ピロチニブ+化学療法併用は治療歴あるHER2陽性乳がんの転帰を改善
治療歴のあるHER2陽性転移乳がん患者の中で、ピロチニブとカペシタビン(販売名:ゼローダ)の併用療法を受けた患者は、ラパチニブ(販売名:タイケルブ)とカペシタビンの併用療法を受けた患者よりも全生存期間が長くなった。2021年12月7日~10日に開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウムで発表された第3相PHOEBE試験の最新結果から明らかになった。
「HER2陽性転移乳がん患者には通常、HER2標的療法であるトラスツズマブ(販売名:ハーセプチン)+ペルツズマブ(販売名:パージェタ)療法とタキサンを併用するが、この治療法に対する耐性が必然的に生じる」と中国医学科学院の腫瘍内科教授であるBinghe Xu医師は説明している。
この標準療法後にがんが進行した患者は、HER2標的チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)ラパチニブと化学療法薬カペシタビンの併用またはトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)などの別のHER2標的薬による治療を受ける。しかし、ラパチニブをはじめとする多くのHER2標的チロシンキナーゼ阻害薬は可逆的であり、HER2シグナルの阻害を持続することができない。これによって治療耐性が生じ易くなるとXu医師は指摘している。さらに、トラスツズマブ エムタンシンは、多くの国際的なガイドラインではトラスツズマブによる治療後の二次治療として推奨されているが、転移性がんの治療薬としては承認されていない国が多い。
「HER2標的薬を入手する機会が少ない国や地域では、標準療法後に進行した患者に対する新たなHER2標的療法が早急に必要である」とXu医師は述べている。
PHOEBE試験で検証されたピロチニブは、不可逆的なチロシンキナーゼ受容体阻害薬であり、HER2のほか、関連タンパク質であるHER4および上皮成長因子受容体(EGFR、別名HER1)を標的とする。先行する第2相試験では、治療歴のあるHER2陽性転移乳がん患者に対するピロチニブとカペシタビン併用は、臨床的効果があることが明らかになった。第3相PHOEBE試験では、同様の患者を対象に、ピロチニブの効果をラパチニブと比較検討した。
トラスツズマブとタキサンによる治療および最大2ラインの化学療法を受けたことがあるHER2陽性転移乳がんの中国人患者267名をPHOEBE試験に登録した。患者をランダム化により、ピロチニブとカペシタビンの併用投与する群とラパチニブとカペシタビンを併用投与する群に割り付けた。追跡期間中央値は、ピロチニブ群で33.2カ月、ラパチニブ群で31.8カ月だった。データカットオフ時には、ピロチニブ群で40.3%、ラパチニブ群で52.3%の患者が死亡していた。
Xu医師の報告によれば、ピロチニブとカペシタビンの併用療法を受けた患者の死亡リスクは、ラパチニブとカペシタビンの併用療法を受けた患者に比べて31%低く、ピロチニブ群では全生存期間中央値は未達であったのに対し、ラパチニブ群では26.9カ月であった。さらに、ピロチニブ群の患者は、ラパチニブ群の患者と比べて無増悪生存期間が有意に長く(12.5カ月対5.6カ月)、進行リスクが52%低下し、以前に報告された結果と同様であった。
「本試験に登録した患者では、ピロチニブとカペシタビンの併用療法は、安全性プロファイルが管理可能であり、ラパチニブと比較して、無増悪生存期間および全生存期間に統計学的、臨床的に有意な改善が認められた」とXu医師は結論づけている。また、PHOEBE臨床試験の結果を受けて、中国ではHER2陽性転移乳がんの標準2次治療としてピロチニブとカペシタビンの併用療法が承認されたと述べている。「今回発表した全生存期間の最新の解析結果は、このような患者集団にはピロチニブとカペシタビンの併用療法が有効な治療選択肢であることを再確認するものである」。
本試験の限界は、29の異なる研究センターから患者を集めたため、1カ所でHER2の状態を検査することができず、その代わりに各施設の病理医がASCO/CAPガイドラインを用いて個別に評価したことである。さらに、患者登録時に中国ではペルツズマブもトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)も承認されていなかった。そのため、本試験では、このいずれかの治療歴がある患者におけるピロチニブとカペシタビンの併用療法の有効性を評価することができなかった。「とは言うものの、今回の結果は、ペルツズマブやT-DM1が利用できない、高くて受けられない、あるいは禁忌である患者の治療方針の決定に役立つものである」とXu医師は述べている。
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