高齢のHR陽性乳がんに対する術後放射線療法は10年生存率に影響しない可能性

高齢のホルモン受容体陽性乳がん患者では、乳房温存手術後に放射線療法を実施しなかった場合、術後放射線療法を実施した場合よりも局所再発率は高かったが、両群の10年生存率は同等であったとの最新データ(PRIME II試験)が示された。12月8日~11日開催の2020年サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で発表された。

「先進国で乳がんと診断された患者の半数以上は65歳以上です」と、エジンバラ大学西部総合病院の臨床腫瘍科の教授であるIan Kunkler医師(FRCPE)は述べている。この集団では一般的に悪性度の低い乳がんと診断されるにもかかわらず、乳房温存手術を実施する患者のほとんどが、術後全乳房照射を受け続けている、と同医師は説明する。「リスクの低い乳がんを有する高齢患者に対し、放射線療法を実施しないことが可能かを検討することに関心がありました」。

PRIME II試験では、転移のないホルモン受容体(HR)陽性乳がんを有する患者1,326人が登録された。患者はすべて65歳以上であり、乳房温存手術を受けており、また、術後ホルモン療法を受けていた。患者は、術後放射線療法を実施する群または実施しない群に無作為に割り付けられた。Kunkler医師らの以前の報告では、放射線療法を実施しなかった患者で局所再発(原発巣が発生した乳房と同じ乳房内での再発と定義)の割合が高かったが、5年後の全生存、遠隔転移、新規乳がんについては両群間に有意差は認められなかった。

シンポジウムで発表された最新のデータから、10年にわたる追跡調査の結果が報告された。Kunkler医師によると、放射線療法を実施しなかった患者の10年局所再発率は、放射線療法を実施した患者よりも有意に高かった(9.8%対0.9%)。

術後放射線療法は局所再発のリスクに影響を与えたが、その他の臨床転帰への有意な影響は認められなかった。放射線療法を実施しなかった患者と放射線療法を実施した患者の10年後時点の遠隔転移発生率1.4%対3.6%、対側乳房での再発率1.0%対2.2%、全生存率80.4%対81.0%は同程度であった。死因のほとんどは乳がん以外であった。

「術後放射線療法を実施しないことにより、生存率が低下したり、遠隔転移のリスクが増加したりすることはないことが明らかになりました」とKunkler医師は述べる。「これらの結果に基づき、術後ホルモン療法を受けており、一定の臨床病理学的基準を満たしている限局性HR陽性の高齢乳がん患者には、乳房温存手術後に放射線療法を行わないことを選択肢の1つとすべきと考えています」。

本研究の制約は、グレード3の腫瘍を有する患者がわずか数人しか登録されていないことであり、高グレード腫瘍または3cmを超える腫瘍を有する患者にはこの結果を適用できないであろう。また、併存疾患や、術後ホルモン療法のアドヒアランスに関するデータは収集されていない。

この研究は、スコットランドのチーフサイエンティストオフィスとエディンバラ乳がん研究所NHS基金の支援を受けている。Kunkler医師は、利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 重森玲子

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立国際医療研究センター 乳腺腫瘍内科)

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