ラパチニブ(Tykerb)とカペシタビンの併用はHer2陽性乳癌の進行を遅らせる
米国国立がん研究所(NCI)臨床試験結果
Lapatinib (Tykerb®) Plus Capecitabine Delays Progression of HER2-Positive Breast Cancer
2006年American Society of Clinical Oncology(ASCO)で発表された研究によると、カペシタビンと試験段階の標的治療薬ラパチニブの併用は、トラスツズマブ(ハーセプチン®)治療後進行した進行乳癌患者において、カペシタビン単独に比べてほぼ2倍の期間乳癌の進行を遅らせた。
要約
trastuzumab(トラスツズマブ)(ハーセプチン®)による治療後に腫瘍の増殖がみられた進行乳癌患者において、capecitabine(カペシタビン)と治験中の分子標的薬剤lapatinib(Tykerb®)の併用療法は、capecitabine単独の治療と比べ、乳癌の進行をほぼ2倍も遅くする。
出典 2006年6月3日、ジョージア州、アトランタ米国臨床腫瘍学会年次総会
背景
20〜25%の乳癌は通常の乳腺細胞によって作られるHER2と呼ばれるタンパク質を過剰に生産します(過剰発現)。 HER2を過剰発現する(HER2陽性)腫瘍は、増殖が速い傾向があり、このタンパク質を過剰生産しない腫瘍より再発の可能性が高くなります。
1998年以来、薬剤トラスツズマブ(ハーセプチン®)は、他の臓器まで転移したHER2陽性の乳癌を治療するのに用いられています。トラスツズマブは、このタンパク質の乳癌細胞の外側にある部分と結合することにより、HER2活性を阻害します。しかし、多くのHER2陽性進行乳癌患者は、しだいにトラスツズマブ療法による効果がなくなるので、新しい治療が必要となります。
Lapatinibラパチニブ(Tykerb®)は、トラスツズマブのような、HER2タンパク質の活性を阻害する治験薬ですが、その阻害は異なるメカニズムで行われます。ラパチニブは、このタンパク質の乳癌細胞内にある部分と結合します。
試験
合計392人のHER2陽性の進行乳癌患者が、この国際第3相臨床試験に登録されました。患者全員は、トラスツズマブによる治療後に、再び腫瘍の進行が始まっていました。患者は、カペシタビン単独、またはラパチニブとカペシタビンの併用投与を受けるよう無作為に割付けられました。カペシタビンは、前治療にもかかわらず増殖を続ける乳癌の治療薬として、米国食品医薬品局から承認を得ています。
研究者らは2つの患者グループで腫瘍が再増殖を始める期間を比較しました。本研究の筆頭著者は、ペンシルバニア州ピッツバーグにあるアレガニー総合病院のCharles E. Geyer, Jr医師でした。
本研究の結果は、2006年3月に試験をモニターしている独立委員会が早めに試験を終わらせ、カペシタビン単独群の患者をラパチニブ併用レジメンへ変更するよう提案したように、非常に説得力のあるものでした。
結果
試験が中止された時点で、392人の患者中、321人のデータが解析可能でした。ラパチニブとカペシタビンで治療された患者(161人)における、進行までの期間の中央値8.5ヵ月と比較し、カペシタビン単独で治療された患者(160人)の進行までの期間の中央値は4.5ヵ月で、統計学的に有意な所見でした。
ラパチニブ投与を受けた患者では、脳への再発はより低頻度でした。 ラパチニブで治療された女性は軽度から中度の下痢、および手と足の圧痛と知覚過敏で特徴付けられる「手足症候群」をやや多く発症しました。他の副作用に関しては、2つのグループで類似していました。
トラスツズマブの投与を受けた患者の一部は心臓疾患を発症しました(HER2は、通常の心筋や筋細胞でも作られます。) したがって、ラパチニブ投与を受けたの全ての患者は心臓の異常を詳しくモニターされました。ラパチニブグループの161人の患者のうちの4人は、軽度の心臓疾患を発症しましたが、治療の中断により消失しました。心臓疾患によって、試験を中止された患者はいませんでした。
制限事項
ラパチニブレジメンがカペシタビン単独治療より、病気の進行を遅らせることができるといっても、その組合せが実際に患者の延命に寄与するという意味ではありません。本試験が倫理的な理由で早期に中止されたので、追跡期間が総生存期間の違いを判断するには短すぎたと、Geyer医師は言っています。カペシタビン単独グループの多くの患者が現在はラパチニブとカペシタビンの併用治療に変更されているので、より長い追跡をしても、併用療法が生存期間を延長するかどうか評価するのは難しいだろうと彼は指摘しています。
コメント
「カペシタビンとラパチニブの併用は、HER2陽性の進行乳癌のための効果的な新しいレジメンです」と、Geyer医師は述べました。彼は、ラパチニブとカペシタビンの併用は、トラスツズマブでの治療後、効果がなくなり進行したHER2陽性乳癌の女性のための新しい標準治療と考えられなければならないと付け加えました。ASCOでの講演中、観衆からの質問に答えて、Geyer医師は、「しかし、ラパチニブはまだ治験薬であって、トラスツズマブでの治療後に進行したHER2陽性の乳癌、または他のどんな適用に対しても米国食品医薬品局の承認を得ていません」と指摘しましたでした。
「これは、よいニュースです」と、Jo Anne Zujewski医師(国立癌研究所のCancer Therapy Evaluation Program)は述べています。「ラパチニブは、トラスツズマブ療法後に進行したHER2陽乳癌の女性にとって効果的な経口薬です。」
今後は、臨床試験で、ラパチニブとトラスツズマブを直接比較したり、2つの薬剤の組み合わせの有用性をテストすることが予定されています。
翻訳担当者 HAJI
監修 島村義樹(薬学)
原文掲載日
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