スタチンがトリプルネガティブ乳がんの生存期間を延長する可能性

スタチンとして一般に知られているコレステロール降下薬とトリプルネガティブ乳がん患者の生存率に有意な関連があることが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの主導による研究でわかった。スタチンは安価で、入手しやすく、副作用も軽微であることから、この高悪性度の疾患の転帰に重大な影響を与える可能性がある。

本研究は、疫学科助教Kevin Nead医師により主導され、2021年8月3日にCancer誌に掲載された。これは、スタチンの使用とトリプルネガティブ乳がん(TNBC)との関連についての現在の知見を広げるものであり、スタチンと悪性度の高い乳がんのサブタイプとの関連を調べるための、十分な検出力を持つ初めての試験である。

研究者らは、スタチンの使用により、乳がん特異的生存期間で58%、全生存期間で30%の相対的改善がみられることを発見した。追跡期間中央値は、乳がん特異的生存期間が3.3年、全生存期間が4.4年だった。

「スタチンと乳がんに関する文献はすでに存在しますが、それらの結果は不確定なものでした。これまでの研究では、乳がんはただ1つの疾患だとみなされてきましたが、多くのサブタイプがあることがわかり、私たちは、特に悪性度が高く、効果的な治療法の選択肢が限られているこの乳がんに焦点を当てた研究をしたいと考えました」とNead医師は述べた。

トリプルネガティブ乳がんは、乳がんの約10%~20%を占める高悪性度の疾患である。トリプルネガティブとは、乳がんで最も一般的な3つの受容体である、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2がどれも陽性でないことを意味する。これらの要因が重なると、既存の治療法では、積極的に標的とすることができる受容体がほとんどないため、予後不良で治療の選択肢が限られた高悪性度の乳がんになる。

この後ろ向き試験には、メディケア対象患者の2つの大規模な医療費償還請求データベースである、 SEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results)-Medicareレジストリ、およびTCR(Texas Cancer Registry)-Medicareに登録されている患者から対象者を選出した。スタチンの使用状況を確認するために、メディケア・パートDへの加入を条件とした。

研究では66歳を超えるステージ1~3の乳がん患者23192人のデータを対象とした。その患者のうち2281人は、スタチンを偶発的に使用しており、すなわち、乳がんの診断後1年以内にスタチンを使用し始めていた。内訳は、白人78.1%、黒人8.9%、ヒスパニック8.4%、その他4.5%だった。

乳がんのステージ別の解析の結果、早期トリプルネガティブ乳がん患者で、スタチンの偶発的な使用と転帰改善との関連がより強く示される可能性が示唆された。スタチン強度の検討では、高強度スタチンを使用するとトリプルネガティブ乳がん患者の全生存期間に最も強い影響が及ぼされていた。さらに、脂溶性スタチン(シンバスタチン、アトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン)と全生存期間の向上とに統計学的に有意な関連があることもわかった。

「スタチンは乳がんの細胞分裂を減少させ、細胞死を増加させることがわかっています。本研究によりスタチンとトリプルネガティブ乳がんの転帰改善との関連が示され、前向き試験でこの知見をさらに追求する段階だと考えています」とNead医師は述べた。

これらの研究結果を検証し、トリプルネガティブ乳がん治療におけるスタチンの潜在的な役割をより明確にするためには、前向き試験が必要である。

共著者および開示事項の全リストは、こちらで閲覧可能である。本研究は、the National Institutes of Health CCSG(P30 CA016672)によって支援された。さらに、the Cancer Prevention Research Institute of Texas(CPRIT)(RR190077)(FP9178)(RP160674)およびKomen(SAC150061)による支援も受けた。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)

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