HER2陽性乳がん脳転移にピロチニブ+カペシタビン併用は有望

脳転移を有するHER2(ERBB2)陽性乳がん女性を対象とした第2相試験で、ピロチニブとカペシタビン併用療法により頭蓋内奏効がもたらされた。

ピロチニブとカペシタビンの併用は、「奏効は妥当で副作用は最小限であることから、HER2陽性乳がん脳転移患者に対する合理的な治療の選択肢となり得ます」と研究共著者であるニューヨーク州バッファローのロズウェルパーク総合がんセンターの高部和明医師は電子メールでロイター ヘルスに語った。

しかしながら、このようにも述べている「本試験(PERMEATE)は中国の施設のみで実施されたため、患者は一様に極東アジア人でした。また、試験デザインは、対照群を置かない単一群試験であり、奏効評価は各治験責任医師により行われました」。

「次のステップでは、多様な民族的背景をもつ患者を組み入れたランダム化比較試験を実施し、中央での奏効評価を実施する予定です。また、有害事象が忍容可能であれば、さまざまなpan-HER受容体チロシンキナーゼ阻害薬を用いる試験を検討するべきです」。

Lancet Oncology誌で報告されているように、本試験の研究者らは、中国の三次医療病院8施設で進行中の第2相試験にECOGパフォーマンスステータス(PS、全身状態)0~2の女性患者78人(年齢の中央値、約48歳)を組み入れた。

51人(86%)の患者が放射線療法未治療のHER2陽性脳転移を有し(A群)、その他の患者は放射線療法後に病勢が進行していた(B群)。すべての患者にピロチニブ 400 mgを1日1回、カペシタビン1,000 mg/m2を1日2回、14日間経口投与した後、7日間休薬する3週間のサイクルを病勢進行または忍容不能な毒性が認められるまで続けた。

主要評価項目は、頭蓋内客観的奏効が確認された割合とした。

追跡調査(中央値15.7カ月)後の頭蓋内客観的奏効の割合 は、A群で74.6%、B群で42.1%であった。

最も高頻度の、グレード3以上の治療下発現有害事象は下痢(A群で24%、B群で21%)であった。治療に関連した重篤な有害事象は、A群で2人(3%)、B群で3人(16%)に発現した。治療に関連した死亡は発生しなかった。

著者らは結論として、「われわれの知る限り、本試験は、HER2陽性乳がんで脳転移を有する患者、特に放射線療法未治療の集団においてピロチニブ+カペシタビンの活性および安全性を示した最初の前向き試験であり、本併用療法はランダム化比較試験でさらに検証される価値がある」と述べている。

関連論説の共著者である、リヨンのUnicancer National Breast Cancer Group(UCBG)のThomas Bachelot博士は、ロイター ヘルスへの電子メールで臨床医や研究者に向けて以下の重要ポイントを強調した。

– 公表された試験で、特に活動性乳がん脳転移(*)の治療を検討した試験はきわめて少ないが、その中にはHER2チロシンキナーゼ阻害薬をカペシタビンとの併用で用いた試験がある。なぜなら、HER2チロシンキナーゼ阻害薬はモノクローナル抗体よりも血液脳関門を通過しやすいと考えられているためである。

(*監修 者注:活動性脳転移とは、新規の脳転移が見つかった状態あるいは脳転移の進行が見られているが、それに対して放射線照射などの局所治療が行われていない状態)

– 今回の試験の結果は、以前実施された諸試験の結果と一致している。

– トラスツズマブ エムタンシンなどの大分子薬も脳転移において有効な可能性がある。また、トラスツズマブ デルクステカンでは活動性脳転移における効果が認められつつある。

– したがって、乳がん脳転移では血液脳関門がほとんど破綻しているため、血液脳関門を通過できるかどうかということよりも、その治療の本来の有効性の方が、脳転移に対する効果を左右すると考えられる。

そして、「厳密な臨床効果データを得られる、より多くの前向き試験が必要である」と結論づけた。

本試験は、Jiangsu Hengrui Pharmaceuticals社から一部資金提供を受けた。

出典:https://bit.ly/3GR0Ck8 および https://bit.ly/3HLTC9k  Lancet Oncology
オンライン版 2022年1月24日

翻訳担当者 八木佐和子

監修 尾崎由記範(腫瘍内科・乳腺/がん研究会有明病院 乳腺センター 乳腺内科)

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