乳がんの治療の弱点にマクロファージが関与する可能性が明らかに
乳がんは、米国で2番目に多いがんであり、DNA修復機能をもつ乳がん遺伝子BRCAの欠損など多くの細胞制御の誤りにより発症する可能性がある。BRCA関連乳がんは、通常、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬で治療されるが、最近の臨床試験で、免疫療法薬との併用が調べられている。この併用により、腫瘍細胞を殺すことができる免疫細胞であるT細胞が動員されて活性化されることが前臨床試験の結果から期待されている。この併用は興味深いものであるにもかかわらず、研究者らはすでに、PARP阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用により乳がん患者がさらに大きな利益を得る方法を見据えている。これはまさしく、PARP阻害薬に対する反応を高める方法を見つけるためにダナファーバー/ブリガム&ウィメンズ病院がんセンターの研究者チームが時間を費やしている課題である。研究チームは、マクロファージによる免疫抑制がPARP阻害薬の弱点であることを見出した。この発見はNature Cancer誌に発表された。
「PARP阻害薬に対する抵抗性を克服し、この治療法を“ホームラン”にするにはどうすればよいかという疑問が、この研究の原動力となりました」と、統括著者でありブリガム&ウィメンズ病院乳腺外科部門のメンバーおよびダナファーバー乳腺腫瘍免疫研究室のディレクターであるJennifer Guerriero博士は述べた。「私たちの研究は、T細胞が活性化する能力を制限する何かが腫瘍微小環境にあること、そしてPARP阻害薬治療後に高度に抑制的になることが発見されたマクロファージこそが、その何かであるらしいことを示唆しています」。
少人数の遠隔転移を有する乳がん患者を対象とした初期検討結果は、PARP阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用が有効であることを示している。ダナファーバーがん研究所(DFCI)の研究者らの主導で最近開始された全米での術前臨床試験では、PARP阻害薬に感受性のある遺伝子変異を持つ患者においてこの標的を絞った併用療法の有効性が検証される。
BRCAタンパク質と同じくPARPタンパク質は、損傷したDNAを修復する働きをする。腫瘍では、DNA修復を阻害することはがん細胞の死を意味するので、BRCAとPARPの修復機構をともに取り除けばがん細胞死が誘導される。PARP阻害薬は、がん細胞の存在を体が認識するのに必要なT細胞を呼び寄せる。
T細胞と同じく免疫細胞の一種であるマクロファージは、傷を修復するために動員される。がんでは、腫瘍部位に動員されたマクロファージはこれを傷とみなし、修復し強化することで結果として腫瘍を進行させる。PARP阻害治療後のがん組織では、自らの生存に必要な受容体であるCSF-1Rを発現しているマクロファージが多く存在することを研究チームは発見した。そこで研究チームは、PARP阻害と組み合わせてCSF-1R陽性マクロファージ(とりわけ抑制的なマクロファージのタイプ)を標的とすることで抗腫瘍反応を高めることができるとの仮説を立てた。
CSF-1R陽性マクロファージは腫瘍を進行させるので、研究者らにとって、このマクロファージを無力化することは重要な治療標的であるように思われた。研究チームは、トリプルネガティブ乳がんBRCA欠損マウスモデルを用いて、異なる治療法や治療法の組合せに対するT細胞とマクロファージの反応を評価することでこれらの抑制型マクロファージの特徴を明らかにした。
PARP阻害療法とCSF-1R阻害療法を併用すると、抗腫瘍反応は劇的に高まり全生存期間が顕著に伸びた。さらに、PARP阻害薬、CSF-1R阻害薬、およびSREBP1(脂質代謝の鍵となる制御因子)阻害の3つを組み合わせると、悪性度の高いトリプルネガティブ乳がんマウスモデルで腫瘍が完全に消滅した。研究者らはこの治療が成功したことから、PARP阻害薬は腫瘍微小環境においてマクロファージが抑制型になるよう直接的に活性化すると推測した。
乳がん組織は治療前に特徴が明らかにされることが多い一方、治療開始後の組織生検により、これらの“役者たち”の微妙な特徴をより多く明らかにできる可能性がある。重要なことは、PARPとマクロファージの作用機序を説明することが、効果的な治療法を開発し、臨床に橋渡しするのに決定的な意義を持つということである。
「ダナファーバー/ブリガム&ウィメンズ病院がんセンターにおいて、臨床分野の同僚たちと緊密に連携して、どの患者がどの治療に反応するかを判断するためのより良いバイオマーカーを見つけるのに決定的な意義をもつ重要な問いに取り組む機会を得ています」と、Guerriero博士は述べた。「私はPARP阻害薬の使用について非常に楽観的です。PARP阻害薬はBRCA欠損がん患者にとってゲームチェンジャー(治療に大きな影響を与える因子)であり、その応用は乳がんだけに限られるものではありません」。
この研究は、以下の団体からの資金提供を受けて実施された。Dana-Farber Cancer Institute/Eli Lilly & Co. Research Collaboration, the Dana-Farber/Harvard Cancer Center (DF/HCC) Specialized Program of Research Excellence (SPORE) in Breast Cancer P50 CA1685404 Career Enhancement Award, the Susan G. Komen Foundation Career Catalyst Award CCR18547597, the Terri Brodeur Breast Cancer Foundation, the Breast Cancer Research Foundation, the Ludwig Center at Harvard, the Center for Cancer Systems Pharmacology NCI U54-CA225088, Eli Lilly, NIH/NHLBI (K08 HL128802 R01 CA090687 and P50 CA1685404), the Rob and Karen Hale Distinguished Chair in Surgical Oncology, the Spanish Ministerio de Economia, Industria y Competitividad (grant SAF2017-83565-R) and the Fundación Cientifica de la Asociacion Española Contra el Cancer (AECC) (grant PROYEI6018YELA)
引用論文:Mehta, A, et al. “Targeting immunosuppressive macrophages overcomes PARP inhibitor resistance in BRCA1-associated triple-negative breast cancer” Nature Cancer DOI: 10.1038/s43018-020-00148-7
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