転移乳がんの循環腫瘍細胞数による治療方針決定は長期予後を改善
転移性エストロゲン受容体(ER)陽性 /HER2陰性乳がん患者の一次治療として化学療法かホルモン療法かの選択を導くために循環腫瘍細胞(CTC)数を用いた結果、医師の選択治療と比較して、全生存期間が改善したことが2022年12月6日から10日に開催のサンアントニオ乳がん学会(SABCS)で発表された、STIC CTC試験のデータで示された。
「CTC測定の妥当性は、過去20年間に転移乳がんにおいて幅広く研究されており、われわれや他の研究者は、予後のバイオマーカーとしての臨床的妥当性を以前に実証しています」と、本研究発表者のフランス・パリ、キュリー研究所およびベルサイユ・サンクタン大学腫瘍内科教授のFrancois-Clément Bidard医師・博士は述べた。「われわれは、予後良好な患者に適すると思われるホルモン療法と、予後不良の患者に有益と思われる化学療法との間の難しい治療決定の標準化に、CTC測定が役立つという仮説を立てました」
Bidard氏が説明したように、これら2つの治療戦略を比較した最近の臨床試験がない状況下では、転移乳がん患者の治療では、化学療法に切り替える前にすべてのホルモン療法の選択肢を使い切ることが専門家の間ではコンセンサスとなっている。このような推奨は、化学療法と比較してホルモン療法の副作用が限定的であることに基づいている。しかし、治療法の決定は医師や施設によって大きく異なる。
Bidard氏らは、転移性のER陽性/HER2陰性乳がん患者において、化学療法とホルモン療法との間の治療方針の決定にCTC測定を用いた場合の患者予後の改善効果を検証するため、STIC CTC試験を計画し、755人の患者を、医師による治療決定と、CTC測定に基づく治療決定に1:1で無作為に割り付けた。
Bidard氏は「ほとんどの患者は治療法を変えないものの、CTC数が多い場合には試験担当医師らが推奨するホルモン療法から化学療法にエスカレーション(治療を増強すること)し、逆にCTC数が少ない場合には化学療法からホルモン療法にデエスカレーション(治療を減弱すること)する患者もいると想定していました」と述べた。
2018年のSABCSで報告された本試験の主要結果では、CTC数に応じてホルモン療法から化学療法に治療をエスカレーションさせた患者において、無増悪生存期間が延長したことが確認された。
約5年間の追跡調査を経て、今回、本試験の全生存期間の解析結果が報告された。その結果が示すところによると、試験担当医師が選択した治療とCTC数に基づく推奨治療とに乖離がある患者において、CTC数に基づく治療戦略のほうが長期予後が良好であった。
試験担当医師の選択によりホルモン療法が推奨されたものの、高いCTC数を示したサブグループは全患者群の25%を占めた。このグループのうち化学療法を受けた患者はホルモン療法を受けた同じグループの患者と比較して全生存期間中央値は16か月の延長を示し、死亡リスクは47%の減少を示した。
試験担当医師の選択により化学療法に割り付けられたが、低いCTC数を示したサブグループは全患者群の14%に相当した。このグループのうちホルモン療法を受けた患者は、化学療法を受けた患者と同等の全生存期間を示した。
「STIC CTC試験は、乳がん治療におけるバイオマーカーとしてのCTC数の臨床的有用性を確立した最初の試験であり、ER陽性/HER2陰性の転移性乳がんにおいて、治療開始前のCTC数のたった1回の評価が化学療法と単剤ホルモン療法との間の選択の指針となりうることを示しています」とBidard氏は述べた。「本研究は、予後バイオマーカーを治療アルゴリズムに組み込むことで、転移乳がん患者の管理および転帰を改善できることを示しています」
「興味深いことに、臨床医の評価とCTC測定で一致して予後良好と推定された、全患者群の48%を占めたサブグループでは、一次治療の一環としてサイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害剤を投与されていないにも関わらず、全生存期間の中央値が約5年でした」と、Bidard氏は付け加えた。
本研究の限界は、現在、転移性ER陽性/HER2陰性乳がんの一次治療薬として広く使用されているCDK4/6阻害剤が導入される前に行われたことである。
「本試験デザイン当時の単剤ホルモン療法と化学療法との間の選択に関する問題は、一次治療においてのものでした」と、Bidard氏は述べた。「CDK4/6阻害剤によるホルモン療法は未治療の患者にとって望ましい選択肢ですが、CDK4/6阻害剤による術後療法または一次治療で病勢が進行した後もホルモン療法と化学療法の選択というジレンマは残ります。現在のガイドラインでは、有効期間は短いものの、ホルモン療法を支持することが推奨されています」
「そのシナリオでは、STIC CTC試験の結果に基づくと、CTC測定は、予測バイオマーカーとの組み合わせで、利用可能であればいつでも、化学療法やますます有用性が高まっている抗体薬物複合体の早期使用のカスタマイズに役立つかもしれません」と、Bidard氏は 続けた。
この研究は Institut National du Cancer、Institut Curie SIRIC2プログラム、および Menarini Silicon Biosystems社から資金提供を受けた。Bidard氏は、Menarini Silicon Biosystems社(機関研究費)、AstraZeneca社、Daichii Sankyo社、Exact Sciences社、General Electric Healthcare社、GSK社、Eli Lilly社、Menarini/Stemline社、Novartis社、ProLynx社、Rain Therapeutics社、Roche社、Seagen社およびSanofi社との金銭的関係を報告している。
監修 尾崎 由記範(腫瘍内科・乳腺/がん研究会有明病院)
翻訳担当者 大澤 朋子
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原文掲載日 2022/12/08
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