾患であっても、化学療法に伴う毒性や投与中止を回避できる可能性を示唆しています」と、国立台湾大学病院教授のYen-Shen Lu医師は述べている。
エストロゲン受容体(ER)やプロゲステロン受容体を発現し、成長因子受容体HER2を過剰発現していない乳がん患者は、一次治療としてリボシクリブのようなCDK4/6阻害剤に加えて、エストロゲンの腫瘍促進作用を阻害するホルモン療法(ET)を受けることが最も一般的である。しかし、医師によっては、visceral crisisのように悪性度が高いという特徴のある腫瘍に対し、上記の代わりに化学療法で治療することもある。これらの決定は、ケースバイケースで行われることが多い、とLu氏は述べている。
「visceral crisisの患者に対する治療アプローチは、治療戦略に関する正確なガイダンスがないため、医師にとって時に難しい場合があります」とLu氏は述べている。全米総合がんネットワーク(NCCN)のガイドラインでは、この患者層には化学療法が推奨されているものの、転移の拡大により臓器機能が低下した患者は臨床試験から除外されることが多いため、このような患者に対する新しい治療計画の決定は困難である、とLu氏は話す。
Lu氏らは、リボシクリブ+ホルモン療法を受けた進行乳がん患者の治療成績を、化学療法を併用した患者と比較する目的で第2相RIGHT Choice試験を設計した。彼らは、閉経前または閉経期のホルモン受容体陽性HER2陰性の進行乳がん患者222人(そのうち50%以上が治験担当医師らからvisceral crisisとみなされる)を登録し、うち112人をリボシクリブと、アロマターゼ阻害剤(レトロゾールまたはアナストロゾール)およびゴセレリン(商品名:ゾラデックス。卵巣でのエストロゲン分泌を減少させる)の併用療法を受ける群(リボシクリブ+ホルモン療法群)に無作為に割り付けた。残りの110人の患者は、医師が選択した化学療法を受ける群(化学療法群)に割り付けた。
リボシクリブ+ホルモン療法群の無増悪生存期間は24カ月であり、化学療法群(12.3カ月)と比較して1年近く長かった。また、治療不成功までの期間の中央値も、化学療法群の8.5カ月に対し、リボシクリブ+ホルモン療法群では18.6カ月と長かった。
全奏効率は2つの治療群でほぼ同じであった(リボシクリブ+ホルモン療法群:65.2%、化学療法群:60%)が、下痢や疲労などの症候性有害事象の発生率は異なっていた。重篤な治療関連有害事象は、リボシクリブ+ホルモン療法群の1.8%、併用化学療法群の8%で発現した。同様に、リボシクリブ+ホルモン療法群の7.1%、化学療法群の23%が、治療関連の有害事象により治験治療の少なくとも1つの要素を中止した。
「生存期間を延ばすためには、治療のコンプライアンスが重要なポイントです」とLu氏は述べている。「忍容性が改善された治療法は、間違いなくコンプライアンスを向上させ、その結果、長期に病気をコントロールできる可能性が高まります」。
「リボシクリブ+ホルモン療法は、併用化学療法と比較して、持続的な抗腫瘍効果を発揮し、忍容性もコンプライアンスも良好である可能性があります。全体として、このような治療成績や忍容性の改善は、難治性乳がん患者に対する標準治療の進化につながり、医師にこの患者集団に対する治療指針を提供することができるでしょう」。
Lu氏は、今後行われるサブグループ解析によって臨床特性が明らかになり、それにより、どの患者にリボシクリブ+内分泌療法(ホルモン療法)の併用が最も効果があるか、どの患者に化学療法が効果があるかを医師が予測するのに役立つようになることを期待している。
この試験の制限は、第2相試験としては症例数が比較的少ないこと、また、これらの知見が一次治療にのみ適用されることである。
この試験はNovartis Pharma AG社からの資金提供を受けている。Lu氏個人はNovartis社、Roche社、Merck Sharp & Dohme社、Pfizer社、AstraZeneca社、エーザイ、Eli Lilly社および第一三共から資金提供を受けている。
監訳 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立国際医療研究センター乳腺腫瘍内科)
翻訳担当者 瀧井希純
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原文掲載日 2022/12/06
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