ホルモン受容体陽性乳がんにフルベストラント+パルボシクリブへの早期切り替えが有効

アロマターゼ阻害薬+パルボシクリブ併用療法を受けたホルモン受容体陽性乳がん患者において、病勢が進行する前に循環腫瘍DNAの変異が検出された。

アロマターゼ阻害薬+パルボシクリブ(販売名:イブランス)によりホルモン受容体陽性乳がんの治療を受け、病勢が進行する前に血液中にESR1変異の増加がみとめられた患者において、フルベストラント(販売名:フェソロデックス)+パルボシクリブに切り替えた後に無増悪生存期間の中央値が2倍になったことが、第3相PADA-1臨床試験により明らかになった。サンアントニオ乳がんシンポジウム(2021年12月7~10日)で発表された。

「PADA-1は、多くの患者において、病勢が進行する前にエストロゲン受容体遺伝子の耐性関連変異を検出し、これを標的にすることが可能であることを明らかにした最初の試験です」と、この発表を行ったFrançois-Clément Bidard医学博士(仏キュリー研究所およびパリサクレ大学内科腫瘍学教授)は言う。「この試験は、時宜を得てフルベストラントを使用すれば、統計的・臨床的に有意な効果が得られることを示唆しています」。

エストロゲン受容体α(ERα)が発現した乳がんは、アロマターゼ阻害薬によって治療することが多い。この薬剤は、エストラジオールという、エストロゲン受容体αを活性化して腫瘍の成長を促す分子の体内生成を阻害する。近年の研究により、パルボシクリブなどの細胞周期阻害薬と併用すればより高い効果が得られる可能性が示されたため、米国食品医薬品局(FDA)は2017年にこの併用療法を一次治療として承認した。

しかし、エストロゲン受容体αをコードする遺伝子であるESR1が変異して、活性にエストラジオールが必要でなくなることにより、腫瘍にアロマターゼ阻害薬耐性が生じることがある。PADA-1は、このような場合に、パルボシクリブは継続しつつ、アロマターゼ阻害薬をエストロゲン受容体を阻害する別剤(フルベストラントなど)に切り替えれば、効果が得られる場合があることを示した。

「フルベストラントがこれらの変異受容体に対して効果があることに変わりはありませんが、二次治療として使用した場合、無増悪生存期間延長の効果は限られてしまいます」とBidard医学博士は言う。「われわれの目標は、一次治療の間に、患者の血液中にESR1変異が出現するのを確認し、この変異が臨床的な病気の進行につながる前に、出現した時点で対処することでした」。

血液を用いてがんに関連する変異を検出すれば、病勢の進行を非侵襲的に観察することができ、また、現行治療への耐性が他の方法で確認される前に予測できるかもしれない。血液から抽出した血液中遊離DNAの特定の変異を検出する方法のひとつとして、比較的少量の変異DNAを同定する高感度な測定法、ドロップレットデジタルPCR(droplet digital PCR、ddPCR)がある。Bidard医学博士らは、以前にESR1変異を同定するドロップレットデジタルPCR測定法を開発しており、今回の試験でこの測定法を使用した。

PADA-1試験には、成長因子受容体HER2の過剰発現がないエストロゲン受容体α陽性乳がん患者で、アロマターゼ阻害薬+パルボシクリブにより一次治療を受けている1017人が登録した。患者は2カ月ごとにESR1変異スクリーニングのための血液サンプルを提供した。

登録患者のうち407人はESR1変異がないまま病勢が進行し、279人は病勢進行前(219人)または病勢進行と同時(60人)に変異が検出された。変異が確認され、その時点で病勢が進行していなかった患者のみを、アロマターゼ阻害薬+パルボシクリブを継続する群(84人)と、フルベストラント+パルボシクリブに切り替える群(88人)に無作為に割り付けた。

26カ月(中央値)の追跡期間後、フルベストラントに切り替えた患者の無増悪生存期間(中央値)は、アロマターゼ阻害薬を継続した患者の2倍を超え、5.7カ月に対して11.9カ月だった。

また、アロマターゼ阻害薬治療を継続した後に進行した患者は、フルベストラント治療への転向を選択することができた。転向した患者群では、無増悪生存期間の中央値は3.5カ月だった。この結果は、二次治療としてフルベストラントを使用した場合の効果は相対的に短くなることを示した過去の研究を裏付けるものであり、早期検出の重要性を強調するものであるとBidard医学博士は言う。

「一次内分泌治療の開始後二次治療の開始前に、この的を絞った治療を行うことで、統計的にも臨床的にも有意な無増悪生存期間の延長が得られます。経過を観ていると効果が限定的になるかもしれないので、PADA-1の治療戦略を日常診療に当てはめることは有望な選択肢と言えるでしょう」とBidard医学博士は言う。

Bidard医学博士によれば、今後はESR1が変異した腫瘍の臨床的特徴を詳しく研究し、変異が発現する患者を予測できるようにすることが望まれる。ESR1変異が検出された後の治療変更の有効性を検討している他の2つの臨床試験、第2相INTERACT試験と第3相SERENA-6試験も進行中である。

この試験の限界は、無増悪生存期間を決定する研究者が、個々の患者がどの治療群に割り付けられたか知っていたこと、および、ESR1変異の検出に使用されたドロップレットデジタルPCR測定法の臨床使用が米国で認可されていないことである。

本試験はPfizerから資金提供を受けた。Bidard医学博士は、本試験で使用したESR1ドロップレットデジタルPCR測定法の特許を保有しており、AstraZeneca、Eli Lilly and Company、Novartis、Pfizer、Radius Health、Roche Pharmaceuticals、Sanofiから顧問料を、PfizerおよびSeagenからその他のサービスに対する謝礼を受け取っており、また、Pfizer、ProLynx Inc.、Seagenからの委託研究を行っている。

翻訳担当者 奥山浩子

監修 小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)

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