FDAがHER2陽性転移乳がんにツカチニブを承認

2020年4月17日、米国食品医薬品局(FDA)は、転移を伴う乳がんに対して1レジメン以上の抗HER2療法を受けた切除不能であり進行または転移HER2陽性乳がん成人患者(脳転移を有する患者を含む)の治療としてtucatinib[ツカチニブ](販売名:TUKYSA、Seattle Genetics Inc.社)とトラスツズマブ+カペシタビンの併用を承認した。

本審査は、FDA Oncology Center of Excellenceが主導するプロジェクトOrbisのもとで行われた。プロジェクトOrbisは、国際的なパートナー間での抗がん剤の同時申請および審査を可能とする枠組みを提供している。米国FDA、オーストラリア医薬品行政局、カナダ保健省、シンガポール保健科学庁およびスイス医薬品局(Swissmedic)が共同で審査を行った。FDAは本日ツカチニブを承認した。一方、他の機関においては現在審査中である。

有効性はトラスツズマブ、ペルツズマブ、およびトラスツズマブ エムタンシンによる治療歴を有するHER2陽性転移乳がん患者612人を対象に行われたHER2CLIMB試験(NCT02614794)において認められた。患者はツカチニブ300 mgを1日2回+トラスツズマブ+カペシタビン(ツカチニブ群、410人)またはプラセボ+トラスツズマブ+カペシタビン(対照群、202人)の投与を受けた。

主要評価項目は、盲検下での独立中央判定による無増悪生存期間(PFS)であり、評価はランダム化された最初の480人を対象に行った。PFSの中央値は、ツカチニブ群では7.8カ月(95%信頼区間[CI]:7.5~9.6)であったのに対し、対照群では5.6カ月(95% CI:4.2~7.1)であった(ハザード比[HR]0.54、95% CI:0.42~0.71、p<0.00001)。

その他の有効性評価項目は、全生存期間(OS)、脳転移の既往を有するまたは脳転移を有する患者における無増悪生存期間(PFS)、確定奏効率(ORR)であり、ランダム化された全患者において評価した。

OSの中央値は、ツカチニブ群では21.9カ月(95%CI:18.3~31.0)であったのに対し、対照群では17.4カ月(95% CI:13.6~19.9)であった(HR:0.66、95% CI:0.50~0.87、p=0.00480)。ベースラインにて脳転移を有する患者のPFS中央値は、ツカチニブ群7.6カ月(95% CI:6.2~9.5)、対照群5.4カ月(95% CI:4.1~5.7)であった(HR:0.48、95% CI:0.34~0.69、p<0.00001)。

測定可能な病変を有する患者における確定奏効率(ORR)は、ツカチニブ群と対照群でそれぞれ40.6%(95% CI:35.3~46.0)、22.8%(95% CI:16.7~29.8)であった(p=0.00008)。

最もよくみられた副作用(患者の20%以上)は、下痢、手足症候群、悪心、疲労、肝毒性、嘔吐、口内炎、食欲減退、腹痛、頭痛、貧血、および発疹であった。また、ツカチニブは重度の下痢および肝毒性を引き起こす可能性がある。

ツカチニブの推奨用量は、300mgを1日2回の経口投与である。トラスツズマブ(標準用量)+カペシタビン(21日を1サイクルとして、1日目から14日目に1000mg/m2を1日2回経口投与)を併用し、疾患進行または許容できない毒性が認められるまで投与する。

TUKYSAの全処方情報はこちらを参照。

本審査にはReal-Time Oncology Review(RTOR)パイロットプログラムおよびAssessment Aidが用いられた。Assessment Aidは、FDAによる評価の促進を目的として申請者から自発的に提出されるものである。本申請は、FDAの目標期日の4カ月前に承認された。

FDAはツカチニブをオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)、ファーストトラック、および画期的治療薬に指定した。FDAの迅速承認プログラムに関する情報は、企業向けガイダンス「重篤疾患のための迅速承認プログラム―医薬品およびバイオ医薬品」(Guidance for Industry: Expedited Programs for Serious Conditions-Drugs and Biologics)に記載されている。

翻訳担当者 小畑オーエンズ

監修 原 文堅(乳がん/がん研有明病院 乳腺センター 乳腺内科)

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