リボシクリブとレトロゾールの併用で進行乳がんの生存が延長

最もよくみられる転移性乳がんの治療においてCDK4/6阻害剤と呼ばれる薬剤の役割が、大規模試験で得られた最新の試験結果によりさらに明確になった。

MONALEESA-2と呼ばれる臨床試験で、進行乳がんの初回治療としてCDK4/6阻害剤であるリボシクリブ(販売名:キスカリ)とホルモン阻害剤であるレトロゾール(販売名:フェマーラ)を投与した女性は、レトロゾールのみを投与した女性と比較して、全体として約1年長く生存した。

全生存期間の中央値は、両剤を投与された患者がほぼ64カ月、レトロゾールのみを投与された患者が51カ月を超えた。試験に参加した女性は全員すでに閉経しており、ホルモン受容体(HR)陽性でHER2陰性のがんであった。

「進行乳がんの第3相臨床試験の中でこれまでに報告された最も長い生存期間中央値です」と試験の主任研究者であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのGabriel Hortobagyi医師は語った。Hortobagyi医師は9月18日に2021年欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で試験結果を発表した。

さらに、リボシクリブとレトロゾールで治療した試験参加者の半数以上が、治療開始から5年後も生存していた。これは進行乳がん患者を対象とした試験では初めてのことであるとHortobagyi医師は語る。

リボシクリブは、閉経後のHR陽性HER2陰性の進行乳がん女性に対する(レトロゾールなどのアロマターゼ阻害剤と併用した)初回すなわち一次治療として、すでに米国食品医薬品局(FDA)が承認している。この承認は、リボシクリブとレトロゾールの併用療法を受けた患者が、レトロゾール単剤療法を受けた患者と比較して、がんが悪化せずに長期に生存(無増悪生存)したことを示したMONALEESA-2試験の結果に基づいている。

また、別のCDK4/6阻害剤であるパルボシクリブ(販売名:イブランス)とアベマシクリブ(販売名:ベージニオ)の2剤も、同種類の乳がんの治療薬として承認されており、いずれも大規模臨床試験で無増悪生存期間の改善が確認されている。

CDK4/6阻害剤とホルモン阻害剤の併用は、現在、閉経後の女性の進行乳がんに対する標準的な一次治療であるとNCIのがん研究センターの女性悪性腫瘍部門の部門長であるStanley Lipkowitz医学博士は解説する。

今回、リボシクリブが患者の生存期間を改善するという証拠が得られたことで、「患者の大半にCDK4/6阻害剤を優先的に使用すべきかどうかという疑問が生じています」とLipkowitz博士は語る。

CDK4/6阻害剤は、その名の通り細胞分裂を抑制する2つの酵素、CDK4とCDK6の活性を阻害することにより作用する。この2つの酵素は、乳がん細胞、特にホルモン受容体を過剰に生産する乳がん細胞において通常よりも高い割合で存在する。

長年にわたり、HR陽性HER2陰性の進行乳がんの治療は、がんを増殖させるエストロゲンの作用を鈍化させる治療(内分泌療法)が中心であった。内分泌療法には、アロマターゼ阻害剤、タモキシフェン、フルベストラント(販売名:フェソロデックス)などがある。

内分泌療法は非常に効果が高い可能性があるが、最終的にほとんどの患者でその効果が失われる。

2010年代半ばにCDK4/6阻害剤が登場したことにより治療状況が変化した。CDK4/6阻害剤とエストロゲン阻害剤を併用することにより、閉経の有無にかかわらず、患者の腫瘍が治療に抵抗性となるまでの期間を大幅に延長できることが臨床試験で明らかになった。

現在、乳がん治療を専門とする腫瘍内科医の間では、3種類のCDK4/6阻害剤(いずれも錠剤での服用)は効果が同等であるという意見で一致している。しかし、フォックス・チェイスがんセンターの乳がん腫瘍プログラムのMelissa McShane医師は、腫瘍内科医がどの患者に対しどの薬剤を使用するかの選択には複数の要因が影響すると語る。副作用は重要な要因の一つである。

例えば、白血球の減少(好中球減少症)は、よくみられるリボシクリブやパルボシクリブの副作用であるとMcShane医師は解説する。好中球減少症は発熱や発疹などの症状を引き起こし、患者は感染症にかかりやすくなる。そのため、施設に行き定期的に血中濃度を検査できない患者のために腫瘍内科医はアベマシクリブを処方することがある。

しかし、アベマシクリブは下痢を引き起こす可能性が高く、その他特定の健康状態にある患者にとっては特に問題となる可能性がある。

そのため、CDK4/6阻害剤の選択に関して言えば、「本当に患者次第です」とMcShane医師は語る。

MONALEESA-2試験の研究者であるTennessee Oncology社のサラ・キャノン研究所のHoward A. “Skip” Burris医師は、多くの医師にとって治療法を選択する際に最も考慮すべきことは、その治療法により患者がより長期に生存可能かどうかであると述べている。

