ペムブロリズマブは進行トリプルネガティブ乳がんの生存を改善

免疫療法薬ペムブロリズマブ(キイトルーダ)の化学療法への追加によって、一部の進行トリプルネガティブ乳がん患者では化学療法単独と比べて生存期間が延長することが、臨床試験の最新結果で示された。

このKEYNOTE-355試験において、腫瘍のPD-L1タンパク質のレベルが比較的高い患者(PD-L1複合陽性スコア[CPS]10以上)に限り、全生存期間が改善した。

CPSが高い患者では、全生存期間中央値が、ペムブロリズマブ+化学療法併用患者では23.0カ月、化学療法単独投与患者では16.1カ月であった。これらの結果が示された追跡期間の中央値は44カ月であった。

スペインの国際乳がんセンター(バルセロナ)のJavier Cortés医師らは、この結果を7月21日付けNew England Journal of Medicine誌で報告した。

Cortés医師らは、本試験の中間データの先行解析において、PD-L1 CPSが10以上の患者において、ペムブロリズマブと化学療法の併用は、化学療法単独と比較して無増悪生存期間を改善すると報告していた。

その結果に基づき、2020年、米国食品医薬品局(FDA)は、腫瘍のPD-L1 CPSが10以上の進行トリプルネガティブ乳がん患者に対して上記併用療法を承認した。

この承認は、がんが外科的に切除できない(切除不能)、乳房付近の組織に広がっているが他の部位には広がっていない(局所進行)、あるいは体の他の部位に広がっている(転移性)患者を対象としている。

KEYNOTE-355の最新結果は、ペムブロリズマブがトリプルネガティブ乳がんに対する「画期的な」治療法であることを裏付けていると、フランスのストラスブールがん研究所(ストラスブール)のXavier Pivot医師が付随の論説で述べている。

進行トリプルネガティブ乳がんに対して新たな治療法が必要

トリプルネガティブ乳がんは、ホルモン受容体陽性乳がんやHER2陽性乳がんなどと比較して、悪性度が高く、治療が困難であり、再発しやすい傾向がある。

NCIがん研究センター女性悪性腫瘍部門のJung-Min Lee医師は、「従来の化学療法はトリプルネガティブ乳がんに対して効果がなく、新たな治療選択肢が必要とされている」と述べている。

KEYNOTE-355試験では、進行性(切除不能、局所進行、転移性)トリプルネガティブ乳がん患者847人を、化学療法+プラセボ投与群および化学療法+ペムブロリズマブ投与群のいずれかに無作為に割り付けた。

本試験では、全患者、PD-L1 CPS 1以上の患者、同スコア10以上の患者において、疾患が悪化するまでの期間(無増悪生存期間)および全生存期間を評価した。本試験に対して、ペムブロリズマブの製造元であるメルク社から資金提供を受けた。

PD-L1 CPSは基本的に、腫瘍内の細胞がPD-L1(ペムブロリズマブが標的とする免疫チェックポイントタンパク質)をどの程度産生するかを示す指標である。ペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬は、免疫チェックポイントを阻害することにより、免疫系を解き放ち、がん細胞を攻撃させる。

PD-L1スコアが1以上の患者において、ペムブロリズマブによる全生存期間中央値の改善はみられず、ペムブロリズマブ+化学療法併用群では17.6カ月、化学療法単独群では16.0カ月であった。

PD-L1スコアが10以上の患者では、治療開始後18カ月時点で、ペムブロリズマブ+化学療法併用群の約58%が生存していたのに対し、化学療法単独群では約45%であった。

重篤な副作用を含む治療関連副作用の発生率は、本試験の患者2群間で同様であった。

両群ともに最も高頻度でみられた副作用は、赤血球数減少、正常値より低い白血球数、および吐き気であった。これらの副作用は一般的に化学療法に伴うものであり、化学療法へのペムブロリズマブ追加によって、患者の副作用発生率が増加することはなかったと、研究著者らは記している。

研究の進捗と今後の課題

進行トリプルネガティブ乳がんに対するペムブロリズマブと化学療法の併用療法を2020年に承認した後、FDAは2021年に早期疾患患者に対してこの併用療法を承認した。

この承認は、別の試験であるKEYNOTE-522の結果に基づいている。同試験では、高リスクの早期トリプルネガティブ乳がん患者に対して、手術前にペムブロリズマブを化学療法と併用投与し、手術後に追加治療、すなわちアジュバント療法としてペムブロリズマブ単剤投与を継続した場合、効果が認められた。

トリプルネガティブ乳がんの研究にとって、「今がエキサイティングな時です」とLee医師は述べる。進行および早期乳がんの双方の患者において、「免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用による効果が確認されたのです」。

ただし、トリプルネガティブ乳がん患者の半数以上はPD-L1 CPSが10未満であり、こうした患者に対する有効な治療法を見つけるためにさらに研究が必要であるとLee医師は注意を促した。

Pivot医師は論説の中で、トリプルネガティブ乳がんと診断される人々は一様ではないと指摘している。今後の研究では、どのような人でペムブロリズマブの効果が得られやすいか、あるいは得られにくいかが解明されていくであろうと述べている。

監訳:下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立国際医療研究センター乳腺腫瘍内科)

翻訳担当者 山田登志子

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