Ki-67バイオマーカー検査によるルミナルA乳がんの放射線療法の省略‐ASCO22
2022年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会のテーマは「イノベーションを通じた公平ながん医療の推進」です。6月3日から7日までイリノイ州シカゴとオンラインのハイブリッドで開催されたこの総会では、世界中のがん研究者や臨床医が集まり、最新の研究や、すべての人が必要ながん治療を受けられる方法について議論が交わされます。
6月7日に発表された注目の研究内容は以下のとおりです。
バイオマーカー検査が、55歳以上の低悪性度ルミナルA乳がん患者の術後放射線療法回避に有用である可能性
この研究は誰に影響を与えますか?
55歳以上の低悪性度ルミナルA乳がんで、乳房部分 手術を受けた人です。
この試験で何がわかりましたか?
バイオマーカー検査で確認された低悪性度ルミナルA乳がんに対し乳房部分手術を受けた55歳以上の患者は、放射線療法を回避できる可能性があることが、第3相LUMINA試験によって明らかになりました。
ルミナルA乳がんは、ホルモン受容体陽性、HER2陰性のがんで、がん細胞の増殖速度を示すKi-67というたんぱく質の値が低いです。Ki-67はバイオマーカーの一つで、体内のがん細胞が作り出す物質です。バイオマーカーは、バイオマーカー検査、または腫瘍マーカー検査と呼ばれるツールを用いて同定され、医師が治療を勧める際に役立ちます。
低悪性度、すなわち進行の遅いタイプのルミナルA乳がん患者は、通常、乳房部分手術(ランペクトミーとも呼ばれる)で腫瘍を切除した後、ホルモン療法と放射線療法を受け、がんが再発する確率である再発リスクを低減することになります。しかし、放射線療法を安全に回避することができれば、患者は新たな治療副作用を発症したり、追加の費用を負担したりしなくて済むようになります。ルミナルA乳がんは再発リスクが低いことが知られているため、このがんの患者の一部において、再発リスクに影響することなく術後の放射線療法を回避できるかどうか、研究者らは評価しました。
本研究では、低悪性度ルミナルA乳がんの55歳以上の女性500人を対象としました。参加者はバイオマーカー検査を受け、Ki-67が認められたがん細胞は13.25%以下であることが確認されました。参加者は全員、2cm(約3/4インチ)未満でグレード1または2の腫瘍を乳房部分手術で切除され、リンパ節にがんはありませんでした。参加者の年齢の中央値は67歳で、88%が75歳未満でした。中央値とは中間値のことであり、参加者の半数は67歳以上、半数はそれ以下の年齢であったことを意味します。
その後、参加者は術後5年間ホルモン療法を受けましたが、放射線療法は受けませんでした。最初の2年間は6ヶ月に1回、その後は1年に1回、検診を受けました。
中央値5年の追跡調査において、再発率(がんが再発した参加者の割合)は2.3%と非常に低くなりました。また、乳がんが発生した場所と反対側の乳房に再発した参加者の割合は1.9%であり、がんが再発しなかった割合は97.3%でした。また、参加者の89.9%が5年後もがんの徴候がなく、97.2%が追跡調査時に生存していました。
患者にとってどのような意味を持ちますか?
バイオマーカー検査により確認された低悪性度ルミナルA乳がんの55歳以上の患者では、再発リスクに影響を与えることなく、乳房部分手術後の放射線療法を安全に回避できる可能性があります。
科学論文の演題アブストラクト(Abstract #LBA501)および著者の開示情報については、ASCO.orgを参照してください。
この抄録に関するプレスリリースについてはASCO.orgを参照してください。
「これまでの研究では、別の腫瘍バイオマーカーによって、再発リスクが非常に低く、化学療法が有益でないと考えられることから化学療法の省略が可能な患者さんを特定できることが示されてきました。LUMINAの結果は、バイオマーカーであるKi67値が低い女性は、重大な急性および晩期副作用を含む放射線療法関連の影響を回避できることを示しています。このような影響には、疲労や心臓疾患や二次がんという生命を脅かすまれな副作用が含まれます。」
– 筆頭著者Timothy Joseph Whelan医師(FASCO) マクマスター大学、ジュラビンスキーがんセンター カナダ、オンタリオ州
*****
日本語訳監修 小坂 泰二郎(乳腺・腫瘍内科/国立国際医療研究センター乳腺腫瘍内科)
翻訳担当者 平沢 沙枝
原文掲載日
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
乳がんに関連する記事
欧州臨床腫瘍学会(ESMOアジア2024)ハイライト
2024年12月20日
喫煙はいかにして乳がん放射線治療を複雑にするのか
2024年12月16日
放射線治療は、放射線(通常はX線)を用いてがん細胞のDNAを損傷させ、がん細胞を破壊...
がんにおけるエストロゲンの知られざる役割ー主要な免疫細胞を阻害
2024年12月2日
乳がん個別化試験で、免疫陽性サブタイプにDato-DXd+イミフィンジが効果改善
2024年12月3日