乳がん転移に免疫細胞の再プログラミングが関与

ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者らは、浸潤性乳がん細胞が免疫系を回避して身体の他の部位に転移する新たなメカニズムを発見したと報告した。このプロセスを標的とする治療法を開発できれば、転移を阻止または予防して、乳がんによる死亡を減らせるかもしれないという。

免疫細胞の一種であるナチュラルキラー(NK)細胞は、がん細胞に細胞死を誘導して転移を抑制することが知られている。しかし、それでも患者に転移が生じるため、がん細胞が逃れる方法があるはずである。本研究では、ジョンズホプキンス大学のAndrew Ewald博士の研究室に所属する腫瘍内科フェローで、筆頭著者のIsaac Chan医学博士が考案した新たな細胞培養法を用いて、NK細胞と浸潤性乳がん細胞との相互作用を実験室においてリアルタイムで観察した。観察によると、転移性乳がん細胞は、NK細胞を再プログラミングしてがん細胞を殺さず、むしろ転移を助けることが発見された。

2020年7月9日にJournal of Cell Biology誌で発表されたこの研究は、転移性乳がんマウスモデルにおいて再プログラミングのプロセスを逆転させる新たな免疫療法の戦略についても報告している。

「遠隔転移は乳がんによる死亡の主要因なので、転移がなぜ、どのようにして起こるかをより深く理解する必要があります」とChan博士は言う。「われわれの研究は、がん細胞が免疫系を取り込むための新たな戦略を特定しました。患者に生じるNK細胞の再プログラミングを予防または反転できれば、転移を阻止して、乳がんによる死亡率を低下させることが可能かもしれません」。

「われわれの研究は、NK細胞が遠隔転移プロセスを開始する細胞を選択的に標的とすることや、がん細胞が免疫系を騙して協力させる方法を明らかにしました」と、本研究の統括著者であり、ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターのがん浸潤・転移プログラムの共同責任者、同大学医学部の細胞生物学教授でもあるEwald博士は述べた。「この研究では、学際的ながん研究の威力にも注目が集まりました。遠隔転移を解明するために腫瘍内科学、細胞生物学、免疫学、医用生体工学の力がこのプロジェクトに結集されています。Elizabeth Jaffeeとの刺激的な協力関係があり、免疫学と免疫療法の研究に迅速に着手することができました」。

Elizabeth Jaffee医師は、ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンター副所長、Skip Viragh Center for Pancreas Cancer Clinical Research and Patient Careの共同責任者、ブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所のアソシエイトディレクター、Dana and Albert “Cubby” Broccoli腫瘍科教授を兼任している。

Ewald博士によると、ジョンズホプキンス大学の基礎生物医学研究所(Institute for Basic Biomedical Sciences)および遺伝医学研究所(Institute of Genetic Medicine)の医用生体工学教授Joel Bader博士と、Bader研究室のフェローであるHildur Knútsdóttir氏が開発した分子プロファイリングとコンピューター解析を利用することで、免疫細胞とがん細胞との疑わしい分子相互作用をすべてマッピングし、この情報伝達に関与していそうな分子を同定できた。

「予想したように、この抑制シグナルを遮断したところ、NK細胞は『善人』であり続け、がん細胞を排除し続けたのです」とEwald博士は述べた。「このアプローチが転移の成立を予防できるのではないかと興奮しています。同じアプローチで既存の転移巣に対する免疫応答も再活性化できないか試しています」。

研究者らは、このプロセスが他の種類のがんにもあてはまる可能性に言及している。NK細胞を標的とする免疫療法は、がんと闘うT細胞を刺激する既存の免疫療法と併用することもできるかもしれない。

Ewald博士、Chan博士、Bader博士、Knútsdóttir氏に加えて、本研究の共同研究者は以下のとおりである:Veena Padmanaban、Manisha Warrier、Juan Carlos Ramirez、Matthew Dunworth、Hao Zhang、Elizabeth Jaffee。

本研究は以下より助成を受けた:the Breast Cancer Research Foundation/Pink Agenda; Twisted Pink; Hope Scarves; the National Cancer Institute (grants U01CA217846, U54CA2101732; 3P30CA006973 and T32CA009071); the Breast Cancer Research Foundation/Conquer Cancer Young Investigator Award; the Jayne Koskinas Ted Giovanis Foundation for Health Policy; and the Breast Cancer Research Foundation。

ジョンズホプキンス大学医学部の指針によって、本研究に関連する利益相反を申告すべき著者はいない。

翻訳担当者 佐復純子

監修 高山吉永(分子生物学/北里大学医学部分子遺伝学)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

米国公衆衛生局長官がアルコールとがんリスクの関連について勧告の画像

米国公衆衛生局長官がアルコールとがんリスクの関連について勧告

米国保健福祉省(HHS)ニュースリリース飲酒は米国におけるがんの予防可能な原因の第3位本日(2025年1月3日付)、米国公衆衛生局長官Vivek Murthy氏は、飲酒とがんリ...
【SABCS24】乳がんctDNAによるニラパリブの再発予測:ZEST試験結果の画像

【SABCS24】乳がんctDNAによるニラパリブの再発予測:ZEST試験結果

ステージ1~3の乳がん患者において治療後のctDNA検出率が低かったため、研究を早期中止

循環腫瘍DNA(ctDNA)を有する患者における乳がん再発予防を目的とするニラパリブ(販売名:ゼ...
【SABCS24】CDK4/6阻害薬の追加はHR+/HER2+転移乳がんに有効の画像

【SABCS24】CDK4/6阻害薬の追加はHR+/HER2+転移乳がんに有効

「ダブルポジティブ」転移乳がん患者において、標準療法へのCDK 4/6阻害薬追加により、疾患が進行しない期間(無増悪期間)が有意に延長したことが、サンアントニオ乳がんシンポジウ...
【SABCS24】中リスク乳がん患者のほとんどは乳房切除後の胸壁照射を安全に回避できる可能性の画像

【SABCS24】中リスク乳がん患者のほとんどは乳房切除後の胸壁照射を安全に回避できる可能性


BIG 2-04 MRC SUPREMO臨床試験によると、中リスク乳がん患者は乳房切除後に胸壁照射(CWI)を受けても受けなくても、10年生存率は同程度であったという結果が、2024年...