TMB高値による免疫療法薬への反応予測は特定のがん種にのみ有用

いくつかのがん種について、予測バイオマーカーを同定するためには、さらなる研究が必要であることを示唆する結果が得られた。

腫瘍内の遺伝子変異の割合が高いこと(腫瘍遺伝子変異量[TMB]高値と呼ばれる)は、免疫チェックポイント阻害薬への臨床反応の予測において一部のがん種にしか有用でないことが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らが主導した新たな研究により明らかになった。

この知見は2021年3月15日にAnnals of Oncology誌に掲載され、TMBの状態は、免疫療法への反応を予測する普遍的なバイオマーカーとして使用するには信頼性が低いことが示唆された。メラノーマ(悪性黒色腫)、肺がん、および膀胱がんなどのがんでは、TMBの状態から免疫チェックポイント遮断に対する反応を予測することができた。一方、乳がん、前立腺がん、および脳腫瘍など他のがんでは、良好な反応との相関は認められなかった。

「本研究は、免疫チェックポイント遮断への反応に対するバイオマーカーとしてTMBを分析した、これまでで最も包括的な研究です」と、筆頭著者でシステム生物学博士研究員であるDaniel J. McGrail博士は述べた。「われわれの研究結果は、TMB高値が免疫療法への反応に対する普遍的なバイオマーカーとして適用されることを裏付けるものではありません。また、TMBの状態がアウトカムと相関しないと思われるがん種において、どのようにTMBの状態を適用するのが最善であるかを明らかにするには、がん種ごとに特化したさらなる研究が必要であることを示唆しています」。

腫瘍内の遺伝子変異は、変異タンパク質、すなわちネオアンチゲン産生を引き起こし、免疫系がこれを異常と認識する。TMBが高いと腫瘍の免疫原性も高まるため、TMBの状態は免疫療法への反応を予測するための有力なバイオマーカー候補となっているとMcGrail博士は述べた。

2020年6月、米国食品医薬品局(FDA)は、規定の変異レベル閾値を超えるTMB高値を示す進行および難治性がん患者の治療に抗PD-1療法薬のペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)を承認した。本承認は第2相KEYNOTE-158試験の結果に基づいたもので、TMBが高い患者において奏効率の改善が認められた。しかし試験には、乳がん、前立腺がん、および脳腫瘍など、通常は免疫チェックポイント阻害療法の効果が認められないいくつかのがん種は含まれていなかった。

「TMBが高い患者に対するペムブロリズマブのFDA承認は、たしかに多くの患者に重要な選択肢を提供するものです」と、統括著者でシステム生物学教授のShiaw-Yih Lin博士は述べた。「しかし、今回のFDA承認を臨床医が最大限に活用できるようにするためには、より幅広いがん種におけるTMBの状態をより詳しく調べ、さまざまな分析法によって得られたTMBを調和させる手法を確立することが重要だと感じました」。

研究者らは、がんゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas:TCGA)に登録されている31種類のがんのうち、1万個以上の腫瘍を分析した。TMBの状態と腫瘍免疫原性との相関性を調査することが目的であり、腫瘍への免疫細胞(CD8+T細胞)の浸潤によって相関性を測定した。その結果、研究者らは、TMBの状態とT細胞の浸潤との間に強い相関がある腫瘍と相関のない腫瘍の2つの集団を同定した。

著者らは、TMBの状態に基づく免疫療法への反応の予測をこの2つの集団に対して同等に行うことは不可能と推測した。また、これまでに発表された研究やMDアンダーソンの患者コホートを用いて本試験を評価した。

TMBの状態とT細胞の浸潤との間に強い相関性があるがんでは、TMBが高い患者では臨床的アウトカムが良好であった。このカテゴリーに分類されるがん種全体において、TMBが高い患者のチェックポイント阻害薬に対する奏効率は39.8%であり、TMBが低い患者よりも有意に高かった。

対照的に、別のカテゴリーに分類される腫瘍では、TMBの状態はアウトカムを予測するものではなかった。このカテゴリーでは、TMBが高い患者の奏効率は15.3%で、TMBが低い患者の奏効率よりも低かった。

「TMBの状態は、一部のがん種においては免疫チェックポイント遮断に対する反応を予測する上で有用ですが、すべてのがんに一般化できるものではありません」と、McGrail博士は述べた。「TMB高値が高免疫原性を反映しないがん種に対してTMBの状態が効果的な臨床バイオマーカーとなりうるかどうか、また、どの程度の閾値であればよいのかを判断するために、さらなる前向き研究が必要です」。

さらに研究者らは、がん関連遺伝子のパネルを用いたターゲットシーケンシングによってTMBの状態を評価することは、バイアスのない評価が可能な全エクソームシーケンシングと比較してTMBの過大評価を招くするおそれがあることを明らかにした。全エクソームシーケンシングは臨床現場では実行不可能とはいえ、TMB高値を定義するための閾値は、がん種ごとに特化した方法で評価する必要があるだろう、とMcGrail博士は説明した。

著者らは、本研究には限界があると述べている。本研究がさまざまなDNA配列シーケンシングで得られた結果を対象とする後ろ向き解析であることに加え、コホートによって報告された免疫チェックポイント阻害薬や臨床成績に相違があるためである。

全共著者の一覧と開示情報については論文全文を参照のこと。本研究は、以下の支援を受けて実施された。米国国立がん研究所(K99CA240689、R01 CA218287)、George and Barbara Bush Endowment for Innovative Cancer Research、Kidney Cancer Association Young Investigator Award、Prostate Cancer Foundation Young Investigator Award、MDアンダーソンのMoon Shots Program®の一環であり、科学的な発見を迅速に進め患者の命を救う有益な臨床的進歩につなぐ共同の取り組みであるBreast Cancer Moon Shot®。

翻訳担当者 原久美子

監修 川上正敬(肺癌・分子生物学/東京大学医学部附属病院 呼吸器内科)

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