リキッドバイオプシーとMRI併用で、乳がん患者の術前治療の奏効を高精度に予測

術前化学療法を受けた局所進行乳がん患者の完全奏効達成予測において、血漿中のcfDNA integrity(長鎖cfDNAと短鎖cfDNAの比として定義される)を評価するリキッドバイオプシー検査が、磁気共鳴画像法(MRI)の精度を改善する可能性がある。この結果は、410日~15日に開催された米国癌学会(AACR2021年次総会バーチャル会議の、第1週に発表された。

イタリア、ジェノバ大学内科フェローのFrancesco Ravera医学博士は、「乳がんは世界で最も多く診断されているがんであり、2020年には約200万人の患者が診断されると言われています」「このよく見られる悪性腫瘍において、治療反応を評価する最良の方法を明らかにすることで、続いて行われる外科的管理をより最適なものに導くことができるでしょう」と述べる。

局所進行乳がんの治療は、時に腫瘍の縮小または消失を目的とした術前化学療法から始まる。Ravera氏によると、この治療で約20%の患者が完全奏効を示す。その後、センチネルリンパ節生検を行い、がんが腋窩リンパ節に転移していないことを確認することになるという。腋窩リンパ節の完全奏効が得られなかった患者は、腋窩リンパ節郭清を行い、脇の下のリンパ節をすべて摘出することになる。腋窩リンパ節郭清は、センチネルリンパ節生検よりもはるかに大掛かりで、永続的な副作用が生じる可能性がある。そのため、術前化学療法の効果を正確に評価し、外科的治療を行うことが重要であるとRavera氏は説明する。

現在、乳がん患者の臨床的奏効を術前に評価する方法として、MRIが用いられているが、この画像診断は精度が十分ではないとRavera氏は指摘する。「乳がん患者の術前化学療法による腋窩リンパ節の完全奏効をより正確に評価する方法が見つかれば、完全奏効であった患者さんのセンチネルリンパ節生検を省略して、長期的な画像モニタリングに置き換えることができるかもしれません。これは、乳がん患者さんに対する効果的で低侵襲な治療法を追求する上で、大きな進歩となるでしょう」とRavera氏は述べる。

これまでの研究では、乳がん患者において、cfDNA integrityが有用な予測バイオマーカーとして利用できる可能性が示されてきた、とRavera氏は指摘する。cfDNA integrityが低いということは、セルフリーDNAの断片化が進んでいるということであり、これはがん患者の典型的な特徴である。正常な細胞が死ぬと、通常、同じような大きさのDNA断片が血流中に放出される。しかし、がん細胞が死ぬときには、さまざまなサイズのDNA断片が放出される。このさまざまなサイズの断片の量を測定することで、臨床医は患者のcfDNA integrityを推定することができる、とRavera氏は説明する。

今回Ravera氏らは、局所進行乳がん患者の術前化学療法の奏効を、cfDNA integrityによって予測できるかどうかを明らかにするため、術前にアントラサイクリン/タキサン系薬剤による治療を受けた38人の患者から採取した血漿を評価した。研究者らは、手術前に採取した血漿サンプル中のさまざまなサイズのセルフリーDNA断片の濃度を評価し、手術後の病理組織検査結果に基づいて、どの断片サイズが術前化学療法の奏効を最も反映しているかを決定した。そして、これらのパラメータを用いて、cfDNA integrityの測定を標準化する指標、すなわちcfDNA integrityインデックスを算出し、全身治療の奏効を示す試験的分類法を構築した。続いて、術前化学療法の完全奏効を予測するため、この分類法の結果を、MRIの結果と比較した。

評価対象となった38人の患者のうち、術前化学療法により病理学的に完全奏効を示したのは11人、術前化学療法後に乳房または腋窩リンパ節に病変が残存する不完全奏効を示したのは27人であった。病理学的検査での完全奏効を予測する精度は、MRI77.1%、cfDNA integrityインデックスで81.6%であった。

また、Ravera氏らは、cfDNA integrityインデックスをMRIと組み合わせることで予測を改善できるかどうかを評価した。これら2つの方法では、約70%の患者で、完全奏効の予測に一致した。MRIとcfDNA integrityインデックスの両方が一致した場合、完全奏効の予測精度は92.6%となり、陽性予測値(陽性の結果を予測する精度)は87.5%、陰性予測値(陰性の結果を予測する精度)は94.7%であった。

Ravera氏は、「本研究では、術前化学療法後の奏効をより正確に予測するために、MRIと容易に組み合わせることができる新たなパラメータが明らかになりました。これは、術前化学療法を受けた乳がん患者さんのリンパ節残存病変を評価する現行のプロトコルに、影響を与える可能性があります」と述べている。

本研究の限界は、サンプル数が少ないことである。Ravera氏は、「乳がん患者さんにおけるcfDNA integrity変化の生物学的原理に関する調査は本研究の範囲外ですが、それとは別に新しいパラメータを検証して、その臨床的有用性を確認していくことが今後の課題です」と述べる。

本研究は、ジェノバ大学、IRCCS Ospedale Policlinico San Martino(Istituto di Ricovero e Cura a Carattere Scientifico)からの助成金、AIRC(Associazione Italiana per la Ricerca sul Cancro)からの研究者助成金、および個人からの寄付により実施された。

Ravera氏は利益相反のないことを表明している。

翻訳担当者 平沢沙枝

監修 尾崎由記範(腫瘍内科・乳腺/がん研究会有明病院 乳腺センター乳腺内科)

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