若年がん患者は生殖細胞に遺伝子変異を有する可能性

若年がん患者は生殖細胞遺伝子検査の恩恵を受ける可能性がある

若年で発症したがん(early-onset cancer、高齢での発症が多いがんを若齢で発症)を有する18~39歳の若年がん患者は、きわめて高い確率で生殖細胞に遺伝子変異が認められることが明らかになった。この試験結果は、6月22日から24日にオンラインで開催された米国がん学会(AACR)の年次総会IIで発表された。

生殖細胞に遺伝子変異を有し、若年で発症したがんを有する患者は、重複がんや他の合併症が認められるリスクが高いため、生殖細胞遺伝子検査の恩恵を受ける可能性がある。

スローンケタリング記念がんセンターの腫瘍医であるZsofia K. Stadler医師は、「すべてのがん患者のうち、若年がん患者(18~39歳でがんと診断された患者と定義)は約4%にすぎないが、彼らは特有の問題を抱えている」と述べた。また、「若年患者のがんが遺伝性のがん素因症候群によるものであるかどうかを特定することは、早期発見を目的にがん検査を頻繁に実施したり、新規がんの発症予防のためにリスク低減手術を実施したりするなど、臨床管理方法に大きな変更が生じる可能性があり、また、若い家族の性生活に影響を与える可能性もあるため、重要なことである」と述べた。

Stadler医師は、「若年で発症したがんを有する患者は、若いがん患者の中でも特有の性質を持つ集団である」と説明する。「肉腫、精巣がん、脳腫瘍などは若年層でより多くみられるがんであるが、乳がん、大腸がん、膵臓がん、腎臓がん、前立腺がん、卵巣がんなどは高齢者で多くみられるがんであり、これらのがんが若年層で発症することは非常にまれであり、その場合、われわれはそれらのがんを『若年で発症したがん(early-onset cancer)』と分類している」と述べた。

Stadler医師らは、スローンケタリング記念がんセンターで2015年から2019年の間にがんの診断を受けた若年がん患者1201人について、生殖細胞の変異の有無を調査した。次世代シークエンシングパネルを使用して発がん感受性と関連することが知られている最大88の遺伝子を解析するため、本調査ではMSK-IMPACTの生殖細胞遺伝子検査プロトコルを用いた。解析には、患者の血液検体から得られたDNAを用いた。

若年で発症したがんの患者は877人であり、よくみられたがん種は大腸がん、乳がん、腎臓がん、膵臓がん、卵巣がんであった。若年成人がん(young-adult cancer)の患者は324人であり、よくみられたがん種は肉腫、脳腫瘍、精巣がん、甲状腺がんであった。

若年で発症したがんを有する患者の21%、若年成人がん患者の13%が遺伝子変異を有していた。

若年で発症したがんを有する患者において遺伝子変異の割合が高かったがん種は、膵臓がん、乳がん、腎臓がんであり、変異がよくみられた遺伝子は、BRCA1、BRCA2、ATM、CHEK2、およびリンチ症候群関連遺伝子であった。若年成人がん患者では、生殖細胞にTP53変異が多くみられ、この結果は、肉腫などの小児がんに関連する症候群であるリーフラウメニ症候群での結果と一致する。

Stadler医師は、「本試験により、若年がん患者の遺伝子変異が一様ではないことが明らかになった」と述べた。また、「生殖細胞にみられる特有の遺伝子変異は、早期に発症したがんを有する患者でみられる変異と高齢がん患者でみられる変異が類似していることを示しているようにみえるが、変異の割合は若年で発症したがんを有する患者で高かった。若年成人がん患者では、遺伝子変異は、われわれが日常診療で遭遇する小児がん患者でみられる変異とより類似していた」。

さらに、Stadler医師は、「若年で発症したがんを有する若年がん患者では、がん治療、長期的モニタリング、および家族のリスクに重要な影響を及ぼす遺伝子変異を検出できる可能性が高いため、生殖細胞遺伝子検査を受けるべきである」と述べた。

本試験では、血液検体のDNAを用いた生殖細胞遺伝子変異の解析に加えて、これらの患者の腫瘍検体のDNAを用いたシークエンスデータの解析も行っている。本解析により、がんと診断された患者のがんが、生殖細胞の遺伝子変異によって引き起こされたものであるかどうかを判断することができる、とStadler医師は述べた。

本試験は、第三次がんセンターの1施設のみで実施された試験であることから、結果の解釈には限界がある。したがって、一般集団の若年者よりも、本試験におけるいくつかのがん種の発症率は過大または過少評価されている可能性がある、とStadler医師は述べた。本試験では固形がんのみを対象としたため、血液がんを有する若年患者の遺伝的リスクについては評価していない。

本試験は、スローンケタリング記念がんセンターにある以下の機関より一部資金提供を受けている。the Precision, Interception, and Prevention Program; the Marie-Josée and Henry R. Kravis Center for Molecular Oncology; and the Robert and Kate Niehaus Center for Inherited Cancer Genomics。また、Stadler医師の直系の家族は、以下の企業において、眼科のコンサルティングとアドバイザーの役割を担っている。Allergan, Adverum Biotechnologies, Alimera Sciences, BioMarin, Fortress Biotech, Genentech/Roche, Novartis, Optos, Regeneron, Regenxbio, and Spark Therapeutics。

翻訳担当者 伊藤友美

監修 尾崎由記範(腫瘍内科・乳腺/がん研究会有明病院 乳腺センター 乳腺内科)

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