アベマシクリブとホルモン療法の併用で、若年性ハイリスク乳がんの再発を抑制:ESMO 2020

ホルモン受容体陽性(HR+)およびヒト上皮成長因子受容体2陰性(HER2-)の若年性ハイリスク乳がん患者において、ホルモン療法にabemaciclib[アベマシクリブ](販売名:ベージニオ)を追加することで、がんの再発リスクが25%減少することが2020年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO) で発表された試験結果により明らかになった。(1)

筆頭著者である英国ロンドンのRoyal Marsden Hospital NHS Foundation TrustのStephen Johnston教授は、「若年性ハイリスク乳がん患者の術後治療に進展が見られたのは、ここ20年以上の間で初めてのことである」と述べた。同氏は、ホルモン受容体陽性乳がんは乳がんの中で最も多く、その割合は乳がん患者の70%であり、そのほとんどが若年時に診断されていると説明した。

「これらの患者のほとんどは、手術、放射線治療、化学療法、ホルモン治療など、現在利用可能な治療法で治癒可能である。しかし、約20%は高リスクの疾患であるため、治療後の最初の10年間に乳房内の局所または乳房外の遠隔部位のいずれかに再発を来たし得る」と Johnston教授は述べた。

「これらの若年性ハイリスク乳がん患者は、ホルモン療法に対して一定の抵抗性を示し、現在私達が実施可能なすべての治療を行っても早期に再発する」とJohnston教授は述べた。「アベマシクリブのようなCDK4/6阻害剤は、おもにホルモン抵抗性を克服し、さらに生存期間の改善をもたらすことから、ここ数年にわたって、これまで私達が実施していた転移性乳がんの治療方法に変化が起きている。そのため当然のステップとして、若年性ハイリスク乳がん患者に対するホルモン治療について、アベマシクリブを追加することで、がんの再発リスクが下がるかどうかが検討された」。

国際的な第3相試験であるmonarchE試験には、再発のリスクが高い臨床的危険因子および病理学的危険因子のいずれかまたは両方を有するHR+ HER2-の若年性乳がん患者5637人が登録された。患者は治療終了後に非盲検下で、アベマシクリブ(150mg/日を1日2回に分けて2年間投与)+ホルモン療法、またはホルモン療法のみのいずれかに無作為に割り付けられた。

「ホルモン療法にアベマシクリブを追加した場合、最初の2年間のがんの再発率は、ホルモン療法のみの場合と比較して25%減少した」とJohnston教授は報告した。最初の2年間がんの再発率は、ホルモン療法のみの群では11.3%であったのに対して、アベマシクリブ+ホルモン療法群では7.8%であった。再発率の差(絶対値)は3.5%であり、これはアベマシクリブ+ホルモン療法群では再発リスクが25.3%減少したことを意味する。再発リスクの減少は、遠隔転移部位で多く認められ、特に肝臓および骨で多く認められた。

「本試験は、術後療法において、ホルモン療法に CDK4/6 阻害剤を追加することで、浸潤癌無病生存期間が有意に改善することを示した初めての試験である」と、イタリア・ミラノ大学医学部腫瘍学准教授で ESMO ガイドライン委員会(Guidelines Committee)の委員長である Giuseppe Curigliano 氏は述べた。

「本試験は非常に重要な試験であり、本試験の結果は実臨床での治療に変化をもたらすであろう。また、HR+ HER2-のハイリスクの若年性乳がんに対する治療薬としてアベマシクリブが承認されれば、ホルモン療法に加えて 2 年間アベマシクリブ を投与することがこれらの患者に対する新たな標準治療になるであろう」と、Curigliano氏は述べた。

Curigliano氏は、高リスクの患者の評価に転移陽性のリンパ節数、腫瘍径、組織学的グレード、Ki-67(増殖のマーカー)に加えて、遺伝学的特性を含めることは興味深いことであったであろうと述べた。Johnston教授は、ゲノムの特徴やアベマシクリブに対する反応などを検討するトランスレーショナル・リサーチのために、試験に参加したすべての患者から組織と血漿検体を採取したと述べた。

Curigliano氏は、「安全性データは重要である。副作用によりアベマシクリブの投与を中止または減量した患者数が特に重要である」と述べた。有害事象(おもに下痢)によりアベマシクリブの投与を中止した患者は463人(16.6%)であり、このうち306人の患者はホルモン療法を継続していた。試験実施計画書では、150mg/日(2回に分けて投与)を必要に応じて100mg/日(2回に分けて投与)に減量することが認められていた。また、Curigliano氏は「本治療法が承認され、臨床で使用されるようになった場合、実際の患者さんの生活において、治療へのアドヒアランス(治療遵守)が考慮すべき重要な問題となるであろう」と述べた。

さらに、Curigliano氏は、「将来的には、CDK4/6阻害剤による治療を受けた患者集団で、化学療法を行わないという選択肢があるかどうかを検討することが重要となるであろう。この検討にはランダム化比較試験を実施する必要がある」と述べた。

参考文献

  1. Abstract LBA5_PR ‘Abemaciclib in high risk early breast cancer’ will be presented by Stephen Johnston in the Presidential Symposium II on Sunday, 20 September 2020, 18:30 – 20:25 CEST. Annals of Oncology, Volume 31 Supplement 4, September 2020.
    The study will be published simultaneously in the Journal of Clinical Oncology, ‘Abemaciclib combined with endocrine therapy for the adjuvant treatment of HR+, HER2-, node-positive, high risk, early breast cancer (monarchE)’, DOI: 10.1200/JCO.20.02514, https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.20.02514

翻訳担当者 伊藤友美

監修 尾崎由記範(腫瘍内科・乳腺/がん研究会有明病院 乳腺センター 乳腺内科)

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原文掲載日 

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