乳がんサバイバーは妊娠する可能性は低いが、健常児を産み長期にわたり健康状態が良好

大規模メタ解析により、出産可能年齢の乳がんサバイバーが妊娠する可能性は一般の人々に比べて低く、早産などの特定の合併症のリスクが高いことが示された。しかし、妊娠したサバイバーのほとんどは健常児を出産しており、長期生存に悪影響が及ぶことはないという。12月8-11日に開催された2020年サンアントニオ乳がんシンポジウムで発表された。

「より効果的ながん治療が可能になったことで、治療後の生活のあり方はかなりの注目を集めている。今日、がんの診断と治療を受けた後に通常の生活に戻ることは、がん治療において非常に重要な目標とみなされるべきである。生殖可能な年齢でがんと診断された患者では、この目標に家族計画を達成できるかどうかも含まれている」と、本研究の責任著者で、イタリア、ジェノバにあるジェノバ大学IRCCS Policlinico San Martino病院の腫瘍内科学非常勤教授であるMatteo Lambertini医学博士は述べた。

妊娠する平均年齢が徐々に上昇するにつれ、女性が子供を出産する前に乳がんと診断されることが多くなっている。またLambertini氏は、乳がんの死亡率低下に成功した抗がん剤の多くは、妊よう性や将来の家族計画を損ねる可能性など、長期的な毒性を体に及ぼす可能性があると説明した。例えば、ホルモン受容体陽性乳がんと診断された女性に処方される補助内分泌療法(ホルモン療法)は、診断後5年から10年間行われ、この治療期間中の妊娠は避ける必要がある。

本研究では、乳がんと診断された後に妊娠した女性を対象とした39件の研究について系統的文献レビューを行った。研究者らは、これらの研究を解析し、対象患者における治療後の妊娠の頻度、胎児への影響、産科的転帰、無病生存期間、および全生存期間を評価した。全体で114,573人の乳がん患者に関するデータが収集された。

一般集団の女性と比較して、乳がんを経験した患者は、妊娠する確率が60%低下していた。この研究では妊娠を試みた女性の総数を把握していなかったため、治療終了後に妊娠を試みなかった女性もいる可能性がある、とLambertini氏は説明した。解析対象となった研究の中にはそうしたデータを報告しているものもあり、妊娠を試みたとされる若い女性のうち、半数以上が妊娠したとLambertini氏は推定した。また、妊娠するつもりがなかったが妊娠した女性もいた。この知見は、出産可能年齢のがん患者も避妊に関する正確な情報を得るべきであることを示唆しているとLambertini氏 は述べた。

この研究から、一般集団の女性と比較して、乳がんサバイバーは低出生体重児を産むリスクが50%、在胎週数に比べて低体重の児を産むリスクが16%、早産のリスクが45%、帝王切開となるリスクが14%、それぞれ高いことがわかった。

しかし、重視すべきことに、先天性欠損症やその他の妊娠または分娩にともなう合併症のリスクの有意な増加は認められなかった。低出生体重児および在胎週数に比べて低体重の児を産むリスクが増加したのは、主に化学療法治療歴のある女性に限定されているようであった。

乳がん後の妊娠は、患者の転帰不良とは関連していなかった。乳がん後に妊娠しなかった乳がん患者と比較して、妊娠した患者では死亡リスクが44%低下し、疾患再発リスクが27%低下した。健康で予後が良好な女性こそが妊娠を試みる可能性が最も高いことを示唆する「健康な母親たる効果」を補正すると、妊娠した女性は死亡のリスクが48%低下し、病気の再発のリスクが26%低下していた。

解析ではさらに、BRCAの状態、結節の状態、化学療法治療歴、妊娠間隔(乳がんの診断から妊娠までの期間)、および妊娠の転帰も鑑みたうえで、妊娠は安全であると考えられることが示された。

全体として、今回の解析により乳がん後の妊娠は、患者の予後に悪影響を及ぼすことなく安全であることが確認されたとLambertini氏は述べた。「これらの知見の最も重要な点は、がん治療後の生活指導計画の重要な要素として、患者の妊娠願望をより深く考慮することの必要性への認識を高めたことである 」と述べている。これは、新たに診断された若い乳がん患者全員にがんと生殖に関するカウンセリングを提供することから始まる、と同氏は述べている。

妊娠中の乳がんサバイバーは、一般集団の健常な妊娠女性と比較して出産と胎児における合併症のリスクがより高いことから、医師はより密に経過観察をする必要がある、と本研究の筆頭著者であり、IRCCS Policlinico San Martino病院腫瘍学フェローのEva Blondeaux医師は述べた。しかし、全体的な知見と生存期間への悪影響がないことから、多くの女性が乳がん後の妊娠に成功する可能性が示されている。

著者らは、この研究の主な限界は、個々の患者データの精査ができなかったことと、対象となった研究のほとんどが後ろ向き解析であったこと、と述べている。

この研究は、イタリア保健省(5×1000助成)とイタリアがん研究協会(AIRC)によって資金提供された。

翻訳担当者 青葉かお里

監修 喜多川 亮(産婦人科/総合守谷第一病院 産婦人科)

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