乳がんのホルモン療法を3年追加しても効果はない

ホルモン受容体陽性がん女性において、アロマターゼ阻害薬の長期投与により転帰の改善がみられるかどうかを検討した乳がんの臨床試験で、治療を3年追加しても効果はみられないとの結論が示された。

閉経後の参加者3,484人は、登録時にすでに5年間の術後内分泌療法を受けていた。参加者は、アナストロゾール(販売名:アリミデックス)を2年間追加投与する群と5年間追加投与する群に無作為に割り付けられた。

2年目の時点で、3,208人はがんの進行が認められず、試験参加を継続した。その後3年間、無病生存率に差はみられなかった。

しかし、本試験で5年間追加投与群の女性は、2年間追加投与群よりも臨床的骨折のリスクが35%高かった。

「この結果は、本試験の参加者のような低リスクまたは平均的リスクの女性に、アロマターゼ阻害薬を2年以上の長期にわたって日常的に投与することに反対する強いエビデンスとなる」と、トロント大学のPamela Goodwin医師は、本試験が掲載されたNew England Journal of Medicine誌の論説で述べている。

本試験(ABCSG-16/SALSA)は、アストラゼネカ社(アナストロゾールをアリミテックスという商標名で販売)とオーストリア乳がん大腸がん臨床研究団体から資金提供を受けた。

「長期(5年以上)の術後補助療法が世界中のほとんどすべての国で標準となっている」ため、この観察結果は多大な影響を及ぼすと考えられると、筆頭著者であるウィーン医科大学のMichael Gnant医師は、ロイター ヘルスに電子メールでコメントしている。

「医師および患者は、10年以下で大丈夫なのかわからないために10年を目指すことが多い。早期に中止すると再発するのではないかという懸念を考慮すると、『長く続ける』という傾向は理解できる。そのため、7年で十分であるというABCSG-16の主な結果は多くの医師や患者にとってきわめて重要になる」。

ルミナル型乳がん女性の半数以上が治療を開始してから5年後以降に再発と診断されるため、長期的な治療が重要となっている。

タモキシフェンの長期投与は有効であることが示されているが、アロマターゼ阻害薬を5年を超えて使用することのデータは確実性に乏しく、特に体のほてり、骨痛、関節痛、認知障害および行動上の副作用が認められる場合、コンプライアンス(患者が医師の処方通りに服薬すること)の低下につながる。

今回の試験は、オーストリアの75施設で実施された。参加者の半数は最初の5年間はタモキシフェンを投与され、7.3%は最初からアロマターゼ阻害薬を投与され、残りの参加者は両方の薬剤を投与されていた。

2年追加投与群へのアロマターゼ阻害薬の投与が中止されてから8年後、参加者1,603人の無病生存率は73.6%であった。同時点で、アナストロゾールをさらに3年間投与を継続して受けた1,605人の無病生存率は73.9%であった。

交絡因子調整後の全生存率もみても、同じことが言える。

「試験の規模と約10年間の追跡期間により、強大な統計的検出力を得ることができた。したがって、ホルモン受容体陽性がんの閉経後女性の大多数にとって、この結果は最も信頼のできるものであると考えられる」とGnant医師は述べている。「きわめてリスクの高い患者に、医師が治療期間を通算7年以上に延長することを勧めるケースが依然としてみられるが、それは例外的なこととなるであろう。一般に、今回の試験結果は新しい標準治療を定義づけるものとして受け入れられると思われる」。

「ランダム化から5年後の臨床的骨折のリスクは、2年追加投与群の方が5年追加投与群よりも低く、4.7%対6.3%であった」と研究者らは報告している。「両群とも骨折予防として同じ投薬を行ったにもかかわらず、骨折リスクにこのような差が生じた」。

アナストロゾール2年間追加投与群で、薬剤に関連する重篤な有害事象が認められた患者の割合は2.3%であった。5年間追加投与群では4.0%であった。もっともよくみられたのは、変形性関節炎であった。

「関節痛および骨関節痛などの筋骨格疾患が頻繁に生じ、これらの後遺症が何年も持続するため、アロマターゼ阻害薬治療の延長が患者のQOLに及ぼす影響は、些細なものではない。数件の試験では、全患者のほぼ半数に認識機能障害、性機能障害、情緒変化または体重増加が認められている」と研究者らは述べている。

「薬剤介入およびライフスタイルへの介入によってこれらの副作用を軽減することができたとしても、このような症状の発現によって、服薬不履行率が高くなることは多い」と指摘している。

今回の試験では、最初の2年間で患者の20%が薬剤の服用を中止していた。その割合は5年目には約33%まで増加していた。

「最終的には、世界中で数百万人の患者が回避可能な数年間の治療を受けずに済むようになる」と、ウィーン医科大学の総合がんセンターの外科教授であるGnant医師は予測している。「これはきわめて喜ばしいニュースだ」。

出典: https://bit.ly/2TCpKZihttps://bit.ly/3iAeo04 The New England Journal of Medicine誌オンライン版2021年7月28日 

翻訳担当者 渡邉純子

監修 田原梨絵(乳腺科、乳腺腫瘍内科)

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

乳がんリスク評価ツールの仕組みの画像

乳がんリスク評価ツールの仕組み

2024年3月、女優のオリヴィア・マン(Olivia Munn)が乳がんと診断されたことを発表した。Munnさんはまた、がんリスク評価ツールが彼女の診断に至る過程で果たした役割を強調し...
ハイリスク遺伝子を有する若年乳がんサバイバーの生殖補助医療は安全の画像

ハイリスク遺伝子を有する若年乳がんサバイバーの生殖補助医療は安全

ハイリスク遺伝子があり、乳がん後に妊娠した若い女性を対象とした初の世界的研究によれば、生殖補助医療(ART)は安全であり、乳がん再発リスクは上昇しないハイリスク遺伝子があり、乳...
【ASCO2024年次総会】T-DXd(エンハーツ)がホルモン療法歴のある乳がん患者の無増悪生存期間を有意に改善の画像

【ASCO2024年次総会】T-DXd(エンハーツ)がホルモン療法歴のある乳がん患者の無増悪生存期間を有意に改善

ASCOの見解(引用)「抗体薬物複合体(ADC)は、乳がん治療において有望で有益な分野であり、治療パラダイムにおける役割はますます大きくなっています。トラスツズマブ デルクステ...
【ASCO2024年次総会】若年乳がん患者のほとんどが治療後に妊娠・出産可能の画像

【ASCO2024年次総会】若年乳がん患者のほとんどが治療後に妊娠・出産可能

ASCOの見解(引用)「乳がんの治療後も、妊娠や出産が可能であるだけでなく安全でもあることが、データが進化するにつれて次々と証明されてきています。この研究では、妊娠を試みた乳が...