トリプルネガティブ乳癌に対するPARP阻害剤の有効性が第3相試験で認められず

キャンサーコンサルタンツ

第3相臨床試験において、化学療法に加えてPARP阻害剤イニパリブを併用した転移性トリプルネガティブ乳癌女性患者において転帰改善はなかった。この結果は先の第2相臨床試験の結果と異なるもので、2011年度米国臨床腫瘍学会年次集会において発表された。

乳癌の中でも、エストロゲン受容体陰性、プロゲステロン受容体陰性、HER2陰性のものは、トリプルネガティブ乳癌と呼ばれ、他の乳癌に比べ、より侵襲性が高い傾向があり、治療においても手立てが少ない。

イニパリブはPARP阻害剤と呼ばれる薬剤に分類される。PARP酵素は、化学療法による損傷DNAの修復を含め、DNA修復の段階において活性を示す。この酵素を阻害する薬剤は癌細胞の死滅や化学療法に対する感受性を上げることに効果を発揮すると考えられる。トリプルネガティブ乳癌は多くの場合DNA修復に異常があると考えられている事から、トリプルネガティブ乳癌は特にPARP阻害の影響を受けやすい可能性があるとの仮説を研究者らは立てている。

第2相臨床試験は、イニパリブはまさにトリプルネガティブ乳癌に対する新しい有効な治療の手立てになるだろうという希望を示すものであった。2011年はじめNew England Journal of Medicine誌において発表されたこの結果は、ジェムザール(ゲムシタビン)とカルボプラチンによる化学療法に加えてイニパリブを併用することによって癌の進行が遅くなり、また全生存期間の改善を示唆するものであった[1]。化学療法単独治療女性患者と化学療法+イニパリブ併用治療女性患者の全生存期間中央値はそれぞれ7.7カ月と12.3カ月であった。

しかし、その後の第3相試験ではその効果はみられなかった。第2相試験123人に対し、第3相試験ではより多い519人の女性が参加し、転移性トリプルネガティブ乳癌治療の目的において再度化学療法単独治療と化学療法+イニパリブ併用治療の比較を行った。2011年度米国臨床腫瘍学会年次集会において発表された結果によると、イニパリブ併用による全生存期間あるいは無増悪生存期間の有意な改善はなかった[2]。

第3相試験の結果は非常に残念なものであったが、別の治療法を行って癌が進行(悪化)した女性に対してはイニパリブは依然有益である可能性が残っている。研究者は、本治療法が奏効を示す特定の女性集団がいるかどうかについて引き続き研究を行っている。

参考文献:

[1] O’Shaughnessy J, Osborne C, Pippen JE et al. Iniparib plus chemotherapy in metastatic triple-negative breast cancer. New England Journal of Medicine. 2011;364:205-214.

[2] O’Shaughnessy J, Schwartzberg LS, Danso MA et al. A randomized phase III study of iniparib (BSI-201) in combination with gemcitabine/carboplatin (G/C) in metastatic triple-negative breast cancer (TNBC). Presented at the 2011 annual meeting of the American Society of Clinical Oncology. Chicago, IL. June 3-7, 2011. Abstract 1007.


  c1998- CancerConsultants.comAll Rights Reserved.
These materials may discuss uses and dosages for therapeutic products that have not been approved by the United States Food and Drug Administration. All readers should verify all information and data before administering any drug, therapy or treatment discussed herein. Neither the editors nor the publisher accepts any responsibility for the accuracy of the information or consequences from the use or misuse of the information contained herein.
Cancer Consultants, Inc. and its affiliates have no association with Cancer Info Translation References and the content translated by Cancer Info Translation References has not been reviewed by Cancer Consultants, Inc.
本資料は米国食品医薬品局の承認を受けていない治療製品の使用と投薬について記載されていることがあります。全読者はここで論じられている薬物の投与、治療、処置を実施する前に、すべての情報とデータの確認をしてください。編集者、出版者のいずれも、情報の正確性および、ここにある情報の使用や誤使用による結果に関して一切の責任を負いません。
Cancer Consultants, Inc.およびその関連サイトは、『海外癌医療情報リファレンス』とは無関係であり、『海外癌医療情報リファレンス』によって翻訳された内容はCancer Consultants, Inc.による検閲はなされていません。

翻訳担当者 金井 太郎

監修 原 文堅 (乳腺科/四国がんセンター)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

乳がんリスク評価ツールの仕組みの画像

乳がんリスク評価ツールの仕組み

2024年3月、女優のオリヴィア・マン(Olivia Munn)が乳がんと診断されたことを発表した。Munnさんはまた、がんリスク評価ツールが彼女の診断に至る過程で果たした役割を強調し...
ハイリスク遺伝子を有する若年乳がんサバイバーの生殖補助医療は安全の画像

ハイリスク遺伝子を有する若年乳がんサバイバーの生殖補助医療は安全

ハイリスク遺伝子があり、乳がん後に妊娠した若い女性を対象とした初の世界的研究によれば、生殖補助医療(ART)は安全であり、乳がん再発リスクは上昇しないハイリスク遺伝子があり、乳...
【ASCO2024年次総会】T-DXd(エンハーツ)がホルモン療法歴のある乳がん患者の無増悪生存期間を有意に改善の画像

【ASCO2024年次総会】T-DXd(エンハーツ)がホルモン療法歴のある乳がん患者の無増悪生存期間を有意に改善

ASCOの見解(引用)「抗体薬物複合体(ADC)は、乳がん治療において有望で有益な分野であり、治療パラダイムにおける役割はますます大きくなっています。トラスツズマブ デルクステ...
【ASCO2024年次総会】若年乳がん患者のほとんどが治療後に妊娠・出産可能の画像

【ASCO2024年次総会】若年乳がん患者のほとんどが治療後に妊娠・出産可能

ASCOの見解(引用)「乳がんの治療後も、妊娠や出産が可能であるだけでなく安全でもあることが、データが進化するにつれて次々と証明されてきています。この研究では、妊娠を試みた乳が...