膨張ストレスは乳がん細胞の増殖と遊走を促進
膨張ストレス(膨張応力)は、乳がん細胞に驚異的な影響を与える可能性があり、乳がんの危機的な進行につながる場合があることをアラバマ大学バーミンガム校の共同研究チームが明らかにした。
乳がん細胞の成長に伴い、腫瘍微小環境(TME)内の生体力学的な膨張ストレスが、腫瘍内圧の増大、腫瘍周辺部位の伸展、および間質内液の流量の変化を引き起こす。その結果、腫瘍細胞が急激に増殖し、浸潤や転移が促進される。また、生体力学的な膨張ストレスにより、がん細胞と免疫細胞との間の免疫応答に変化が起きる可能性もある。
アラバマ大学の研究者であるJoel Berry博士(医用生体工学科准教授)、Jessy Deshane博士(アラバマ大学医学部、呼吸器・アレルギー救急医学講座准教授)、Roy Koomullil博士(機械工学科准教授)、およびSelvarangan Ponnazhagan博士(病理学科教授)は、培養技術を用いて新たに三次元の乳がん模倣システムを作製した。
本システムは、生理学的関連性を有する細胞外マトリックス内において、腫瘍関連線維芽細胞、内皮細胞および免疫細胞の存在下における乳がん細胞の生体内増殖を再現したものである。研究者らは、生体力学的な膨張ストレスが乳がん細胞のプロテオームを大きく変化させ、エクソソームの産生を増強することを発見した。腫瘍細胞が分泌するエクソソームは、腫瘍微小環境におけるシグナル伝達に関与する細胞間メディエーターのひとつであり、現在は腫瘍進行の重要な制御因子として知られている。
本試験において、エクソソームは、腫瘍細胞の急激な増殖促進に直接関与することで、免疫抑制を誘導し、腫瘍微小環境における免疫細胞の極性を変化させた。さらに近年、研究者らは、in vivoで同所性乳腺腫瘍に生体力学的な膨張ストレスをリアルタイムで負荷する振動圧縮装置を開発した。本装置によって、エクソソームが介在する免疫抑制や腫瘍細胞の急激な増殖をマウスで観察することが可能となった。
エクソソームの遊走、免疫細胞による取込み、および免疫細胞の極性化による影響を新たな計算アルゴリズムに統合し、予備的解析を実施した。その結果、前癌原性イベントの発現の予測には、エクソソームの濃度の勾配と時間推移が重要であることが示され、これらの事象には生体力学的な膨張ストレス、腫瘍細胞からのエクソソームの放出、腫瘍微小環境における免疫細胞によるエクソソームの取込みおよび免疫細胞の分極が関連していた。
本試験は、論文「Mechanical strain induces phenotypic changes in breast cancer cells and promotes immunosuppression in the tumor microenvironment」(力学的なひずみが乳がん細胞の表現型の変化を誘導し、腫瘍微小環境での免疫抑制を促進する)としてLaboratory Investigation誌で公表されている。
共著者は、Berry博士、Deshane博士、Koomullil博士、Ponnazhagan博士の他、以下のとおり。Yong Wang, Kayla F. Goliwas, Paige E. Severino, Kenneth P. Hough, Derek Van Vessem, Hong Wang, Sultan Tousif and Andra R. Frost。
本試験は以下の支援を受けた。American Cancer Society Institutional Research Grant Award IRG-60-001-53-IRG, National Institutes of Health grants HL128502-01A1 and CA184770; a Breast Cancer Research Foundation of Alabama Collaboration Award, and a Research Foundation of Alabama Award。
Deshane博士とBerry博士はアラバマ大学O’Neal Comprehensiveがんセンターの科学者であり、Ponnazhagan博士は上級科学者である。
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