現在のところ、これら薬剤のいずれの試験でもその可能性を証明したものはないとBurris医師は語る。

進行乳がんで史上最長の生存期間を記録

MONALEESA-2試験に668人が参加し、リボシクリブとレトロゾールによる初回治療、またはプラセボとレトロゾールによる初回治療に無作為に割り付けられた。参加者のほぼ全員に転移性腫瘍が1個以上確認された。MONALEESA-2試験はリボシクリブを製造するNovartis社から資金提供を受けている。

参加者は、がんが悪化するまで割り当てられた治療を継続するか(悪化した時点で担当の腫瘍内科医と相談して他の治療を受ける)、副作用のために治療の継続が困難になるまで治療を継続した。

リボシクリブとレトロゾールの併用療法を受けた参加者は、レトロゾール単剤療法を受けた参加者と比較して、病状が悪化することなく大幅に生存が延長したことが、試験の最初の追跡調査結果で確認された。

より長期の追跡調査で全生存期間の中央値が12.5カ月の改善を示したことをHortobagyi医師はESMOで報告した。さらに、治療開始から5年後の生存率は、レトロゾール単剤投与群が44%であったの対し、リボシクリブ投与群が52%であった。

リボシクリブ群の患者の半数以上が本剤の服用を少なくとも2年間継続したとHortobagyi医師は報告した。

患者のがんが初回治療中に悪化し始めた場合、次の治療の一環として化学療法を受ける場合が多い。しかし、MONALEESA-2試験でリボシクリブ群の患者は、レトロゾール単剤群の患者と比較して、化学療法を最大で1年以上回避できたとHortobagyi医師は報告した。

レトロゾール単剤の治療を受けた患者の3分の1以上が最終的に、がんの進行が開始した後、別のCDK4/6阻害剤(多くはパルボシクリブ)の投与に移行した。

Burris医師によると、患者はリボシクリブの副作用に強い耐性を持つ傾向がある。それでも、MONALEESA-2試験のある時点で副作用により服用を中止したのは、レトロゾール単剤群が約3%であったのに対し、リボシクリブを服用した患者が約11%であった。

CDK4/6阻害剤で懸念されるのはQT延長症候群と呼ばれる心調律障害との関連性である。リボシクリブを服用した患者のうち、QT延長症候群がみられたのは5%未満であり、心調律障害に関連した臨床上の問題があった患者はいなかったとHortobagyi医師は語る。

全体的にみて、好中球減少症など重篤である可能性があると考えられる副作用の多くは症状を引き起こさず、「完全に回復可能 」であったとHortobagyi医師は語る。

一次治療としてのCDK4/6阻害剤の使用

腫瘍内科医の中には依然として、進行乳がんの患者に対しCDK4/6阻害剤を二次治療として残し、ホルモン遮断療法で病状が進行し始めるまで待つ人もいる。しかし、このような考え方が変わることをBurris医師は期待している。

CDK4/6阻害剤の治療法を残しておくべきではありません」とBurris医師は語る。「どの薬剤を選択するかにかかわらず、腫瘍内科医は患者にCDK4/6阻害剤を一次治療として提供すべきです」。

MONALEESA-2試験で得た最新の試験結果をもってリボシクリブを優先的に初回治療に用いるべきかどうかについては共通認識が得られていないようである。

進行乳がん患者を対象とした他の2件の大規模臨床試験でリボシクリブが同様の全生存期間の改善を示したことをBurris医師は指摘した。2件の大規模臨床試験とはMONALEESA-3試験(フルベストラントとの併用)とMONALEESA-7試験であり、閉経前の若い患者を対象としている。

リボシクリブの臨床試験に長く携わっており、臨床試験で得られた生存率のデータが一貫しているため、Burris医師は多くの患者にリボシクリブを使用する傾向があると語る。

他の腫瘍内科医がMONALEESA-2試験の結果をいずれのCDK4/6阻害剤も良い選択であることを裏付けるものとして受け取る可能性が高いとMcShane医師は語る。

閉経後のHR陽性HER2陰性の進行乳がん女性を対象に、パルボシクリブとアベマシクリブを一次治療とした(それぞれPALOMA-2、MONARCH 3と呼ばれる)大規模臨床試験の全生存率データがまもなく公開される予定であるとMcShane医師は語り、試験によりCDK4/6阻害剤による全生存率の改善も示されると期待している。

それでもなお、MONALEESA-2試験のデータは重要であるとMcShane医師は続ける。

「このような結果が出ることを期待していました。期待した結果をみることができたので興奮しています」とMcShane医師は語る。「試験結果はわれわれが現実世界で目にしていることと相関しています。患者さんは常に(生存率の)数値を知りたいと考えていますが、今回その数値を提供することができました」。

翻訳担当者 松長愛美

監修 小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)

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