オラパリブは乳がんや卵巣がん以外に、進行前立腺がんにも有効
一部の乳がんおよび卵巣がんに対して承認されている治療薬が、一部の進行前立腺がんに効果があることが明らかになった。
分子標的薬オラパリブ(販売名:リムパーザ)は、一部の前立腺がんにみられる、損傷を受けたDNAを修復する機能の弱点を利用する。
BRCAなどのDNA修復に関連する遺伝子に変異を有する一部の前立腺がん患者には、この分子標的薬による治療はホルモン治療よりも効果的にがんの増殖を抑制する可能性が明らかになった。最新の結果は、New England Journal of Medicine誌に掲載された。
キャンサーリサーチUKからの資金提供を受ける前立腺がん専門家Nick James教授は、 この試験の結果は、「多くの悪いニュースの中の良いニュース」であると言う。
「この論文は、現在は適応外の新しい治療薬の使用について、BRCAまたは他のDNA修復機能不全の前立腺がん患者を分子的に選択できる可能性を示しています。無増悪生存期間、全生存期間共に臨床的に有意な延長が認められました」- Nick James教授、前立腺がん専門家
前立腺がんの弱点を標的に
オラパリブはPARP阻害剤の一種で、DNA修復関連遺伝子に変異を有するがん細胞を特異的に標的にして作用する。
BRCAおよび他のDNA修復関連遺伝子の変異を標的とするPARP阻害剤は、乳がんや卵巣がんの治療法として確立している。
「しかし、BRCA遺伝子の変異は男性においても前立腺がんのリスクを高め、おそらくは予後が悪い傾向があるようです」とJames教授は続ける。
研究者らは、ホルモン療法による効果が得られなくなった、または効果がなかった前立腺がん患者を対象に、オラパリブの有効性を評価した。
英国がん研究所とRoyal Marsden NHS Foundation Trustの研究チームは、ホルモン療法による効果が得られなくなった、または効果がなかった転移のある前立腺がん患者387人を対象とした臨床試験で、オラパリブの有効性を評価した。
患者は、オラパリブ療法群、またはアビラテロンかエンザルタミドのいずれかのホルモン療法群に無作為に割り付けられた。対照群の患者がどちらのホルモン治療薬を内服するかは、前治療のホルモン療法によって決定された(アビラテロンを服用していた患者はエンザルタミドへ、エンザルタミドを服用していた患者はアビラテロンへ移行)。
前立腺がんが増悪してしまった患者においてはこうしたクロスオーバーの有効性は確認されておらず、英国医療サービス(NHS)では通常行われていない。
進行を遅らせる
研究者らは、DNA修復関連遺伝子の変異を標的とするオラパリブは、疾患の進行を有意に遅らせることを発見した。
BRCA1、BRCA2、またはATM遺伝子の変異を有する前立腺がんの患者で最も有効であり、この患者群の無増悪生存期間は、エンザルタミドまたはアビラテロン投与群では3.6カ月であったのに対し、オラパリブ投与群では7.4カ月へと延長した。
あらかじめ選択された、その他のDNA修復に関連する12の遺伝子のいずれかに変異があった患者でも、オラパリブの投与による効果が見られた。
臨床試験開始時にホルモン療法から開始した患者の80%以上が病勢進行により最終的にオラパリブ投与へと移行したにも関わらず、BRCA1、BRCA2、ATM遺伝子の変異を有する患者では、アビラテロンまたはエンザルタミドを投与された対照群の全生存期間は15カ月であったのに対し、オラパリブ投与群では平均19カ月へと延長した。
「対照群のほとんどの患者が最終的にPARP阻害剤へクロスオーバーしているにも関わらず、オラパリブ投与群の生存期間が有意に延長していることは、非常に重要な点です」 とJames教授は述べている。
全生存率の有意な改善を確定するには、長期の追跡調査が必要である。
今後の展開
研究者らは、英国医療サービスにおいて、DNA修復関連遺伝子の変異を有する患者に、オラパリブが選択肢となることを期待している。
英国がん研究所でこの研究を共同で主導したJohann de Bono教授は、次のように述べる。「すでに卵巣がんや乳がんの多くの女性を延命している薬剤が、前立腺がんにも明らかな有効性を示したことは喜ばしいことです。この薬が、英国医療サービスの男性患者さんに届けられるようになるのが待ち遠しいです。願わくばこの1~2年の間に」
「次は、オラパリブと他の治療法を組み合わせることによって、DNA修復関連遺伝子に変異のある前立腺がん患者の生存期間がさらに延長できるかを検証する予定です」
参考文献
de Bono JS et al., (2020) Olaparib for Metastatic Castration-Resistant Prostate Cancer. New England Journal of Medicine. DOI: 10.1056/NEJMoa1911440
原文掲載日
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