再発スコアが低い早期乳がんの閉経後女性は術後化学療法の省略が可能か

閉経前の女性では、術後化学療法による生存率は向上する可能性

2020年12月8日から11日まで開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で発表されたSWOG S1007 RxPONDER試験のデータによると、リンパ節転移陽性の早期乳がんで再発スコアが25以下の女性で、術後ホルモン療法+化学療法併用または非併用治療を実施した場合、中央値5.1年の追跡調査の後、閉経後の患者では化学療法の効果は認められなかったが、閉経前の患者では化学療法によって無浸潤疾患生存期間(IDFS)が改善され、全生存期間にも改善の兆しがみられた。

「乳がんの最も一般的な形態は、ホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性であり、すべての浸潤性乳がんの約3分の2を占めています」と、エモリー大学ウィンシップがん研究所グレンファミリー乳腺センターの所長で、理学修士および医師であるKevin Kalinsky氏は述べる。

RxPONDER試験は、米国国立がん研究所(NCI)の支援を受け、SWOGがん研究ネットワークによって計画および運営されている。この試験は、HR陽性HER2陰性の乳がんで、腋窩リンパ節転移が1~3個ある患者のうち、化学療法の利益を受ける患者と、化学療法を安全に回避でき、ホルモン療法のみでも同様の結果が得られる患者とを特定することを目的としたものであると、Kalinsky氏はいう。 「今までこの判断の指針となるような、大規模なランダム化試験のデータはありませんでした」と、同氏は付け加えた。

「今回の解析の時点で、HR陽性HER2陰性、リンパ節転移が1~3個で再発スコアが25以下の閉経後の女性では、術後化学療法を安全に回避できることが示されています。一方、HR陽性HER2陰性の、リンパ節転移が1~3個で再発スコアが25以下の閉経前の女性の場合は、術後化学療法を検討すべきです。この群では、化学療法により無浸潤疾患生存率が5%改善しました」とKalinsky氏は述べた。

この臨床試験では、1~3個の腋窩リンパ節転移を有するステージ2~3の乳がんで、組織検査による再発スコアが25以下の患者5,083人が、ホルモン療法単独、またはホルモン療法+化学療法に、無作為に割り付けられた(1:1)。患者の約3分の2が閉経後であった。データは、再発スコア(0-13対14-25)、閉経状態、腋窩リンパ節郭清対センチネルリンパ節生検、により層別化された。

再発スコアは0~100の範囲であり、オンコタイプDX(Oncotype Dx)検査を用いて決定した。この検査は、(16のがん関連遺伝子を評価することにより)早期浸潤性乳がんに対し、ゲノムに基づいた個別リスク評価を提示する。

この試験は、化学療法を受けた場合と化学療法を受けなかった場合とを比較して、無浸潤疾患生存期間が再発スコアと関連するかを評価することを目的とした。閉経前と閉経後の女性どちらも含む全体集団を評価したところ、化学療法の有益性と、再発スコアが0-25であることに関連は認められなかった。

しかし、化学療法の有益性と、閉経の状態には有意な関連が認められたため、閉経の状態別にさらにデータ解析を行った。

再発スコアが25以下の閉経後の患者において、5年無浸潤疾患生存率(5-year IDFS)は、化学療法を受けた患者と受けなかった患者とでは差はなかった(それぞれ91.6% 対 91.9%)。

再発スコアが25以下の閉経前の患者において、5年無浸潤疾患生存率は、化学療法を受けた患者では94.2%であったのに対し、化学療法を受けなかった患者では89%であった。また、評価時のイベント数が限られていたため、この結果は途中のものであるが、閉経前の患者では53%の生存率の有益性も示された。閉経前の女性では、再発スコアが0~13と再発スコア14~25とで、結果は同様であった。

「リンパ節転移陽性の乳がんである閉経前の患者さんでは、もっとも効果的な術後ホルモン療法は、アロマターゼ阻害薬を併用した卵巣機能の抑制であることが別の試験からわかっています。化学療法が卵巣機能抑制を誘発し、それが閉経前の女性では永久的となることが多いこともわかっています」とKalinsky氏は説明する。

この試験における閉経前女性のうち、卵巣機能抑制がみられたのは、ホルモン療法単独群では15.9%であったのに対し、ホルモン療法と化学療法併用群では3.7%であった。「この試験で観察された化学療法の効果が、化学療法に誘発された閉経によるものであるかどうかは、まだわかりません」と、Kalinsky氏は述べた。

「私たちは、予想される無浸潤疾患生存イベントの53.7%時点で報告しています。さらなる追跡調査のデータが収集され次第、試験の最新情報を報告していきます」と同氏は述べた。

この試験の限界として、これらのデータは中間解析であることが挙げられる。Kalinsky氏によれば、今後の研究で、サブセットデータの追加解析や、継続的な追跡調査のための時間を確保することが可能になるという。

この試験は、米国国立がん研究所(NCI)、一部はSusan G. Komen for the Cure Research Program、がん研究のためのホープ財団、乳がん研究財団、およびExact Sciencesからの研究支援を受けている。

Kalinsky氏は、Immunomedics、 Novartis、 Incyte、 Genentech/Roche、 Eli Lilly、 Pfizer、 Calithera Biosciences、 Acetylon、 Seattle Genetics、 Amgen、 Zentalis Pharmaceuticals、 CytomX Therapeuticsから研究支援を受けており、Immunomedics、 Biotheranostics、 Pfizer、 Novartis、 Eisai、 Eli Lilly、 Amgen、 Merck、 Seattle Genetics、 Astra Zenecaのコンサルタントを務めた。

翻訳担当者 平沢沙枝

監修 原文堅(乳がん/がん研究会有明病院 乳腺センター 乳腺内科)

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