米国では乳がんの7人に1人が過剰診断の可能性

マンモグラフィ検診で検出された乳がんのおよそ7例に1例は過剰診断であることが、デュークがん研究所の研究で明らかになった。この研究は、米国の現代スクリーニング技術による乳がん過剰診断リスクの解明を目的としていた。

同研究は、2月28日にAnnals of Internal Medicine誌にオンライン掲載されたもので、50歳以上の女性のマンモグラフィ検診に関する意思決定に役立つはずである。一部の例外を除き、米国の医療ガイドラインでは、一般的に50歳以上の女性は2年に1度のマンモグラフィ検診を受けることが推奨されている。

デューク大学人口健康科学部・数学部の助教である筆頭著者Marc Ryser博士は、「過剰診断は医療化(医療や治療の対象となること)を助長します」と述べている。「スクリーニング検査がますます向上し、その使用頻度が高まるにつれ、他の疾患と同様、がんの過剰診断は拡がっています。しかし、この問題は一般の人々にはまだ十分に理解されておらず、人々が検診の利害バランスを理解することは難しい状況です」。

過去30年間、乳がん死亡率が低下したのはマンモグラフィによるところが大きいが、その一方で、過剰診断という不都合な側面が残っている。マンモグラフィによるがん判定のうち、その女性の残りの生涯で臨床的に意義がないものを過剰診断と定義した場合、過剰診断は不必要な治療やストレスにつながる可能性がある。

乳がんの過剰診断がどの程度の頻度で起きるかは明確にはなっておらず、これまでの推定では、まったくない場合から54%の場合まで幅があった。このばらつきは、過剰診断の定義、調査方法、母集団の違いに起因している。

「過剰診断は、直接観察することができないので、厄介な概念です」とRyser氏は述べている。「マンモグラフィ検診でがんがみつかった場合、その女性は治療を受けますが、もし治療を受けずに放置していたら残りの生涯で徴候や症状を発症したかどうか私たちが知るすべはありません」。

Ryser氏らは、この問題の難点に対処する2段階アプローチを考案したとのことである。まず、マンモグラフィ検診を受けた女性の実際の検診歴と診断歴を用いて、前臨床がんの発生率を調べた。また、腫瘍潜伏期間も算定したが、これは、がんが検診でみつからなかった場合に前臨床がんが徴候や症状を示すまでの期間(臨床前発症から臨床検出までの期間)である。

第2段階では、がん発生率と腫瘍潜伏期間の推定値と他の原因による死亡率の生命表を統合してコンピュータシミュレーションを行い、50歳から74歳まで1年おきに検診を受けた場合の過剰診断の程度を予測した。

これらの手法を、約36,000人の女性、82,677回分のマンモグラフィ画像、718人の乳がん診断を含むデータセットに適用したところ、すべての前臨床がんの4.5%が非進行性と推定されることが判明した。

50歳から74歳までの1年おきの検診で検出されたがんのうち、15.4%は過剰診断と推定され、その理由として、進行の遅い前臨床がんの検出が6.1%、乳がんと無関係の原因で死亡したであろう女性の進行性前臨床がんの検出が9.3%であった。

「今回の結果で、乳がんの過剰診断が実際に存在することが確認できましたが、一部の研究で指摘されているほど憂慮すべき頻度ではないと安心する結果でもあります」と、上級著者のRuth Etzioni博士(フレッドハッチンソンがん研究センター公衆衛生科学部門、生物統計学、教授)は語る。

「マンモグラフィ検診をいつ、どれくらいの頻度で受けるかについて十分な情報を得た上で決断するには、その利益と不利益の両方を考慮することが重要です」とRyser氏は言う。「日常診療において、多くの女性とその担当医にみられる傾向として、有益性を重視して、有害性の検討にはほとんど時間をかけていません。しかし、私たちが乳がんの過剰診断に関する強固で防衛的な推定を提示することで、女性とその医師がこれらの重要な決定を行う際にマンモグラフィ検診の長所と短所を比較検討できるようになると思います」。

Ryser氏とEtzioni氏以外の本研究著者は、次のとおりである:Jane Lange、Lurdes Inoue、Ellen S. O’Meara、Charlotte Gard、Diana L. Miglioretti、Jean-Luc Bulliard、Andrew F. Brouwer、E. Shelley Hwang

本研究は、米国国立衛生研究所(R00CA207872、R01CA242735、R01CA192492)、国立がん研究所(P01CA154292、U54CA163303)およびPatient-Centered Outcomes Research Institute(PCS-1504-30370)から資金援助を受けた。

翻訳担当者 山田登志子

監修 田原梨絵(乳腺科、乳腺腫瘍内科)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

転移トリネガ乳がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果予測ツールを開発の画像

転移トリネガ乳がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果予測ツールを開発

ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターおよびジョンズホプキンス大学医学部の研究者らは、転移を有するトリプルネガティブ乳がんにおいて、免疫療法薬の効果が期待できる患者をコンピュータツ...
FDAが高リスク早期乳がんに対し、Kisqaliとアロマターゼ阻害剤併用およびKisqali Femara Co-Packを承認の画像

FDAが高リスク早期乳がんに対し、Kisqaliとアロマターゼ阻害剤併用およびKisqali Femara Co-Packを承認

米国食品医薬品局(FDA)2024年9月17日、米国食品医薬品局(FDA)は、ホルモン受容体(HR)陽性、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陰性の再発リスクの高いステージIIおよびI...
乳がん後の母乳育児が安全であることを証明する初めての研究結果の画像

乳がん後の母乳育児が安全であることを証明する初めての研究結果

● 欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2024で発表された2つの国際的な研究により、乳がん治療後に母乳育児をした女性において、再発や新たな乳がんの増加はないことが示された。
● この結果は、乳...
HER2陽性乳がんの脳転移にトラスツズマブ デルクステカン(抗体薬物複合体)が有効の画像

HER2陽性乳がんの脳転移にトラスツズマブ デルクステカン(抗体薬物複合体)が有効

• 大規模な国際共同臨床試験において、トラスツズマブ デルクステカンは、HER2陽性乳がん患者の脳転移に対して優れた抗がん作用を示した。
• 今回の結果は、今まで行われてきた複数の小規模...